第20話「4-4-2の鉄壁 ― 王者を止める“欠けたピース”」
「よし」
鳥海は右手で小さくガッツポーズを作った。
狙い通り。
いや、狙い以上だった。
坂崎のプレーは完璧だった。
外に張る“普通のSB”ではなく、
中に絞ってボランチの位置で受ける“偽SB”。
その一歩の違いが、
瑞穂のゲーゲンプレスを完全に無効化した。
「坂崎〜!」
逆サイドの坂崎に向けて、
鳥海はグッドサインを送る。
坂崎も胸を張ってグッドサインを返した。
(やっぱり見抜いてくれるんだな、鳥海監督は)
自分の判断を評価されたことが、
坂崎の胸に熱く残った。
(普通は加藤や佐藤を褒めるところだろ……
でも最初に声をかけてくれたのは俺だ)
坂崎は静かに拳を握った。
(次も応える。必ず)
■ 実況席の衝撃
「ゴ~~~~ル!!」
木村の声が裏返る。
「先制したのは南東京高校だ~~~!!」
解説席の栗林は、苦笑しながらも目が鋭くなる。
「いや~……やられたくないことを、いきなりやられましたね」
「栗林監督、いったい何が?」
栗林は深く息を吸い、淡々と語り始めた。
「キックオフ直後はプレスがかかりづらい。
でも宮本くんが少しもたついたことで、
“行ける”と判断したFWとMFが前に出た」
「その瞬間、CBに戻したことで瑞穂のDFはロングボールを警戒して下がる。
結果、バイタルにスペースが生まれた」
木村が息を呑む。
「ただ問題はそこじゃない。
右SBの坂崎くんが“外ではなく中”で受けたことだ」
栗林の声が低くなる。
「外に張ると思ってスライドした瑞穂のプレスが、
あの一歩で完全にズレた。
あれは……準備してきた動きですね」
木村が震える声で言う。
「南東京高校……準備してきたんですね?」
「まぁ、そう言わざるを得ないでしょう。
それに……こちらの油断もあった」
栗林はピッチを見つめながら、
志波の苦悶の表情を横目で見た。
■ 志波の焦り
「マジか……」
志波は頭を抱えた。
(あそこにSBが入ってくるなんて……
まるでマンチェスターシティのカンセロじゃないか)
鳥海の仕込みに、
志波は戦慄していた。
(まだ時間はある……まだ……)
だが、状況は最悪だった。
瑞穂の最大の弱点――
先制されると崩せない。
引いた相手を崩す攻撃力が、
まだ育ちきっていない。
志波は数名の選手を呼び、
短く指示を出す。
「元々試す予定だった形だ。
信じてやるしかない」
瑞穂のキックオフで試合が再開。
丁寧なパス回しが始まった。
■ 栗林の分析
「栗林監督、ここからどう追いつくのでしょうか?」
木村の問いに、栗林は淡々と答える。
「ショートカウンターは使えない。
だからボールを保持して、
相手のスキを窺うしかない」
「ポゼッションサッカー、ということですか?」
「そうですね。
ただ……点を取るための“ピース”が、
うちにはいない」
栗林は静かに続けた。
「そして南東京高校は……
この展開を想定していたようですね。
ほら、早速対策してきました」
■ 鳥海の“鉄壁”
「監督!」
控え選手が不安げに声をかける。
「なんだ」
「相手、全然前に運べてません!」
鳥海は短く答えた。
「わかっている」
瑞穂のポゼッション率は70%を超えていた。
だが――前に進めない。
その理由はただ一つ。
「4-4-2」
鳥海が呟く。
控え選手が首をかしげる。
「監督、なんで4-4-2だと前に運べないんですか?」
鳥海は簡潔に説明した。
「ディフェンスライン4枚。
その前にボランチと両サイドハーフで4枚。
守備ラインが2本できているだろ」
控え選手たちは一斉に頷く。
「このブロックは強固だ。
しかも先制しているから、
無理に攻める必要がない」
鳥海はピッチを見つめながら、
静かに言った。
「それに向こうには……“あれ”がいない」
控え選手が聞き返す。
「“あれ”って……?」
鳥海は目を細めた。
「ブロックを崩すための――
絶対的な司令塔 だ」
そして、心の中で呟く。
(なぁ、栗林)
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