12.13 聖女の声(1)
ジャンヌが再び男装した翌日、異端審問官たちは緊急会議を開いた。
何が話し合われたか死刑執行人は知る由もないが、最終判決に至るまでの真理をまとめた報告書がローマに送られているはずだ。バーゼル公会議で親しくなった聖職者のつてを辿れば、写しを入手できるだろう。
さらに翌日。
1431年5月30日、午前9時。
数日前と同じ広場に再び火刑台が設置された。
「マルシェ広場と言ってな。市場と言っても、明るく賑わっているようなところじゃない」
死刑執行人の話によれば、広場の東半分は食肉業社と屠殺場が立ち並び、独特のなまぐさい臭気を放つ場所らしい。広場の西側は墓地に囲まれている。
明るさや清らかさとはかけ離れた、陰気な場所だ。
そこがジャンヌ・ラ・ピュセルの最後の地——、「神の声」が導いた終着点だった。
家畜が屠殺場に運ばれていくかのように、ジャンヌを乗せた馬車が同じルートを通って広場に入ってきた。前回と違って、飾り気のないドレスを身につけ、頭には異端者を糾弾する言葉と悪魔の絵姿が描かれた帽子をかぶっている。
異端審問官が、最終判決と祈りの言葉を読み上げた。
「異端の害毒がしつこく教会に取り憑き、この汚染を慎重に取り除かなければ、他に感染しかねない。悪しき毒物を正しき道に戻すために隔離して監視していたが、腐敗を止めることは叶わず、再び邪悪に堕ちて罪を犯すに至った。従って、教会の枝から切り離し、見捨てるべきと判断する」
死刑執行人は火刑台の頂上から一部始終を見ていた。
ジャンヌは、これから自分を焼き尽くす薪の山を自分の足で登った。最後の一山を乗り越えるときに、死刑執行人が手を差し伸べるとジャンヌは「ありがとう」と礼を述べた。
死刑執行人は非情になりきれなかった。つい、最後の望みを聞いた。
するとジャンヌは「火刑台上から見えるところに十字架を掲げてほしい」と願った。どう考えても、処刑を宣告されるほど重罪を犯した異端者の願いとは思えず、死刑執行人は心をかき乱された。
でたらめな異端審問で無実の少女が処刑されようとしていると確信したが、もはや流れを止めることはできない。
せめてもの贖罪にと、火刑を見届ける異端審問官にジャンヌの願いを伝えた。
すると、ジャンヌの境遇を憐れんだのか、それとも聖職者の職務としての行動かはわからないが、異端審問官のひとりが高みの見物席を抜け出して薪の山の近くに寄り、刃のない槍の穂先に十字架をくくり付けて正面に掲げた。
白い煙が立ち上る中で、ジャンヌはあの無垢な瞳でまっすぐに十字架を見つめていたに違いない。
火が爆ぜる音か、あるいは足元に迫る熱気か。
しばらくすると、ジャンヌは何かに気づいたように十字架から視線をそらし、群衆を見渡しながら呼びかけた。
「ルーアンの皆さん、私が死んだことでどうか苦しまないでくださいね」
読者諸氏はどう思う? 皮肉に聞こえるだろうか?
私は疑り深い人間だが、この話を聞いて確信した。ルーアンで火刑に処されたのは身代わりの別人ではなく、私が知るジャンヌ・ラ・ピュセルで間違いない。ジャンヌ以外にこんな言動は他の誰にも真似できない。
その死に臨んで言った言葉が、自身を火刑に導いた神や聖人への恨み言ではなく、敵対者への憎しみでもない。火刑を目撃する民衆への心遣いだったのだ。





