表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/122

第113話「愛の誓い」

「え? ちょっと、なんで? ウソでしょ!? 魔法だよ!? 魔法なのに何で!? 何で!!??」

絶望がレオンを襲う。ヴェルニャ、アニア、フィラウディア。4人全員が勇者の前に出てきてしまっている。転移することができない。もはや『詰み』の状況だった。

「『神術』じゃからな。魔の法になど負けん。」

勇者アリスはゆっくりと歩みを進めて、4人に剣を向ける。

「なぜプラコ公国を襲撃したか、素直に喋るのなら命までは取らん。さあ、答えるのじゃ。」

依然、勇者アリスの声色は優しかった。一厘も自身が魔族たちに遅れを取るなど思っていなかった。

「はは…。」

空笑いをして言葉を失うレオン。

「私たち、死んじゃう?」

最悪最低の現実を見据えるフィラウディア。彼女は魔素を使い果たし何もできない。

「どーしよっか、アニアちゃん。」

ヴェルニャも冷や汗を垂らし、全身の毛を逆立たせながら、アニアに解決策を求めた。

「…。」

しかし返答は無い。アニア含めた4人とも、蛇に睨まれた蛙のように静止していた。

「ふむ。答えないのなら、無理矢理聞くまでじゃ。」

勇者アリスが息を吸って、また何かを唱えようとする。


「誓縛の呪術。」

突如、アニアが呪言を紡ぎ始めた。

「―身体を賭して、精神を賭して、生命を賭して、魂を賭して、我が全てを賭して。

我、最愛のゼベルト様へ生涯尽き果てるその時までの永遠の無我愛を誓う。

此の戦場にて消え去りし魔の素よ、我が愛の誓いに呼応し勇の者を封じよ。―」

独り、アニアはここに居ない最愛の人に生涯の愛を誓った。ここは恋仲の者たちが愛を誓い合う場ではない。ましてや結婚式場などではなく、血液が染み渡り、死肉と武器が転がり果てる、地の抉れた惨死の香る戦場。

「『極・覆滅の濁素』。」

龍と勇者の戦闘で消え去った魔素、否。それ以前のアニアとヴェルニャによる人族兵たちへの蹂躙と滅殺で消え去った魔素さえもが復活しアニアの呪言に従属していった。それは呪術ではなく、もはや『呪法』だった。澱み濁る鈍色の魔素だったモノが嵐となって勇者アリスを襲う。


「"DISENCHANT”」

勇者アリスは慌てることなく、唱えた。

「…神術に争うか。」

『神術』と『呪法』が衝突し、世界を黄金と紺碧に染めるか、澱んだ鈍色に染めるかを争う。黄金と紺碧の波紋と澱んだ鈍色の嵐。『体を、心を、命を、魂を、アニアの全てを賭した呪法』は『キリア神が勇者に与えた術』と真っ向から削り、混じり、弾け、世界の主導権を奪い合う。


「それで、魔族の少女よ。一体これからどうするのじゃ? わしの動きを封じたは良い。しかし此処からお主らは逃げられん。諦め、呪術を放棄せい。さもなくば、貴様の命は無い。」

勇者アリスの声色が変わった。殺意の滲み溢れた言葉がアニアたちの鼓膜を打った。


「殺したいのなら、どうぞ殺してください。私はゼベルト様のために、この命を持って時を進められるのであれば、それで本望ですから。」

アニアの瞳に、フィラウディアもレオンもヴェルニャも映っていない。彼女の曇りきった赤い瞳に写っているのはゼベルト。彼1人だけだった。


「…。」

初めて、勇者アリスが言葉を失った。

「貴様の愛は呪いじゃ。純愛などでは全く無く、呪いで煮詰められた偏愛じゃ。」

「それで、結構です。私はゼベルト様を愛しておりますからッ!! アハハッ!!!」

黄金と紺碧、澱んだ鈍色は争い続ける。どちらかの命が尽きるまで。誰も介入することはできない。そう他の3人は思っていた。


「…勇者様、緊急ゆえご報告させていただきます。勇聖学園が襲撃されました。教え子、教員、ユーリを除いた人族全員が皆殺しにされました。ユーリも魔素を封じられ、誘拐される寸前です。今すぐに勇聖学園に行かれた方がよいかと。」

その声が響くまで、誰もその存在に気づかなかった。黒装束に身を包み、顔すらも黒の面で隠した謎の存在。年齢も種族も性別も不明。突如現れた乱入者が勇者アリスにゼベルトたちの計画の進行を伝えた。

「なっ…。」

勇者アリスは数秒眼を丸くし、驚愕する。しかし、次の一瞬で勇者アリスは何かを覚悟し、『神剣』を振り抜いていた。黄金と紺碧の斬撃がアニアに迫る。

「アニアっ!!!!!」

反応したのは、半魔半獣のヴェルニャ。獣人の第六感、魔族の魔素感覚。左腕を半瞬で横に押し出して、アニアの体を一歩左側へ弾いた。

「っ!?」

かろうじてアニアは斬られずに済んだ。

「ぎゃぁっ。」

その代わりに、ヴェルニャの左腕が黄金と紺碧の斬撃によって斬り飛ばされた。

「れ、レオンッ!!!!!」

激痛で顔を歪ませ、唇を噛み締めながらも、ヴェルニャはレオンの名を呼んだ。

「空間転移ッ!!!!!」

反射的に、レオンは魔詞を唱えた。レオン、アニア、ヴェルニャ、フィラウディアの足元を囲むように紫色の魔法陣が発現した。

「“OBST…。いや優先すべきは貴様らではないか。」

勇者アリスは詠唱を中断した。レオンたちはその隙に転移魔法によってこの戦場から姿を消した。

「行くぞ。」

「はい。」

「"TEREPORT”」

そして黒装束の者と共に、勇者アリスもこの戦場から姿を消す。夜の星と月が無人の戦場を照らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ