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第110話「奇襲死襲」

「私は人族兵とは戦わないから。勇者とだけ戦う。それじゃ、先に行ってる。」

フィラウディアさんが赤黒い鱗に覆われた龍の姿になる。そしてこの森の中から空へと羽ばたいていく。向かう先はプラコ公国の監視塔。ザリグルクから来る可能性のある魔王軍を監視する防衛拠点。そこを私たちは今から宣戦布告無しに、奇襲攻撃する。フィラウディアさんがいなくなり、残るは私とヴェルニャさんとレオンさん。

「ボクはゼベルトお兄さんたちの連絡にも対応しなきゃだから、遠くで見てるね。戦力は2人で申し分ないだろうし。2人とも何かあったら魔法陣越しに連絡して。」

「りょうか〜い。」

「はい。」

レオンさんが私たちの手のひらに小さな紫色の魔法陣を発現させる。この魔法陣は声を転移させるらしい。これで連絡を取る。


「じゃ、私たちも行こっか〜。あ、そうだアニアちゃん。下手に命かけて時間稼ぎしちゃダメだからね。勇者はフィラウディアに任せる。私たちはすぐに撤退する。分かった?」

「…分かっていますよ。」

「ホントかな〜?」

ヴェルニャさんが私を細めた猫眼で見つめる。私が命をかける可能性は零じゃない。ゼベルト様のもとに勇者が赴くのを1秒でも遅らせる。そのために、私は全てを捧げるつもりだ。

「アニアちゃん。私のお父さんはその命を捨てて、貴女を守った。そんな貴女を私は失いたくない。お父さんが守った貴女を私も守る。だから自分から命を捨てちゃダメだからね?」

「はい…。」

「よし、それじゃいざ奇襲攻撃!!!」

ヴェルニャさんが森の中を駆けていく。


「レオンさん。」

「ん?」

「協力してくださってありがとうございます。まだ、辛いはずなのに…。」

私は寝込んでいたレオンさんに頼み込んで、この計画に参加してもらった。

「まあ、あれだけ頼まれちゃあね〜。ゼベルトお兄さんのため、愛してる人のためだって言われたら、断れないよ。」

そう言うレオンさんの瞳に映っているのはきっと私ではなくイザークさん。愛する誰かの為に行動する。きっとその一点で力を貸してくださった。

「アニアちゃん、頑張ってね。」

「はい、全身全霊をかけます。」

私も、森の中を駆けていく。その先で起こすは人族兵の蹂躙。同情など要らない、知らない、下らない。私の愛のため、ゼベルト様のため、死んでもらいましょう。


・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・


プラコ公国ザリグルク国境線監視塔周辺。人族兵たちの悲鳴と絶叫が響いていた。駆けていくと同時に肉片肉塊を残していくのは『滅獣』という名の半魔半獣。歩いていくと同時に死骸を残していくのは『躙呪』という名の魔族の少女。

「ニャハハハ〜!!!!!」

猫の笑い声と共に、身体が潰し斬れる音が鳴る。血と肉が飛び散り、戦場に滴る。迫る2振りの剣。逃げる者、立ち向かう者。どちらも剣の錆と化す。

「逃げろおおお!!!」

「来るな!!! 来るな!!!」

「ああああああ!!!」

プラコ公国は小さな国。魔王軍四天王2人の襲撃を抑えるほどの軍事能力は皆無だった。


「侵食の呪術。憑依の呪術。服従の呪術。」

少女の声と共に、呪いが解き放たれる。安らかに死ぬことなど許されず、骸は味方だったはずの同族に武器を振るう屍兵となる。戦場はもはや戦う場ではなく、蹂躙と滅亡の訪れる阿鼻叫喚の地獄と化していた。

「あ、あ、あ。」

「もうだめだ、もうだめだ、もうだめだ。」

「おえぇぇぇ…。」

絶望が、破滅が、呪いが、死が、人族たちに訪れる。


『ガギャァァァァァッ!!!!!』

夜空では、龍が咆哮する。その叫びを聞いた人族たちは身動き一つが不可能になる。

「…ああ、俺たちはここで死ぬんだな。」

誰かが呟いた。プラコ公国という小さな国がたった三人の生命体に蹂躙され、滅ぼされる。それは時間の問題だった。


「"TEREPORT”」

少女の声。唱えられた何かと共に戦場に一筋の光柱が立つ。

「"DISENCHANT”」

もう一度少女の声。何かが唱えられると、戦場に蔓延していた呪いが解ける。

「あ…。」

「神よ…。」

「た、助かった、のか?」

叛逆していた骸と武器、兵たちが正気に戻る。アニアの呪術により骸兵と化していた屍は動きを止めて、地に倒れ灰になった。


「勇者アリスがここに来たッ!!!」

少女の声。されど神聖さを纏う力強い声が戦場に響いた。

「プラコ公国軍兵たちよ、速やかに撤退せよ。ここは勇者アリスに任せろッ!!!」

勇者という希望が絶望する人族たちに訪れた。

「ぜ、全軍撤退いいい!!!」

「勇者様にこの場を任せる!!!」

「速やかに後退せよっ!!!」

「「「「「ォオオオッ!!!!!」」」」」

プラコ公国軍兵が魔族2人に背を見せて退いていく。軍が去った後、戦場に残ったのは純白の衣を纏う1人の人族少女。純白の鞘に収められた、紺碧装飾の施された黄金剣を腰に携えている。そして勇者アリスは、金髪を血の匂いの混じる夜風に揺らしながら、その碧眼で半魔半獣と魔族の少女を睨んだ。

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