第26話
戦闘開始。私以外の遠距離で戦う魔法少女の戦い方は、ある程度テンプレがある。
「かべを張る」
「ふぁいやーですっ!」
まず初めに一人が周囲に魔法で壁を張る。これは敵の攻撃を防ぐため。
ほとんどの場合は自分たちと壁の間に空間を作り、最悪攻撃されても壁の中だけで回避行動がとれるようになっている。
そして壁には一か所だけ穴がある。この穴があることによって自分たちの攻撃を通すことができる。同時に相手からの攻撃をこの穴に限定することによって防ぎやすくしている。
等級が上がると壁を無視して攻撃してくることもあるが、少なくともこの魔虫程度の等級ならそのようなな心配はないと思われる。
二人目は攻撃だ。穴から敵に向けて攻撃する。
使う魔法や相手によって攻撃役も壁役も変化するが、今回はトウカが水魔法で壁を張り、ミモザが火魔法で攻撃する形だ。恐らく相手が虫なので、火の方が通りやすいと判断したのだろう。
インカムから明坂さんの指示がないことから考えるに、これで間違いないはずだ。
残りの魔法少女は大気だ。状況によって臨機応変に対応する。
相手が硬いとなれば攻撃に参加するし、速くて捉えることが難しいなら当てやすくなるよう相手の動きを限定できるように魔法を使う。
そのどれもできないのが私です。
いざとなれば身を挺してでも守るつもりではいるが、そもそもそのような状況にならないのが一番だ。
やはり魔法は使えたほうがいい。
さて、ミモザの放った火魔法の火球であったが、これは完全な不意打ちだったにも関わらず魔虫に回避されてしまった。
やはりゴキブリの姿をしているだけあってかなり速い動きをする。
魔法少女をやっていると本部に残されている戦闘データや動画を見ることができるのだが、この魔虫の移動はこれまでのどの魔獣よりも早い動きをしていると感じる。
少なくともE級の魔虫が出していい速度ではない。ミモザも当てられるよう火球の大きさを変えたり偏差撃ちを行っているが、それでも掠らせることすらできていない。
「はやいですっ!」
「援護するね~」
ヒカリが風の魔法で援護を始めた。ミモザが飛ばした火球に後ろから風を当て速度を上げるのだ。これによって火球の速度は2倍近くになっている。当たった時の衝撃もかなりのものになるだろう。
だが当たらない。あの魔虫はあまりにもすばしっこい。
地形を使い上下左右縦横無尽に動いている。
「あれ?どこに行きました?」
「右右。あ、嘘左」
「また右に行ってるよ~」
「これ当たらないです!どうしましょう!」
速すぎてみんな追えていないな。私が捕まえに行った方がいいかな。
「トウカちゃん、私を通せる?捕まてくる」
「わかった」
「うぅ、先輩なのに不甲斐ないです!」
「得手不得手~」
その通り、得手不得手だよ。私は魔法が使えないけどその分動けるからね。
壁の一部に開けてもらった隙間から外に出る。魔虫は攻撃がやんだからか動いていないが、歯と触覚をギチギチと鳴らして今にも飛び掛かろうとしている。
「気持ち悪……」
しかし、あれに触れるとなると心の底から気持ち悪いな。小さいあれが家に出るだけでも嫌なのに、あろうことか私は巨大なあれに直接素手で触れて捕まえようとしているのだ。
だが嫌だとごねてどうにかなるわけでもなし。こうなればさっさと捕まえてしまう以外にほかないだろう。
あの時と同じように体に魔力を纏って、思考を高速化させる。あの魔虫は早い。一瞬の隙も逃したくない。
タイミングはすぐに訪れる。所詮虫なのだ。知能だって虫程度。目の前に獲物がいてとる行動など一つだけだ
即ち、突撃することである。
「フッ……」
安全圏から出てきた私を獲物だと思っただろう。だから魔虫は簡単に飛び込んでくる。それに合わせて私も前に。不慮の事態に備えてなるべくみんなから距離を離した場所で捕まえる。
地面を這い飛び込んでくる魔虫。速い。けど見えないほどじゃない。私の魔力量から成る身体強化なら、止まって見えるほどじゃないが少なくとも目で追える。
前に出たのはその方が都合がいいからだ。不慮の事態に備えることと、もう一つ。
目が大きくなって残念だったな。おかげで私のどこを見ているかすぐにわかったよ。こいつは私の右肩を見ていた。そこを狙うんだろう?
だから私も前に出たのだ。この魔虫は全長は長いが体高はそれほどじゃない。多分1mくらいだろう。その高さでは私の肩に頭は届かない。
故に跳びあがると考えた。そしてその予想は当たった。ジャンプした魔虫に対し、前に出た私はその勢いのまま魔虫の下に潜り込み抱きしめる。
「ひぃぃぃ」
足が!足の毛がもぞもぞして気持ち悪い!早く手放さないと私がおかしくなってしまう。
「とりゃ!」
抱きしめた私は魔虫と一緒に回転し位置を入れ替える。私が上で魔虫が下。
これで手を放しても魔虫は動けなくなった。なぜなら奴は虫である。ひっくり返ったらそう簡単に自力で元に戻ることはできない。
とはいえ時間をかけたら戻ることは可能だろう。とっとと倒してもらおう。
「ミモザちゃん、お願い」
「……はっ!わかりました、えいっ!」
「生で見ると迫力がすごい」
「疑ったことはないけど、本当に素手でも戦えるんだ~」
魔虫は頭から火球を5発程喰らい、光となって消えていった。討伐完了だ。
それにしても、早く風呂に入りたいよ私は。




