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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第2章 カーテン・フォール編

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92[2-26].ザドキ・エルとの合流



 時間が少しだけ遡る。


 【明けない魔夜中ブラック・アウト】が展開された時。

 ク・エルは、橙の悪魔人(デビルマン)との戦闘が長引いていた。


 デイ神社の外は夜が明けて朝のはずだった。

 しかし、内側だけ悪魔の夜のまま。

 光が届かないわけではなく、届いた光が黒に削がれて途中で死ぬ。


 ク・エルは、その黒の中で息を吸った。

 吸うたびに、喉の奥に乾いた砂が溜まるみたいだった。


 目の前にいるのは、人型の橙。

 朝日の色をまとった悪魔人(デビルマン)が、何も言わずに立っている。


「……なんだか、妙ですね」


 黒が濃い。

 ク・エルが神の奇跡を治療で使いすぎたとはいえ、この領域の中では彼女の信仰力が更に薄くなる。

 ク・エルは戦いながら、冷静に分析をする。


 ーー自分の力が削られているのが、肌で分かる。なのに。


 橙の悪魔人は、太陽の残像みたいに揺れていた。

 輪郭がぶれる。空気が熱で歪む。

 それが、ただの目眩ましではないと、ク・エルはすぐに気づいた。


 残像。

 幻惑。

 そして、最小限の反撃だけ。


 刃を振るうたびに、紙一重でかわされる。

 大鎌の切っ先は、確かに届いたはずなのに、そこに肉はない。

 あるのは熱い空気の切れ端だけ。


 橙の悪魔人は、殺しに来ていない。

 そう断定できるほど、加減をしている。

 手が優しいのではなく、手数が足りない。


 刺すべき所で刺さない。

 決めるべき所で決めない。


 ーー相手は、致命傷の攻撃をしてこない。


 ク・エルは、大鎌を引いて足を止めた。


「……何故、殺しにかからないのですか?」


 答えはない。

 橙の悪魔人は、相変わらず黙っている。


 瞬間。




 大きな爆発音。




 地震ではない。地面が揺れたのではなく、空気が凹んだ感覚。

 禍々しい空気の膜が、瞬間的に破られたみたいな衝撃が走った。


 ク・エルの瞳が、わずかに細くなる。

 ク・エルは、黒い天井の向こう。神社の奥を見た。


 この領域の中心、デイ神社の奥。

 ジルがユーサを隠すにはうってつけとして教えた、秘密部屋があるという場所。


 次の瞬間、黒の領域が、ひび割れた。

 ぱき、と音がするわけじゃない。

 だが確かに、黒が裂ける。

 光が、正しい方向から流れ込み、ブラック・アウトが解除される。


 朝の空気が、匂いが、音が、重さが戻る。

 ク・エルは、胸の奥で短く息を吐いた。


「……起きましたか。……ユーサ・フォレスト」


 眠っていた者が。待っていた者が。

 それが誰かなんて、考えるまでもない。

 その確信が、奇妙な安心になって落ちる。

 信頼と呼ぶにはまだ早い。けれど、頼れると分かっている感覚だった。


 黒が薄れた朝の中で、橙の悪魔人は一歩だけ下がった。

 そして、()()()


 あまりにも自然に。

 朝日の揺らぎに混じって、最初から居なかったみたいに。


「……逃げた?」


 ク・エルは大鎌を構えたまま、周囲を探る。


 ーーいない。気配も残り香も薄い。


 この判断の速さ。撤退の速さ。

 戦い慣れしすぎている。

 そして、最後まで、()()()()()()()()()


 ク・エルは、天使武器である大鎌を下ろした。

 無駄に燃やせば、この先が危ういと判断して、緑の片翼に高めかけていた信仰力を、ゆっくり戻す。


「……本気じゃない、というより……目的が違う?」


 ーー殺す目的じゃない。足止め? 時間稼ぎ?


 橙の悪魔人が何のために時間を稼いでいたのか、考えた瞬間。


「……っ!? ……新手!?」


 朝の風が、別の方向から押し寄せた。

 多くの足音が重なる。

 布の擦れる音。

 人の数が増えていく気配。


 ク・エルが振り向くと、そこには信徒たちと医療班。

 そして、その()()()()()()がいた。


 和装の着物。

 胸には、最天使長の紋章。

 空気が整う。場が静まる。


「……ザドキ・エル最天使長。……復帰されて、大丈夫なのですか?」


 ク・エルは、思わず目を見開いた。

 ザドキ・エル。

 悪魔から天使ではなく、人へ戻ったはずの彼女が。

 それでも、最天使長の姿で、立っている。


 ザドキ・エルは、軽く笑った。

 笑ったのに、声に甘さはない。


「大丈夫かどうかは、後で考える。今は動けるから動くだけ。

 やりたい事とできる事が重なったら、その日は吉日だよ、ク・エル」


 ザドキ・エルは視線を走らせ、的確に指示を飛ばした。


「信徒は負傷者の搬送、巫女の保護を最優先。

 結界の残滓に触るな。悪魔の残党がいるやもしれん。

 周囲の警戒は天使小隊を中心に二列で行え」

「「「はっ」」」


「医療班、止血と治療の準備を。先ほどの領域と同じ黒い傷は、奇跡の回復術で塞げ。魔力が残っている可能性が高い」

「「「承知!!」」」


 言葉だけで、信徒たちの背筋が伸びた。

 恐れと安心が同時に混ざる。


 ク・エルは、その指揮の速さに息を呑んだ。

 力が全盛期じゃなくても、場を動かす力は戻っている。

 『恐ろしい人が味方側に立った』と、誰もが本能で理解する。


 ザドキ・エルは、ク・エルへ視線を戻す。


「あなたが足止めしてくれたおかげで、市民の被害は抑えられた。ありがとう、ク・エル」

「……いえ。……私は、私の仕事をしただけです」


 返した瞬間、ザドキ・エルの口元がわずかに上がった。


「頼もしい限りよ。……それに、またシ・エルに借りができたわね」


 ク・エルは大鎌を握り直し、少しだけ視線を逸らす。


「……それは、お気になさらず。……現場にいる()を評価してください」


 ザドキ・エルはク・エルの冗談めいた言葉に一度笑う。

 笑顔をすぐに引っ込め、空気を切り替えた。

 そして、朝の空気の中に残る、戦いの熱へ意識を向ける。


 魔力と秘力がぶつかった跡。

 それが、朝の空気の中でもまだ残っている。


 ユーサが起きた衝撃の名残。

 そして、今も続いている戦場の匂い。


「なるほど……あそこか」


 ザドキ・エルは、迷いなく歩き出した。


「市民の治療と警備は任せる。私たちは、奥へ急ぐ」


「「「はっ!! ザドキ・エル最天使長!!」」」


 ク・エルは一拍だけ遅れた。

 背中に、奇妙な緊張が走る。

 ザドキ・エルと共に戦う。

 それは、味方が増えた安心だけではない。


 ク・エルは、大鎌を構え直した。


「……ザドキ・エル最天使長。お供いたします」

「助かるよ、ク・エル。急ぐぞ!!」


 ザドキ・エルは、着物の裾を揺らしながら、朝の神社を駆け抜ける。

 ク・エルは一度だけ息を吸い直した。大鎌の刃が、朝日に光った。


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