これから進む道
朝になり、部屋に、ノックの音がした。
返事をすると、
「おはようございます。」
ドアを開けずに、ドア越しに、私達に、声をかけたのは、ケンだった。
「着替えなど、済みましたら、下にある食堂に、いらして下さい。場所はカミルが、知っています。」
では後で…と、ドアの前から、気配がなくなる。
朝の支度を済まして、
食堂への階段を下りていくと、丁度水を運んで、階段の近くを通った、ケンが、私達に一番に気が付いた。
「おはようございます。
昨日は、よく眠れましたか?」
「おはようございます。」
『 全然、眠れませんでしたよ。はい。ずっと身悶えしてましたから…』
と思いながら、改めて挨拶を返した。
若干、疲れた顔を隠すように、笑顔をつくる。
子供達も、声を揃えて、元気な挨拶をする。
見渡せば、ケンの進行方向には、席に座っている、アレクシオスとオーキッドがいた。
オーキッドの姿を見て、胸が、小さく跳ねたが、気付かないフリをする。
『オーキッドは、気持ちが、わかると、断言したわけでも、私の恥ずかしい気持ちをわかっていると、決まったわけでもない。
そう言われたわけでもない。
だから、昨日の、言葉を深く、考えない事にした。
知らないフリ、気づいてないフリをすると決めた。
そうじゃしないと、恥ずかし過ぎて、もう会えない。
いや、できたら、もう会いたくないかも…。
うそ。会いたい。顔見たい。
あっでも、顔見られたくない…。
あっ。オーキッドは、見えないけどさ、そーじゃなくてさ…。
ああああ。また身悶えしそうだ。
いかん。知らないフリ。気付いてないフリ。』
頭から、今の思考を振り払う。
『40近いおばさんが、何、恥ずかしがってんだか』って思うけど、
恥ずかしいポイントって、人それぞれだし、おばさんだって、乙女心持ってんだよ。凹
挨拶の声に、気が付いたのか、席に座っている2人も、こちらに気が、付いたようだ。
アレクシオスが、片手を上げた。
みんなで、近寄り、朝の挨拶をして、促されて、空いている椅子に座る。
カミルが、勝って知った、感じに動く。
「あの…昨日は、疲れや、カミルとの再会で、頭が、まわらず、そのまま、ご好意に、甘えてしまいましたが、ご存知かと思いますが、宿屋代や謝礼など、私達に、お支払いする物はありません。
ですから、昨日のお礼と宿屋代として、これを作ってきました。」
「これは?」
「あの夜、モジギアの城で、アレクシオス様は、ある方を治して欲しいと…
そして、馬車ではこれから、メトレーシアに、向かうと…あと、相当な謝礼ももらえると。
話しをまとめますと、アレクシオス様が、おっしゃっている方は、メトレーシアにいて、とても、身分の高い方なのかと、あと何か。治して欲しい病気が、あるのではないかと…
行って、治しせればいいのですが、私達には、旅できるだけの、資金や準備は、ありません…」
アレクシオス達は、黙ってマリアの話を聞いていた。
「ですから、朝、これを作りました。これは、完全治癒の唄を歌った、水です。」
そう。昨夜、身悶えして、朝方まで、寝ていなかったが、寝なければと、思考を違う事に、走らせる事にしたら、色々考えなければ、いけない事があった。
生活するには、お金がいるが、見ず知らずの助けてもらった人に、今後の生活の、面倒を見てもらうわけにはいかない。
昨日は、カミルとの再会で、考えていなかったが、村は焼け、頼れる人もいない、家もなければ、お金も、着替えもない、売ってお金に、かえる物すら無いのだ。
この泊まっている、宿屋にも、お金が、かかっている。
文無しの状態で、堂々と宿屋に、泊まってしまったのだ…。泥棒と変わらない…。
お金が、無い以上、働くしか無いが、働くにしても、昨日の分を今日、なんとかできるわけもなく…
私に、出来る事を考えた。
『治して欲しい人の為に、ここにいるなら、その人の為になる物が、お金の代わりに、なるだろうと思った。』
だから、聖水より効果の高い、水。
簡単に、言うなれば、最高聖水とでも言うのだろうか?
聖水より濃い青で、中に、金と銀の細かい砂でも入っているかの様に、輝いているそれを作った。
朝、まだ暗い間に、水差しを宿の人に、借りに行き、カップに、5杯分の水をもらってきた。
もらいに行く時、部屋の扉を出ると、近くに、椅子があった。宿屋の人が、何かの作業に、使った椅子が、運ぶ途中で、どうしても持てなくて、一時的に置いていったか、何かだろうと、思ったが、帰ってきたら、無くなっていたし、たいした事では、ないのだろう…
カップ5杯分の最高聖水を作り、
一杯分は、起きた子供達と分けて飲んだ。
あとの4杯分を借りた、水差しのまま、掛けてあった布を外し、アレクシオスの前に、出したのだ。
「これは、完全治癒の唄の効果を持つ水です。
これを飲めば、完全治癒の唄の歌には、少しおよびませんが、それでも、ほぼ、同等の回復をします。
回復薬や治癒薬のような、働きをします。
ここには、4杯分、用意してまいりました。
助けて頂いた。お礼に皆様に一杯づつ、残りは、必要とされている方に…。
御三方は、小瓶に、入れれば、いざと言う時に、役立つかと…小瓶を用意する時間が、ありませんでしたので、今、飲んで頂いても…。
足りないようなら、直ぐにつくり…」
そこまで言うと、アレクシオスが、おもむろに、コップに、水差しから、最高聖水を注ぎ入れ、一気に。飲み干した。
「な!!!!!」
びっくりして、声をあげたのは、ケンだった。
「毒でも入っていたら、
どうするんですか!!!!!」
慌てたケンが、アレクシオスに、駆け寄った。
「マリア達が、今、俺に、毒を盛ってなんの得になるのさ…」
「ですが、そんな。得体の知れない…」
「ケン、小瓶を3本用意して。」
ケンの心配を無視して、アレクシオスは、指示を出した。
ケンは、渋々指示に従い、どこかに、行った。
そして、アレクシオスは、
「ご馳走様。なんだか、体が、暖かく、軽くなったよ。体の中から、力が。湧き上がる感じだ。」
そう言うと、
「オーキッド、ちょっと、杖かして〜」
オーキッドから、隠し剣になった杖を受け取り、少しだけ鞘から、左手で、剣を引き抜き、右手に、持ち替え支えて、片手に持った。
そのまま、剣の角度を変え、顔を剣に映した。そして左手で、左頬の入れ墨をなぜた…
その手をそのまま机に、置き、左頬に頬杖をついた。
その後、剣を右片手で、器用に、鞘に、仕舞うと杖をオーキッドに返した。
そして、マリアに、布を渡すよう手を出し、受けとって、最高聖水の入った水差しに掛けた。
「ありがとう。お礼は、受け取ったよ。だが、これでは、受け取り過ぎだ。
この水の価値は、カップ一杯で、国宝級の宝石が、買えてしまうよ。
今後は、こんな簡単に、人に渡してはいけない。
どんな奴に、狙われるかわからないし…」
アレクシオスは、マリアの顔を覗き込み、話を続ける。
「まあ、だから、俺が、今飲んだ分で、俺への昨日のお礼は、充分。オーキッドと、ケンにも一杯づつ、お礼に、もらうとして、残る1個は、必要な方の為に、俺が、買い上げる。
それを旅の資金にしてもらいたい。
もし、これで、治らなかったら…。
君が、来てくれる方が、対処もでるだろう⁈
それに、これから暮らす所も、無いだろう?
子供達を連れて、働けるとこれなんて、そうそう無いだろし、君の力を知って、また、狙われた時、君や子供達は、また、危険にさらされるよ。
だから、とりあえずは、メトレーシアまで、来てほしい。
これを買い上げるにしても、今、そんなに、持ち合わせてが、無いから、旅の資金は、とりあえず、こちらでだして、メトレーシアに、着いたら、旅で使った分を差し引いて、支払うのは、どうだろうだろうか?」
アレクシオスは、にっこり笑って、さらに続けた。
「さて、これで、旅の資金の心配は、なくなったね。朝食を食べたら、旅に必要な物を買いに行くよ。」
「さあ、カミルみんなに、食事を配って〜」
そう軽い口調で言った。
小瓶を持って、戻ってきたケンが、テーブルにある水差しを布ごと持ち上げて、また出て行った。
『確かに、住む所も、頼る人も、お金も無い今、それは、凄く有り難い申し出だった。
正当な、自分のお金であるなら、気を使わず、使いやすいし、子供達に不憫な、思いをさせなくてすむ…
でも、こんな、都合よくて、いいのだろうか…
アレクシオスは、どうだろうかと、疑問形で聞いてはいるが、子供達の事と、今後を考えれば、選択肢は、メトレーシアに行くしかないのだ…。
何か、アレクシオスの思い通りになっている気がするのは、疑い過ぎなのだろうか…』
そうは思いながらも、
「では、よろしくお願いします。」とメトレーシア行きを了承した。