2-2. The Disturbing School Life The Lost Regalia
久しぶりの更新です。
お待たせして申し訳ありません。
私が入学して1週間。
学校の方はいよいよ本格的に授業が始まった。
エレシア中等学校の授業についてはさすがエメリアで有数の進学校。
私を含めたほとんどの生徒たちが難しい授業内容についていくのがやっとの状態である。
そんな授業と戦い、疲労困憊となった私達生徒にとって、学校の食堂で食べるお昼ご飯はひと時の癒しの時間となっている。
学校での学食は基本的に学費に含まれているため無料。
かと言って、タダだから味のほうも悪いかといえばそんなこともなくほっぺたが落ちるほどおいしいご飯なので、生徒からの人気も非常に高かった。
そう。たった1人を除いて。
「はああああっ。誇り高きローセスの皇族である私が……。場末の学園でこんなみすぼらしい食事で過ごすことになるなんて……。」
「……シャーラさん。」
そのたった1人であるシャーラさんはむすっとした顔でグチを垂れ流しながら食べている。
一体何がそんなに不満なのかわかりません。
正直一緒に食事をしたくありません。
「さ、さすがにそれは失礼ですよ。シャーラさん。というより村にいたころよりも断然豪華ですし。」
「……あなた一体今まで何を食べていたんですの?」
そんな彼女に苦言を呈すれば返ってきたのはこんな言葉。
その物言いに腹が立ちますが、本人に悪気はないと思うので何も言いません。
……悪気がないという点で余計に腹が立ちますが。
ですが実際、食堂の献立はなかなか豪華ではないでしょううか?
今日の献立はスィーのバターソテーに野草のサラダに真っ白のパン。
スィーというのはエメリア南部の湖沼に生息する大型の川魚で、エメリアではそう珍しい魚ではなく私の村でもよく食べられていました。
が、私の村では食べていたのはシンプルに岩塩を使った塩焼きが一般的。
なので、今目の前にあるこんなに手の込んだ料理なんて滅多に食べられなかった。そもそもバターなんて初めて見ましたし。
しかも白パンなんて庶民が毎日食べられるものではありません。
大半の生徒はこんなにおいしいご飯が食べられて心から感動していることでしょう。
しかしそこは大国のお姫様。こんなにすごい料理に対しても全くと言っていいほど心に響かないらしい。
「こんな泥臭い魚を食べさせられ続ける生活なんて私は耐えられませんわ。バターもしつこいわりに風味も薄い。ここが帝宮……実家だったら料理人をバチンと張り倒してクビよクビ!!」
「ちょ、ちょっと……。お願いですから声を抑えてください。その料理人さんがすごい顔でこっち見てますよ!!」
私まで睨まれてご飯を減らされたりすればどうするんですか!!
ああ、どうしてこんなことに……。
そもそもどうしてシャーラさんと一緒にご飯を食べているのかというと、少し前に時間をさかのぼる必要があります。
詳しく言えば前回はゆらちゃんと寮の同室の三人の話をしていた後のことです。
そうこう話してあるうちにお昼休みになったので一緒に食べに行こうと席を立とうとした時です。
「エメリー。ここにいたのね。」
颯爽と登場する三鼎の女神(笑)の一柱のシャーラさん。
金色の髪をなびかせながらカツカツと足音を立てて向かってくる様はまさに物語に出てくるお姫様。(本物ですから。)
「うわあああああ!!!シャーラさまあああああ!!」
案の定、そんなシャーラさんを見てものすごく興奮するはゆらちゃん。そんな彼女の目がハートマークになっているのは決して私の幻覚ではないだろう。
「エメリー。私が貴女を昼食に連れていくことを許可するわ。光栄に思いなさい。」
はゆらちゃんは完全に無視だ。
「あ。すいませんシャーラ様!ぜひとも私めもご同伴させてください!!」
それでも無視されても決してめげないはゆらちゃんはあきらめずにお願いを続ける。
「悪いですがとても重要な話がありますので遠慮していただけませんこと?」
「う~分かりました。でも次は私も一緒に食べましょう!!」
おそらく他人には聞かせられない話。彼女の身の上に関わる話を吹聴しないかの見張りのためなのだろうか。正直ご飯時まで付け回さないでほしい。
「いいなあ。エメリーちゃん替わって欲しい!!」
うらやましそうな顔をして私のほうを見るはゆらちゃん。
「(そんなに替わりたいなら喜んで替わってあげたい!!私絶対行きたくない!)」
と心の中だけで思います。口になんてとてもいえません。言ったら死にます。社会的に。
「さあ。ついてきなさい。」
「……はい。」
「いってらっしゃ〜い!」
そんなわけで拒否権など持っていない私はシャーラさんの言われるがままに後をついていくしかありませんでした。
「ところでシャーラさん。帝国の料理ってエメリアどう違うんですか?」
時間は戻って。
食事を終わらせた私達は(シャーラさんはなんだかんだ言いながら完食していました。)食後の休憩を取りながらこんな質問をしていた。
理由は2つあって1つは先程の彼女を見て一体彼女が今までどんな料理を食べてきたのかが気になったこと。
もう一つは、実際エメリアから……というよりエレシア郡からも一歩も出たこともない私にとっては帝国がどんな世界なのかがものすごく気になったことです。
「そうねえ……と言っても帝国はとても広いから簡単には説明できないわね。」
「そうなんですか?」
「何しろこのレアート大陸の大部分を治める帝国だから。大きく分けても西のヴァレンティナ、北のセグラス、南のラーナ・ゴア、東の蓬莱。そこに準州や帝領も含めると文化は地域によってバラバラだから当然食事も察するところですわ。」
「はあ……」
スケールが大きすぎてついていけません。
「それで……どこの料理を食べていたんですか?」
「基本的に帝都は帝国の中央部に存在するから様々な文化の交流点だからさまざまな料理を食べていたわね。」
「へえ それじゃあ机の上にてんこ盛りの皿が所狭しと並んでいたりするんですか?」
自分のイメージする王様の食事のイメージをそのままを口に出すとシャーラさんは。
「あのねえ……そんなわけないでしょう。ローセスは質素倹約を重んじる家系だから豪奢・放蕩とは縁遠いわね。」
「い、意外です……。シャーラさんのことですから高級食材とか贅を尽くした料理を毎日食べていると思っていたんですが……。」
「貴女私のこと何だと思ってますの?」
「まあ、それをした南のディールランドは圧政の結果、市民革命で倒れたからね。お父様はこの事を教訓として国政に携わっていますわ。」
「は、はあ……そうなんですか?」
そんなわけで出された食事を完食した私達は(シャーラさんもなんだかんだ言いながら完食していました。)午後の授業が始まるまでの間食休みの間会話がないのも気まずいので聞きたかったことを聞くことにしました。
「シャーラさんはどうしてこの中等学校に来たんですか?」
ここで一番気になっていたことを質問した。
名門校とはいえ平民のための学校であるエレシアに他所の国の皇族が通うなんてまず想像のしようがありません。
「………。」
するとシャーラさんはギロリとこちらをにらみつける。
その目力に思わず身をこわばらせてしまいました。
「………貴女。それを聞いてどうするつもりですの?」
「え?いやちょっと気になっただけで……、言いたくなかったら言わなくても。」
強い言葉と威圧をモロに受けた私はしどろもどろになってしましました。
本当に怖かったです。
「このことは貴女が知っていい問題ではありませんわ。なにしろこれは貴女の命に関わるほどなののですから。いいですわね!!
「は、はい!!」
私は恐怖をはねのけて聞こうなんて思いませんでした。
これ以上このことに聞くことはできない。
故に、このこと知ることは永遠にありません。
普通なら。
「あああ……。」
しかし、私はその秘密を知ることになる。
シャーラさんの頭上に靄のような何かが浮かび上がる。
「(ダメダメダメ!私別に知りたくないんで本当にやめてください。)」
そんな私の願いも空しく。シャーラさんの頭上に新たな秘密が浮かび上がりました。
「……なんてこと。」
【剔抉の眼】。
他人の秘密を暴き出す神の眼。
私にとって生まれた頃から持ち合わせているもの。
と言ってもこの眼のことを知ったのはつい最近のことですが。
最近は国家機密並の秘密を知る機会が増えたせいで苦労していますが、入学以降はこれといった秘密を見ることがなかったため安心していたので、不意打ちでした。
・ローセスの国宝【慈悲の宝杖】を壊れた責任を取って帝国を追放される。
「……コクホウ。」
自分の眼の厄介さを改めて痛感しました。
コクホウ。つまり国の宝。それが壊れた。
「……。」
ここで思い出したのは昔私が小さいころの記憶。
村長が持っていた汚いツボが何者かによって割られたことがあったのですが、その際、普段は温厚な村長か烈火のごとく怒りだして犯人探しに躍起になっていたのを思い出しました。
あの村長の宝でさえ村中で大騒ぎなのだから帝国の国宝なんかが壊れた日には……国中が大騒ぎなのでしょう……多分ですが。
というか、これって私が知っちゃったらマズくないですか?
って、シャーラさんもそう言ってましたね。
私の命に関わると。
「まあ、この秘密を守っていただけたなら、私が皇帝になったあかつきに一番の臣下にして差し上げますわよ!光栄に思いなさい!」
「……どうしよう。」
そのため私はこの後の彼女の言葉だけでなく、この後の授業もあまり耳に入らなかったのはここだけの話です。