第11話「選手が悪いわけではない」
初練習から1週間が経った。
「じゃあ今日から順に、一人ずつ
自分のプレーの長所と短所を教えてもらいたい。
最初だからそんなに緊張することはないぞ」
柔らかく言ったつもりだった。
だが、選手たちの顔は一様にこわばっている。
“自分と向き合う”という行為が、どれほど重いかを物語っていた。
「誰から始めるかな」
全員の顔を見渡す。
迷う必要はなかった。
「あそこからだな。佐藤」
「はい!」
「お前からだ」
「わかりました」
監督室での個別面談。
緊張感をあえて作るための“舞台”だ。
「他のみんなはいつも通り練習を始めてくれ。
宮本、頼むぞ」
「はい!」
宮本が声を張り、グラウンドへ向かう。
その背中は、キャプテンとしての自覚が滲んでいた。
■ 佐藤の面談 ― “ひらめき”の正体
「佐藤、さっそくだが聞かせてほしい。
この1週間、自分で考えた長所と短所を」
佐藤は深く息を吸い、ゆっくりと語り始めた。
「自分は今まで、Jリーグの下部組織にいたことで、
ボールを扱うことに自信を持っていました。
一瞬のひらめきで局面を変える――
そういう指導を受けてきました」
淡々とした口調だが、その奥に悔しさが滲む。
「ユースに上がれなかった理由はフィジカル不足だと結論づけて、
高校ではフィジカルを鍛えようとしました。
前監督もそこを重視していたので、
自分の課題と合っていると思っていました」
「でも、メンバーには選ばれなかった。
走れない・戦えない――
そう思われていたんだと思います。
それが、監督が来た最初の自分の印象にもつながったはずです」
俺は黙って聞く。
佐藤は続けた。
「でも……フィジカルが原因じゃなかったんじゃないかと気づきました。
自分の強みが、強みじゃなくなっていたんじゃないかと」
「だから、もう一度ボールスキルを磨き直しました。
そして監督に言われた“頭を使う”ことを意識しました」
佐藤の目が鋭くなる。
「監督と出会って、疑問に思ったことがあります」
「それは何だ?」
「“一瞬のひらめき”とか“局面での違い”って……
結局、指導者が選手にコンセプトを丸投げしてるだけじゃないですか?」
その言葉に、俺の胸がわずかに熱くなる。
「ここでは、監督からパスやトラップの具体的な指導を受けました。
橋本の使い方も教えてもらいました。
それで上手くいった。
橋本とは、イメージが簡単に共有できたんです」
佐藤はまっすぐ俺を見る。
「外から見たら、加藤へのスルーパスは“ひらめき”に見えたかもしれません。
でも自分からしたら違う。
ただ、自然とスペースが広がって見えただけです」
「監督が作る景色は、これなんだと」
その言葉は、俺の胸に深く刺さった。
「自分の長所は、監督やチームメイトと描く攻撃を形にできるボールスキル。
短所は、フィジカル不足でそのスキルを維持できないことです」
言い切った佐藤の顔は、
1週間前とは別人のようだった。
「わずか1週間なのに……吸収力がすごいな」
思わず本音が漏れた。
「佐藤、今回の課題に正解・不正解はない。
だが、自分としっかり向き合ったかどうかは評価する。
よく向き合ったな」
「ありがとうございます!」
佐藤は晴れやかな笑顔を見せた。
「では、次を呼んでくれ」
佐藤が監督室を出ていく。
■ 鳥海の独白 ― 日本サッカーへの怒り
次の選手が来るまで、俺は思考を巡らせた。
「選手個人が最終局面で違いを作るのは当たり前だ。
どの選択肢を選ぶかは選手の自由で、
監督の顔色なんて窺う必要はない」
「だが日本の指導は……
土台を作らない。
コンセプトを共有しない。
なのに結果だけは求める」
「まさに指導力不足だ」
誰かが見ていたら、
俺の表情は呆れを通り越して怒っていたかもしれない。
コンコン。
ドアが叩かれた。
「入れ」
「失礼します!」
加藤が入ってきた。
冷静で、無駄な言葉を使わない男。
“ヒットマン”と呼ばれるストライカー。
さて――
こいつはどんなことを聞かせてくれるだろう。
そう思った次の瞬間、
俺の期待は見事に裏切られることになる。。
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