第102話「大将戦 決着」
十数分に渡って繰り広げられる、銀と漆黒の剣舞。魔王と武王。その死合を観ていた者たちは感動していた。
「ハッ!!」
「ゼイッ!!」
響き渡る魔王と武王の声。銀と漆黒の金属音。剣の舞踏。剣舞としか言い表せない、死合がそこにあった。先刻、ゼベルトとリュウシンが見せていた、構えのみによる言葉なき会話。それを、実際に剣を振るい、その剣と剣でフィリアルとジェラルドは会話をしていた。
(そう、貴方は私に、貴方の人生を試したかったのね。)
轟々と振るわれる銀の剣防。全てを絞り出して、銀の大剣を振るジェラルドと相対して、フィリアルは彼の真意を感じ取っていた。
(そうか、アンタは本当に俺たちと友達になりてえんだな。)
苛烈な漆黒の剣撃。されどそれには邪悪な殺意は込められていなかった。自身をただ倒そうとする、ぶっ飛ばそうとする、フィリアルの剣撃からジェラルドは彼女の真意を感じ取っていた。
魔王フィリアルの漆黒の斬撃。鉄を潰すほどの垂直斬り、鉄を断つほどの水平斬り。鉄をひしゃげるほどの斜線斬り。それらを、連鎖し止まることを知らない激流のようにジェラルドに放つ。フィラウディアとの鍛錬の成果だった。
武王ジェラルドの銀の剣撃。大剣の刃が、柄が、腹が、漆黒を銀で迎え撃つ。『勇者』アリスとの鍛錬で、ジェラルドは一方的な連撃に慣れていた。見えた者たちを伏してきた彼の武闘が不動の岩のようにそびえる。
「オオオオオッ!!!」
ジェラルドが吠えた。一瞬、ほんの一瞬、フィリアルの激流に似た剣撃の境に隙を見た。銀の大剣が防御ではなく、攻撃のために空気を裂き、フィリアルに迫る。
「ッ!!!」
初めて、フィリアルが動揺を見せた。迫る銀に、フィリアルはかろうじて漆黒の剣を滑り込ませた。しかし、完全な防御とはならない。
『ギィィン!!』
鈍い音を立てて、銀の大剣と漆黒の剣が滑り合う。魔王の頬から赤い雫が飛び散った。
二人の王は距離を取った。お互いに息を整え、次の交錯に備える。
「届いたぜ、魔王。俺の武闘は。」
ジェラルドが眼を爛々と光らせる。彼の赤い髪が風に揺れる。
「…。」
フィリアルは黙って自分の頬にできた斬り傷を撫でた。そして、彼女は漆黒の魔素を身体に纏わせた。
「…次の一撃、我は貴殿を確実に絶対に殺す気で剣を振る。友になれなくなるのは残念だが、我は、負けられぬのでな。」
「そうか、なら俺もアンタを殺す気で剣を振る。俺は、俺の武闘が魔王に勝つところを見てえ。国も何も関係ない。これは俺の人生だ。」
二人が殺意を剣に宿した。静寂が二人の王を包む。風だけが動いて、フィリアルの黒髪とジェラルドの赤髪を撫でた。そして。
「”SCHWERT”」
フィリアルが、”何か”を唱えた。しかし、その声は観客たちには届かない。ゼベルトだけがその声を聞いていた。ゼベルトが鍛錬の際に食らった不可視としか言いようのない斬撃。その完全上位互換、世界に結果だけが残る斬撃をフィリアルは放った。
「…っ!!!!!」
そのフィリアルの斬撃が届く直前にジェラルドは思い出した。
『愛と、勇気じゃよ。』
ジェラルドの剣から殺意が消えた。そして彼の心に現れたのは、彼自身と同じ赤髪を携える少女、否、娘。血は繋がっていない、されど彼女、シャルロットはジェラルドの娘だった。
「父上っ!!!」
フィリアルの斬撃がジェラルドに届く前に、娘の声が父に届いた。
「ッゼァアアア!!!!!」
ジェラルドの咆哮。世界の結果が変わった。
「がふっ…。」
されど、武王は魔王に敗した。銀の大剣は漆黒の剣に折られ、漆黒はそのまま武王の腹を斬っていた。致命傷。武王は立つことすらできない、膝から崩れ落ち、地に顔面をつける。
観客は何も言えず、誰も動くことはできなかった。世界に残った結果をただ眼に映していた。魔王を信ずる魔族たちも、武王を敬する人族たちも、ただその結末を見ていた。
「誇れ。貴殿は敗北したものの、我の殺意からその身を護ったのだ。」
倒れ伏す武王に魔王は両手をかざした。漆黒ではなく黄色と緑色の魔素による光がジェラルドに降り注いだ。内臓の溢れた腹の傷が修復されていく。血と肉と臓器がジェラルドの身体に戻っていった。
「…ははっ。俺の俺たちの負けだ、魔王フィリアル。でも、いい死合だった。」
仰向けになり、青い空を眺めながら、ジェラルドは敗北宣言をした。
「我ら、魔族の勝ちだッ!!!!!」
フィリアルが勝利を言葉に表した。そしてその言葉が決闘場に響いた数秒後、万雷の拍手が二人の王、魔王フィリアルと武王ジェラルドを讃えた。
全ての決闘が終わった。
「んじゃまあ、これから戦後処理? 決闘後処理をしに、俺たちと魔王軍は城に向かう。武兵たちよッ!! 盛大に見送れよッ!!!!」
「オウッ!!!!」
武王の言葉に、武兵たちが応えた。
[ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!!]
『ヤッ!!! ハッ!!!』
[ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!!]
『ヤッ!!! ハッ!!!』
[ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!!]
『ヤッ!!! ハッ!!!』
魔王軍を迎えた時の威嚇とは真反対。魔族3人の武闘への賞賛を込めて、武兵たちが声を上げ、銅鑼を叩く。その中を武王ジェラルド、剣姫シャルロット、剣豪リュウシンが歩き、魔族たちを城へ連れて行く。魔王フィリアル、滅獣ヴェルニャ、樂剣ゼベルトが先頭となり、人族たちについていく。プラグマ、アニア、魔王軍もその後に続く。彼らが城についてもなお、決闘場から武兵たちの賞賛は鳴り響いていた。




