第19話「開始30秒の衝撃 ― 王者を刺す一撃」
天候は曇り。
気温18度。
風はほとんどなく、ボールは素直に転がる。
試合をするには、これ以上ないコンディションだった。
■ 南東京高校放送部・木村の実況
「読者のみなさん、本日の実況を担当します、
南東京高校放送部の木村です!
どんな試合でも駆けつける、
“設定も不自然さも気にしない”でお馴染みの私が、
今日も元気にお届けします!」
テンションは高い。
だが、その声の裏には緊張が滲んでいた。
「本日の解説は――
関東大瑞穂高校、栗林監督です!」
「どうも~よろしくお願いします」
気だるい声。
しかし、その存在感は圧倒的だった。
「今日は解説引き受けていただきありがとうございます。
でも本当によかったんですか? 指揮できないですけど……」
木村が不安げに尋ねる。
栗林は、わざと南東京ベンチに聞こえるように言った。
「いや~大丈夫ですよ。私が出るまでもないです」
「おっと! 早速ありがとうございます!」
木村のテンションが跳ね上がる。
■ スターティングメンバー紹介
「それでは両校のスターティングメンバーを発表します!」
南東京高校、白のユニフォーム。
- GK:高橋
- DF:坂崎・鈴木・柏木・橋本
- DMF:粕谷・宮本
- OMF:斎藤・佐藤・山下
- CF:加藤
「フォーメーションは4-2-3-1に見えます!」
続いて関東大瑞穂高校、水色のユニフォーム。
フォーメーションは4-3-3。
「栗林監督、今日の注目ポイントは?」
「普通に考えれば、うちが勝ちますね。3-0ぐらいで」
木村が息を呑む。
「ただ……嫌な展開はあります。
南東京がそこを準備しているかどうかですね」
急に真面目な声。
その変化が、逆に怖い。
■ キックオフ前の会話
センターサークルに立つ加藤の背中に、
佐藤が声をかけた。
「加藤」
「なんだ」
「こうやってまた試合に出られるって……いいもんだな」
しみじみと言う佐藤。
加藤は短く返す。
「勝たないと意味ないぞ」
佐藤は笑い、ポジションに戻った。
■ キックオフ
「それでは試合を始めます!」
ピィーーッ!
加藤が宮本へボールを戻し、試合が動き出す。
■ 開始30秒の衝撃
「宮本!」
後ろから柏木の声。
「まずは後ろでいい。そこで取られるのはキツい」
宮本は迷わず柏木へ戻す。
柏木は落ち着いてボールを収め、
迫り来るFWを見据えた。
「プレッシャー早いな……
でも、うちはやることが決まってる」
柏木は右を見る。
「なぁ、坂崎」
内側にポジションを取っていた坂崎へ、
FW2枚の“死角”を通す絶妙なパス。
その瞬間、瑞穂の前線のプレスが無効化された。
ぽっかり空いた中央のスペース。
坂崎は迷わず縦パスを刺す。
「ナイスパス」
佐藤が左足で完璧に止め、
ターンと同時に状況を把握する。
「斎藤、山下、外へ広がれ!」
両サイドが一気にワイドへ。
瑞穂の4バックが横に広がる。
その一瞬の“歪み”。
佐藤は見逃さない。
「練習どおりだな」
加藤へスルーパス。
オフサイドラインを完璧に破った加藤が抜け出す。
GKと――1対1。
加藤は迷わず右足を振り抜いた。
シュパァッ!
ネットが揺れた。
■ 開始30秒、先制。
南東京 1-0 関東大瑞穂
木村の声が裏返る。
「な、なんと!!
キックオフからわずか30秒!!
南東京高校、先制です!!」
解説席の栗林は――
目を細め、口元をわずかに吊り上げた。
「……へぇ。
やるじゃん、鳥海」
その声は、
まるで“獲物を見つけた猛獣”のようだった。
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