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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十一章〈異端審問と陰謀〉編

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11.11 ジャンヌの本心(3)火刑の知らせ

「あの娘を連れてこなかったばかりか、火刑に処しただと……!」


 聖女死すの一報は、皇帝ジギスムントを激怒させた。


愚物(ぐぶつ)どもめ! 余の計画を台無しにしおって!!」

「痛い、痛いです! どうかお心を鎮めて……、きゃーーー!!」


 怒り心頭で、イングランドの使節ジャン・ボーベールを折檻したが、ジャンヌに処刑判決が下された時点でボーベールはルーアンを離れていた。責任を問うのは酷である。しかし、ジャンヌを敵視して異端審問の途中まで関わっていたのは事実だったから、同情心は湧かなかった。


「あの娘はな! 十字軍を率いてフス派を殲滅し、余をローマに導いて戴冠させる《《聖女》》になるはずだったのだ。余の、聖女をっ、返せっ!!」


 以前、私の方でも異端審問と同じ基準でジャンヌを審査した。

 審問官たちは、神の「声」について判断を保留したが、「ジャンヌの素行は善良で、邪悪なものは見られない」という最終報告書をまとめ、近隣の君主と司教区、そして教皇がいるローマ教会に詳しい経緯を書き送った。


 今回、異端審問から処刑に至った経緯について、同じ手順で報告書が送られるはずだ。今はまだ、第一報のみで詳細不明だ。


「誤報であれば良いのですが」


 ピッコローミニは気休めを言ったが、望みは薄いだろう。


 ボーベールは皇帝の折檻を痛がっているが、処刑の知らせに驚いている様子はなく、こうなることをわかっていたように見える。もしかしたら、皇帝の怒りがイングランド本国に向かないように生贄として送り込まれたのかもしれない。


 ジギスムントは気まぐれだ。

 さんざん八つ当たりすれば、それで気が晴れて忘れてしまうだろうから。


 私は急きょ、帰国することにした。

 ルーアンはフランス東部で、今いるバーゼルは西端の国境近くだ。距離が離れている分、情報の伝達が遅くなる。ルーアンに向かってノルマンディーを進軍しているデュノワとラ・イルの戦況も気になる。


「明朝、夜明けとともに発つ」

「お待ちください!」


 ピッコローミニに引き止められて、シャルティエの遺作のことを思い出した。


「貸すことはできないが、写本の続きはこちらで必ず完成させる」


 世話になったお礼に、あとで遺作の写本を送ろうと思ったのだが。


「その件でしたら大丈夫です。脳内に暗記しましたから」

「えっ、あの長編を全部覚えたのか……?」

「後半だけですが、記憶がはっきりしているうちに書き残せば問題ありません」


 さすが皇帝の側近。

 25歳の若さで、フランス王の饗応役に抜擢されただけのことはある。


「そのことではなくて……! シャルティエ様が主君であるシャルル王をどう思っていたか、その本心を知っていただきたいのです」


 そのことなら、遺作『希望の書』の中に「国王に失望した」という記述があるのだが、ピッコローミニは首を横に振った。


「数年前、あの方は皇帝陛下の前で、フランス情勢についてみごとな演説をしました。その内容をご存知ですか?」

「大体の内容は私が指示しているが……」


 演説のこまかい枝葉部分は、シャルティエの文才に頼っているところがあった。


「シャルティエは私について何か言っていたのか?」


 遺作には、自殺を考えるほど失望したと書いてあったのだ。

 名指しで私のことを何か言っていたとしたら——、怖いな。

 気になるが、知らない方がいいこともある。


「メーヌ伯が文学サロンをやるそうで、そのときに申し上げようと思ってましたが予定が変わってしまいました。もう時間がありません」

「その件も申し訳なかったね。また別の機会にでも……」

「決めました! 今夜は徹夜であの演説文を書き起こします。それを渡すまで、どうか旅立ちを待ってください!」

「えっ、ちょ……」


 言うが早いか、ピッコローミニは写本制作のために用意した書斎に閉じこもってしまった。


少年期編・冒頭に回帰した反響か、カクヨム版の今話コメント欄でシャルル七世がジャンヌをどう思っていたかについて深い考察が盛り上がっています。


▼カクヨム版『11.10 ジャンヌの本心(2)フス派への手紙』

https://kakuyomu.jp/works/16816927859769740766/episodes/16818093091424611249


作中の描写を手がかりにいろいろ想像して語り合う現象が

自分の作品で起きるなんて、作者としてめちゃくちゃ嬉しいー!

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