第2話「初練習」
南東京高校サッカー部
創部20年と割と新しいチーム。
部員数は45名程度。各学年15名ほど。
昨年の東京都大会ベスト16の成績を修めている。
「気合いれろ」
「はい!!!」
「走り切れ」
「はい!!!!!!!」
生徒たちの声がグラウンドに響き渡る。
ウォーミングアップからこの熱量。
さすがベスト16を経験しているだけはある。
今日は監督として初日。
まずは、今までのトレーニング内容を見せてもらうことになっている。
練習の中心にいるのは、主将の森山瞬太だ。
身長185㎝と恵まれた上背を生かしたCBといった印象だ。
スピードもまずまずある。
見た目は坊主頭でまさに闘将って感じだ。
そんな森山が常に声を出して、チームメイトをまとめている。
ウォーミングアップからボールを使った基礎練習。
1対1、シュート練。
「特に変わったトレーニングメニューはないな。」
そして、最後に紅白戦。
このチームの特徴はいわゆるカウンターサッカーだ。
ベスト16の成績を修められたのは、
森山を中心とした守備陣の頑張りと
これから紹介するスピード溢れたCFがいたからだ。
佐々木修人
昨年2年生ながら、チーム得点王。
相手DFとのかけひきからオフサイドラインぎりぎりを飛び出す
裏抜けに関しては秀逸だ。
あとはイケメンだな。
この森山と佐々木、そしてGKの高橋がキーマンになる。
高橋に関しては、後程紹介できればと思っている。
練習をひと通り把握した俺は、最後のミーティングに顔を出した。
「みんな練習お疲れ様。
まずは、改めて挨拶しよう。監督の鳥海だ。
選手としての輝かしい経歴は一切ない。
一切ないが、このチームを今よりも必ず強くすることを約束する。
今日見させてもらったので、トレーニングメニューは把握した。
明日から気づいたことをトレーニングメニューに組み込むつもりだ。
新しい内容もあるだろうが、しっかりとついてきてほしい。
では、今日はこれで終了だ。」
各部員が帰宅の準備に入ろうとしていた矢先に
「少しいいですか。」
キャプテンの森山が声をかけてきた。
「どうした」
何かまずいことを言っただろうか。
そんな思いが頭をよぎった。
「先生は、サッカー経験はないということですか。」
そっちか。
俺は特に何も考えずに即答した。
「そんなことはないぞ。といってもずっと補欠だったけどな」
実際、全然上手くない。
すると怪訝な顔で森山が発言してくる。
「そんな人が俺らを強くすることが可能だと思いますか。
俺には思えないのですが」
俺は間髪入れずに言い放つ。
「それは前監督が元Jリーガーだからか」
「はっきり言ってそうです。
俺らは前監督のおかげでここまで強くなったと思っています。
それにこのやり方を変えていくつもりはありません。
それは、レギュラーメンバーの総意です。」
この南東京高校のベスト16の躍進は、前述のサッカースタイルがはまったことと、
前監督がJリーガーでその指導力の賜物だと思われている。
「そうか」
「はい」
自分の意見が絶対正しいと嫌でも伝わってくる顔つきだな。
はぁとため息をついた俺は、覚悟を決めてあることを提案した。
「ならあんまりこういうやり方は好きじゃないが、
勝負をしようか。1か月間俺はサブ組を指導しよう。
そのサブ組とレギュラー組で紅白戦を行う。
勝ったほうが今年1年サッカー部の方針を決められることにしようか。
これでいいか」
「二言はないですね」
「当たり前だ。」
後ろで聞いていた部員がざわついている。
そんな中、森山は、チームメイトの顔をひと通り見た後に
こちらを睨みながら
「じゃあ、決まりですね。
みんな帰ろうぜ」
と言って、帰宅しようとすると
「ちょっといいか」
後方からそんな森山に声がかけられる。
「なんだ高橋」
「俺は、サブ組でもいいか」
周りのチームメイトがびっくりしたような顔をしている。
もちろん森山も。
「...なんでだよ」
あの森山が動揺しているな。
「俺はまだ監督の意向もトレーニングメニューも体験していない。
それなのに前監督が正しいとは判断できない。
それに俺がサブ組にいくぐらいはハンデとしてちょうどいいだろ」
何を考えているかわからない、ただ静かに自分の意見を言葉にしていた。
「好きにしろ」
森山は、そう言い放つと足早にその場を離れていった。
「ということなので監督。宜しくお願いします」
「おう。よろしくな
じゃあ、森山。明日からレギュラー組は任せる。
ケガとかには気をつけろよ」
後ろ姿の森山に大きな声で声をかけると
こちらを振り向いた森山は
「それでは失礼します」
としっかりとお辞儀をして帰っていった。
根はいい奴だな。
そんなことを思いつつ、俺自身もその場を離れた。
監督室に戻った俺は、窓から見えるグラウンドを見ながら、
これから起こるであろうことにワクワクしていた。
「練習初日にしておもしろくなったな。
まぁ明日から一か月しっかりサブ組を鍛えれば問題ない。
そんなにレギュラー組とサブ組に力の差があったとは思えないからな。
ただ、高橋の行動にはびっくりさせられたな。
大人しい印象を受けていたからな。
とは言えやはりここでもプレイヤー経歴か。
「監督に素人もJリーガーも関係ない。
チームを勝たせるか勝たせられないかだけだ。」
窓に映る自分の顔に向かって静かに言い放っていた。
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