12-1
ある日の休日。
王都の南にあるクレージュという街の市場で、私はアベル様と古びたベンチに座っていた。
今回もお疲れ様会という名目で、前回同様に市場までやって来たのだ。
今回来たのは前回訪れたシャリルの市場よりも規模が小さめで、かつ新しめの市場なので、雰囲気がだいぶ異なり興味深かった。
ベンチで市場の様子を眺めていると、アベル様が口を開く。
「リリアーヌ、もうすぐ一斉学力テストだね」
「一斉学力テスト? なんですの、それ」
聞き慣れない言葉に首を傾げた。一体何のテストなのだろう。
「え、リリアーヌは知らないの?」
「知りませんわ。なんですか、それ」
「ほら、普通のテストのほかに、三年に一回学園全体で行われるテストがあるじゃん。初等部から高等部まで全部が、一日そのテストを受けることになるやつ。それが再来週に行われるって」
「へー、そんなものがありますのね。全然知りませんでしたわ」
「三年前にもリリアーヌは受けてるはずなんだけどね……」
アベル様は遠い目をして言った。
私はむっとしてアベル様を見る。しかし、三年に一回行われるテストなら、リリアーヌも複数回受けているだろう。記憶を取り戻す前のリリアーヌの印象に残っていないのか、さっぱり思い出せなかった。
「……ちょっと忘れていただけですわ! それにしても、どうしてそんなテストがありますの?」
「この国の貴族の学力を測りたいからって文部大臣が導入したんだよ」
「へー、そんなことやってますのね」
私は感心して言う。なんだか近代教育システムみたいだ。この世界の元は、現代日本のweb漫画だから不思議ではないけれど。
「それにしても、ついこの間テストが終わったばかりなのにまたテストなんて、嫌になってしまいますわねー」
「本当にね。でも、リリアーヌにとってはチャンスじゃない?」
「チャンス?」
私が首を傾げると、アベル様がポケットから通信機を取り出した。そして画面を操作して、リストのようなものを出す。
「これはなんですの?」
「今度の一斉学力検査テストの教科表。このテストは普段と違って三教科しかないんだ。回によってどの教科が入るかは違うけれど、今回はこれだよ」
「外国語、経営学、言語学……。あら、私が比較的得意なやつばかりですわ」
「でしょ? リリアーヌに有利なんじゃないかと思って。シャリエ公爵にこのテストも例の10位以内になったら跡継ぎとして検討するって話に入れてもらうよう交渉できないかな」
「いいですわね! 可能性が上がりそうですわ!」
私は首をぶんぶん縦に振った。
この学園のテストはいつもやけに教科が多くて、範囲を終えるのさえ一苦労だけれど、今回の三教科なら無理なくできそうだ。
その上、比較的私の得意な教科ばかり。これなら10位以内に入る確率が上がるのではないだろうか。
「今日帰ったら、早速お父様に交渉してみます!」
私ははりきって言った。
いつものテストだって、順調に順位が上がってきているのだ。普段より有利そうなこのテストでなら、本当に10位以内に入れるかもしれない。
これで私の野望に一歩近づくかもしれないと考えると、わくわくしてしまった。
***
その日の夜、シャリエ邸に帰った私は、夕食の席で早速お父様に話を切り出した。
「一斉学力テスト? ああ、もうそんな時期なのか」
お父様は興味深そうに言う。
「ええ、そうなんですの! 一斉学力テストも学園の生徒たちがみんな受ける重要なテストですよね? それで、例の10位以内に入ったら私が跡取りになることを検討してくださるという約束、一斉学力テストにも適応してくださいませんか?」
私は身を乗り出して尋ねる。
お父様は難しい顔になってしまった。
「あれはあくまで生徒の学力を測ることが目的のテストだからな……。教科数も少ない。10位以内になれば跡取りにすることを検討する約束自体、随分甘めの目標設定にしているんだぞ」
「そこを……! そこをなんとか!」
「そう言ってもなぁ」
お父様はなかなか首を縦に振ってくれなかった。
すると、横でのんびりワインを飲んでいたお母様が言う。




