国家魔道具研究所
次の日、俺は指定された時間に宿の前に到着した迎えの馬車に乗り込んだ。幸い、リュゼとロイの同行が認められたため、一緒に向かっている。
「乗合馬車とは乗り心地が全然違うな」
「そうですね。さすが、国が運営している研究所が所有している馬車です」
そのまま揺られていると、俺たちを乗せた馬車は貴族街へと入っていった。貴族街は外とは違い、街を歩いている人がゼロと言ってもいいほど少なかった。
その代わり、立ち並んでいる家はセルディアの街で俺たちが住んでいる屋敷と同じくらいか、それより大きなものばかりだった。
貴族街の景色を眺めて楽しんでいると、すぐに目的地に到着した。
「ここが国家魔導研究所か」
俺が建物を見て感動していると、後ろから声がかかった。
「よう、レイン! 4日ぶりか? 元気にしてたか。手紙を読んだが、ずいぶん王都を楽しんでいるようだな」
「ゴズさん。手紙ありがとうございました。誘ってくれてとても嬉しいです。ちょうど研究所も気になっていたので」
「そうかそうか。それじゃ、俺について来い。中は広いから、はぐれて迷子になるなよ。それと、そこら辺に置いてあるものを壊すと大変なことになるから、気をつけろ」
そんなゴズさんの脅しともとれる発言にヒヤヒヤしながら、ついて行った。
「それで、ゴズさん。手紙で会いたいと言っていた人って、どんな人なんですか?」
「それは会ってからのお楽しみだ。と言っても、俺もその人から素性は説明するなって言われてるから言えないんだけどよ」
わざわざ自分の身分を教えるなと言うということは、相当上の身分の方なのではないだろうか。
「よし、ここだ。この部屋で待つぞ」
ゴズさんに案内された部屋に入って待つこと数分、部屋の扉がノックされた。
ゴズさんがノックの音を聞いて立ち上がったので、俺とリュゼも慌ててゴズさんに倣って立ち上がった。
ロイも立ち上がったとは言えないかもしれないが、姿勢を正している。
入ってきたのは40代くらいの男性で、金髪を後ろで束ねており、とても豪華な服をまとっていた。
また、後ろには二人の護衛を連れていて、どう見ても偉そうな人だった。
「待たせて済まないな。座ってくれ」
そう言われたが、俺たちはその人が座るのを待ってから座り直した。
「さて、ゴズよ。そなたが言っていた、魔導飛空艇の完成に貢献したレインというのはこちらの青年かな?」
「はい。そうでございます」
「そうかそうか。聞いてはいたが、本当に若いのだな。せっかく来てくれたし、私だけが一方的に知っているのは申し訳ないから、自己紹介をしよう。私はセオドリエル・アルヴェイン。この国の王だ」
ゴズさんが面識があると言っていたので、心のどこかではそんな気もしていたのだが、まさか本当に国王が来るとは思っていなかった。
「今回は非公式な場なので、細かい礼儀作法は気にしなくてよいぞ」
俺が驚いて固まっていると、国王陛下がそんなことを言ってきた。しかし、それは俺にとってとてもありがたい。貴族の礼儀作法なんて、全くと言ってもいいほど知らないからな。
それとゴズさん、国王陛下の前にいきなり連れ出すとは。あとでお話があります。
「はじめまして、レインです。えっと、国王陛下はなぜ今回、私を呼び出したのでしょうか?」
「それはもちろん、かつてこのアルヴェイン王国の国家魔導研究所をもってしても実現することができなかった魔導飛空艇を実現させた、若き天才に会ってみたいと思ったからだ」
「実現させたと言われましても、俺はただちょっとしたアドバイスをしただけで、ほとんどゴズさんが一人で完成させたものなのですが」
「謙遜するな。そのちょっとしたアドバイスとやらが、魔導飛空艇を空に浮かべるに至ったのだろう?」
「さようでございます、陛下」
「そこで、おぬしの今回の功績を称えるために、何か褒美をやろうと思ってな。何か欲しいものはないか? 何でもというわけにはいかないが、できる限り叶えてやろう」
褒美と言われても、いきなり言われて今欲しいものなんて、パッと浮かばない。
「国王陛下、そのレインもいきなり言われて混乱していると思うので、数日、時間を与えてやってはいただけないでしょうか?」
俺が悩んでいると、ゴズさんが助け舟を出してくれた。
「それもそうだな。では、数日考える時間をやろう。そうだな、魔道具研究発表会の日までに何か考えてきてくれ。もし何も思い浮かばなかったのなら、こちらで勝手に用意させてもらおう」
そんなこんなで非公式な謁見が終わり、国王陛下が先に部屋を出て行った。
「ゴズさん、一体どういうことですか? いきなり国王陛下を連れてくるなんて。肝が冷えたじゃないですか」
「いや、すまんな。俺も国王陛下に口止めされてたんだよ。なんでも、素のままのお前に会ってみたいとかでよ」
「せめて、それでも偉い人に会いに行くから気をつけろ、くらい教えてくれてもいいじゃないですか。ほら、リュゼなんて驚いて置物みたいになってるし」
そう、リュゼは国王陛下との謁見の間、俺の後ろで直立不動になっていた。国王陛下が出て行ってから気が抜けたのか、今は魂が抜けたような顔をして、ただ一点を見つめている。
「おい、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
大丈夫と言っているが、その声も顔も、決して大丈夫には見えなかった。
「とりあえず、座って休憩してろ」
俺はリュゼを部屋の隅に置いてある椅子に座らせた。
「それで、お前さん、褒美はどうするつもりだ? 陛下は今回の件で相当お前に感謝しているから、相当無茶なことを言わない限り叶えてくれるぞ」
「いきなり褒美なんて言われても……。ちなみに、どのくらいまで叶えてくれるんですかね?」
「そうだな。多分だが、子爵くらいまでの貴族にならせてもらえるんじゃないか?」
「貴族ですか?」
「そうだ。国王陛下は魔道具が大好きだからな。今までも、魔道具研究発表会で優秀なものを作ったやつには、男爵の地位まで与えていたぞ」
正直、貴族にはあまりなりたくない。俺は冒険者なり職人なりになって、自由に生活するのが性に合っているからだ。
「そういえば、ゴズさん。魔道具研究発表会の日程って決まったんですか?」
「ああ、明後日の午後から3日間だな。俺たちの魔導飛空艇は最終日に発表だ。ちなみに、参加するか?」
「3日もあるんですね。参加するつもりですけど、3日も拘束されるとなると少し考えものですね」
「なに、全日程に参加しなくちゃいけないわけじゃねぇぞ。大きな発表は最終日だけだ。陛下がいらっしゃるのも、その日だけだな」
「それじゃあ、俺たちも最終日だけ参加することにします。ちなみに、発表会は全員で参加しても大丈夫ですかね?」
「ああ、問題ないぞ。発表会自体は、お金さえ払えば見る分には自由だからな。今回は陛下がお前たち全員分の席を向こうで手配してくれるそうだから、安心しな」
そのあと、ゴズさんと一通り雑談をして、俺たちは宿に戻った。
「お帰りなさいませ、ご主人様。あの、リュゼさんは一体どうしたんですか?」
部屋に入ると、先に帰っていたシノが挨拶をしてきた。ちなみに、エルシアはというと、まだ籠もって何かをやっているらしい。
「いや、出先でいろいろあってな。今は放心状態なんだ。あとでいろいろ話を聞いてやってくれ。それと、魔道具研究発表会だが、明後日から3日間らしい。俺たちが参加するのは最終日だけのつもりだから、それまでは自由時間だな」
「わかりました」
「今日は俺も疲れたし、あとは頼んだ」
そうシノに伝えて、俺はパパッと風呂に入り、すぐにベッドに入った。
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