吸血鬼保護団体
今回の依頼、報酬が金貨1枚だと分かってからは吸血鬼保護団体に人一人分の血を持っていくのではなく金貨1枚を払って手に入れようと思っていた。
犯罪者を殺して吸血鬼保護団体に渡しても良いがどうしても目立ってしまって街から出る時に吸血鬼保護団体の人間なのでは?と疑われるかも知れないからだ。
さらに今回の誘拐を男爵家の騎士が起こしたと街の人に知られれば確実に騎士への信頼と男爵家の権威の失墜は免れない。だからこそ騎士団と男爵はいやでも俺の口を封じるため金銭で解決してくるだろう。
あくまで俺の目的はお金であってユリシスを救出した今、今後については興味がない。だから冒険者協会の人を呼んでもらうのではなく騎士団の人を呼ぶ。冒険者協会に今回のことが知られれば事件のことが表に出るがまだ俺とユリシスと城門の兵しか知らない情報なので表に出ることはない。
俺は城門の兵士に騎士を呼んできて欲しいと言って一旦城門の外で待つ。
外で待っていると後ろに居たユリシスがもじもじ、しだして(何をしているんだ?)と思ったがどうやら20歳前後の男に服を破られ今は下半身の下着が見えてしまっている。
(子供に何を期待しているんだ?)と思いながら服を脱いでユリシスに渡す。
そうしているうちに6人の兵士がやってきて2人で俺が引きずってきた男とユリシスが背負っていた騎士を引き取る。
俺は2人の騎士に連れられユリシスとは違う城門にある尋問室に連れてこられた。
尋問室の中心には椅子2つとテーブルが置かれていて椅子に座ると騎士の男は目の前の椅子に座り、日本で言う取り調べ室のようなことをされる。
「まず、何があったのか説明してもらおうか。」
男は俺が子供だからと高圧的な態度で来る。
そう来るなら
「騎士様はあの状況を見て何があったのか想像もつかないんですか?」
「これは全騎士に関わることなのだ。何があったのか、しっかりと説明してもらわねばな。」
「、、、、冒険者協会で人攫いの依頼を受けた。ユリシスという女性が誘拐され弟が探していると。街で聞き込みをした俺はバイスの森に建てられた小屋が怪しいと思って捜索した。すると森に緑色の小屋があって中に20歳前後の男と騎士の男がユリシスという女性を監禁していた。騎士の男を殺さずユリシスという女性を捕まえるのは不可能だと思い騎士の男を殺した。その後ユリシスという女性に暴力をしようとしていた20歳前後の男を殺した。それだけだが、、」
「騎士が犯罪に関わったことは事実なのか?」
「ああ、確実にな。」
ドンっという音を立てて騎士の男はテーブルを叩く。
「男爵様を呼んできてくれ。」
そう騎士が言うともう一人の騎士が部屋を出ていき中に入ってくる時に多少高そうな服を着た12歳ほどの少年が入ってくる。
「君が我が家の騎士だった人を倒した人間か?」
「はい。」
「なら話が早い。金貨5枚で一切今回の事は話さないでくれ。」
「随分急ですね。」
「勿論。もっと上の貴族だったら権力で揉み消したりできるけど所詮男爵。金で釣るしか出来ないよ。」
(どうやら少し騎士が言っていたことと印象が違う。不正は許さないタイプだと思ったのだが。)
「正直今回の騎士は僕の考えを読み間違えたのさ。僕はあの騎士を好きではなかったけど騎士にも悪人が居て普通だ。だから僕としては対外的にやっていることがバレないようにこっそりやれという意味で監視をつけたのだけれど僕の意図が間違って伝わったようだ。ましてや誘拐などという最も対外的に見つかりやすいことをな。、、、って子供に話してもよくわからないか。で、金貨5枚で一切このことに関して何も言わないと誓ってくれるかい?」
「冒険者協会への報告は?」
「それも駄目だ。君が報告し何があったか言わなければ自力で調査して奴らは必ず今回のことを公に発表するだろう。前回の副長の失った信頼を取り戻すため、【相手が男爵家であろうと我らは屈しない】とか言うスローガンを掲げ自分達冒険者の信頼を取り戻しなら我が家の信頼を崩しにくるだろう。冒険者の依頼での報酬の金貨1枚ならこちらから出して金貨6枚にしよう。」
「ではそれで。」
「君は賢いよ。ここで今回のことを公にすると言われたら監視を増やすか、、本当に消すしかなくなってしまうからね。」
俺は席を立って騎士から金貨6枚を貰い部屋を出ていく。
「後の問題はユリシスだな。」
「はい。」
「餓鬼の方は金で解決できたがユリシスは金でどうにか出来るような女ではないだろう。」
「はい。騎士が事情を聞き事件のことを言わないでほしいと言っても「これはそう簡単に済ませて良いものでも有りません」と言っていまして。」
「はあ、餓鬼のほうがよっぽど賢い。俺達に歯向かえば歯向うほど監視を厳しくするというのに。、、、、確かユリシスには病気の弟がいたな。一緒に屋敷に住まわせてやると言ってこい。ユリシスとの結婚相手の男爵には金貨でも数枚送っておけ。奴はユリシスと金貨数枚なら金貨数枚を選ぶだろうからな。けちくさいやつだ。」
「は!!」
(それにしてもあの餓鬼、あの年で騎士を倒すとは、、、厄介な存在だな。早く街を出ていってほしいものだ。あれは貴族が飼えるような人間ではない。強さ、冷酷さ、頭の良さもそうだが何やら絶対に触れてはならないものがあるように感じた。それに触れれば例え飼い主が相手であっても噛みついてくるだろう。)
俺は宿に戻りながら監視について来ている騎士の存在を把握する。
(監視は4人か。かなり腕利きの出来るやつ1人といつもは通常の戦闘を中心にやっているであろう3人。この3人も監視は3流レベルだろうが戦いのレベルで言ったら中年騎士のワンランク下くらいだ。男爵家の戦力としては十分だろう。
正直今回の一件がなければ男爵家を舐めていた。ハッタリかもしれないが金貨6枚を当然のように渡してきたということは意外と財力もしっかりとあるようだ。)
数日後、監視が外れたのを確認してから吸血鬼保護団体のある平民街を訪れラルというバーに入る。
中に入ると日本と作りが似ているバーがあって薄暗く顔が暗くて見えない店員が1人立っている。
カウンターの椅子に座っても店員の顔は見えない。
「お飲み物はどうされますか?」
「、、、赤い目玉で。」
「、、、、、アイレンズのことですね。金貨1枚、もしくは人一人分の血になります。」
俺は金貨1枚を差し出しバーの定員は店の裏に行って大きめの黒い容器に入ったコンタクトレンズを持ってくる。
「目の色はお客様と同じで黒色で構いませんか?」
「はい、黒色でお願いします。」
「使用目的は?」
「、、、、、」
(ん?この男は俺がこのアイレンズなる物を吸血鬼以外に渡すと言ったら取引を中止する気か?)
「ご安心ください。アイレンズをもし吸血鬼の方以外に使うのであれば注意点があるだけですので。、、このアイレンズは長時間の着用で失明する危険があります。吸血鬼の方では最短で3日。吸血鬼の方なら失明しても時間が経てば治りますが人間の方であれば治りません。ですので使ったらこの入れ物に戻す。3日以上のアイレンズ着用はしない。というのを守っていただければ危険は一切ありません。」
「分かりました。」俺はそう言ってアイレンズを受け取り店を出る。
俺は早速、宿に戻ってルシアにアイレンズをつけさせる。
最初は目にものを入れるのを怖がっていたが入れてしまえば難しい物ではなく左右で違って見えた目の色は左右共に同じ黒色になった。
ルシアに部屋の中では着用しないでと言ってアイレンズをルシアの目から外し入れ物に入れディオナに渡しておく。
ルークとディオナにこの数日何をしてたんだ?と問い詰められたが俺が何をしていたかは言わなかった。
その数日後、俺達5人は数カ月過ごした宿との契約を打ち切り商人たちや旅人が集まる地区に行ってネオンの街行きの馬車を探す。ネオンの街とギアンの街は隣同士の街なのだがバイスの森があるため大きく迂回してネオンの街に行かなければならないのでかなりの費用がかかる。馬車で20日ほどネオンの街に行くのには時間がかかる。
ルシアの目のことは他人にバレると不味いので乗合馬車ではなく個人馬車を使いルシアには街で買った薄い毛布を被せて目の色がバレないようにした。
吸血鬼保護団体のバーに行った次の日から俺等は街で度に必要なものを多く買った。例えば干し肉であったりこれから夏の時期に入るので蚊が寄ってこなくなるような魔道具だったり色々なものを買った。
恐らくその買い物と今回の馬車のお金でこの街でルークと一緒に冒険者として働いた分のお金はすべてなくなり持ち金は金貨5枚になるだろう。
普通、個人馬車を使う人は冒険者に護衛の依頼を出し安全に旅をするのだがなるべく人が少ないほうがルシアのことがバレないため個人馬車に冒険者の護衛をつけずにネオンの街を目指す。