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第101話「大将戦、開幕」

「武闘国家オーディロダム。大将:『武王』ジェラルド・クラウディス。」

国王が自身の名を上げる。

「魔王軍。大将:『魔王』フィリアル。」

魔王が自身の名を上げる。

『ドォオオオンッ!!!!!』

銅鑼が響く。それは開戦の合図。国と国を賭けた決闘が三度始まった。



「いざ、参る。」

死合は始まった。

「ゼイッ!!!」

ジャラルドが銀の大剣を振るう。人族が限界まで鍛えた体。そう評価して間違いのないジェラルドの体躯から放たれる銀の一閃。空気が裂けた。

「ハッ!!!」

フィリアルが漆黒の剣を振るう。最高純度、最高濃度、最高強度の魔素強化。黒色魔素に覆われたフィリアルの肢体から放たれる漆黒の一閃。空気が割れた。

『ガギィン!!!』

今日最大の金属音が響いた。銀と漆黒が互いの身を侵食せんと迸る。

『ガガギィン!!!』

金属の大音が響く。一瞬のうちに起こる銀と漆黒の2度の激突。

『ガガガギィン!!!』

金属の超音が響く。3度、一瞬のうちに3度。銀と漆黒が削り、喰らい、弾き合った。


王と王の死合。

魔王フィリアル。彼女は魔術・魔法において魔族最強。そして、剣術においても魔族最強。誰もフィリアルを超えることはできない。だからこそ彼女は魔王、魔の王だった。観客席でフィリアルの姿を見る四天王たちはその最強さを1週間前、その眼に映していた。

武王ジェラルド・クラウディス。彼は魔術・魔法において人族の中では凡人にすら届かない。一般の魔術使いにすら劣る。しかし、彼は武術において人族最強と言っても過言ではなかった。無論人族最強の勇者には総合力で劣るが、彼の武術は勇者と並ぶほどだった。


二人の王による死合は、十数分間繰り広げられることになった。


・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・


魔王軍と武闘国家オーディロダムの決闘、1週間前。

「み〜んな〜!! ひっさしぶり〜!!!」

「ニャハ〜!! フィラウディア〜!!」

アドナロ王国訓練場にて、ゼベルトとヴェルニャの鍛錬中、空からりゅうの少女が降ってきた。

「ヴェルニャ〜!!」

「どぅわ〜!!!」

いつぞやと同じく、フィラウディアはヴェルニャにそのまま激突して不時着した。

「フィラウディア、どうしたんだ急に?」

ゼベルトは突然降ってきた龍の少女に驚きながら来訪の訳を聞いた。

「ゼベルト!! フィリアルと一旦来たの!! 嬉しい?」

ヴェルニャを踏み台にして跳躍し、フィラウディアはゼベルトに飛びついた。

「のわっ!! う、嬉しいよ。うん。」

「そっかそっかー!! 私も嬉しい!!」

ゼベルトに抱きつき笑顔で言うフィラウディア。そんな状態をあの少女が黙って見ているわけが無かった。

「フィラウディア様の姿は見せませんが?」

アニアの声、それはゼベルトの背後、というよりすぐ背中から聞こえた。

「あのー、アニア。なんでアニアも俺に抱きついてるんだ?」

「…。」

黙ったままゼベルトを後ろから抱きしめるアニア。

「あのー、アニアさん?」

「…。」

「うへへ〜。」

魔族の無言少女と龍の笑顔少女に抱きしめられて、ゼベルトは身動きが取れなかった。

「ゼベルト、羨ましいことになっているね。」

「なら変わってくれプラグマ。」

3人の元へプラグマも現れた。

「フィリアル様がそろそろ来るはずなんだ。悪いけど、僕は遠慮しとくよ。」

にこりと笑って、プラグマはゼベルトの誘いを断った。

「二人とも〜!! 私はど〜う〜?」

フィラウディアに激突されてペシャンコになっていたはずのヴェルニャが、ゼベルトの元へ走ってきた。

「え〜、ヴェルニャはもういいよ。飽きたもーん。」

「私はゼベルト様以外に抱きつくことはありません。」

舌を出すフィラウディア。首を激しく振るアニア。

「ガガーーン!!」

打ちひしがれるヴェルニャ。笑うプラグマ。困り顔のゼベルト。


「ふふ、楽しいことになってるわね。」

フィリアルが突如現れた。彼女の足元には魔法陣があった。それは転移魔法陣。彼女は魔王、魔の王。レオンの十八番である転移魔法も彼女には簡単に扱える。

「フィリアル〜!!!」

ヴェルニャが喜びの声を上げる。彼女の来訪を見て、フィラウディアとアニアはゼベルトから離れた。

「フィリアル様、お帰りなさいませ。」

「久しぶり、フィリアル。」

「お久しぶりです、魔王様。」

「さっきぶり〜、フィリアル〜。」

「ええ、みんな久しぶり。1週間、フィラウディアと鍛錬していたんだけど、流石に疲れたから、一旦戻ってきたわ。」

首をポキポキと鳴らすフィリアル。

「ニャるほどね〜。じゃ、どれぐらい強くなったのかニャ!!!」

いきなり、ヴェルニャが木剣でフィリアルに襲いかかった。が、襲いかかったはずのヴェルニャは一瞬で吹っ飛ばされていた。

「な!?」

木剣も漆黒の剣によって真っ二つになっていた。

「ヴェルニャ、強くなったわね。」

「褒められても嬉しくないよ〜。」

地面に突っ伏しながら、ヴェルニャは不貞腐れる。


「流石ですね、魔王様。」

この一幕を、プラグマは喜んで眼にしていた。

「凄まじいの一言です。」

アニアは驚きを言葉と顔に表した。

(剣筋が全く見えなかった。フィリアルは一体どれくらい強いんだ!?)

言葉と表情にしなくてもゼベルトは心の中で驚愕していた。


「すごいでしょ〜、私とタンレンしてフィリアルめっちゃ強くなったから!!」

フィラウディアは胸を張って自慢気に息を吐いた。

「ええ、フィラウディアのおかげよ。」

フィリアルはそんなフィラウディアの頭を撫でた。


「フィリアル、俺とも一回。いいか?」

「ええ、どこからでもかかってきなさい。」

ゼベルトが持っていた木剣を構え、フィリアルはプラグマから木剣を受け取って構えた。

「なんだか、子供の頃みたいね。」

「…。」

集中してフィリアルの”起こり”を見るゼベルト。余裕はなかった。


そして。ゼベルトがフィリアルの魔素強化の片鱗、つまりは『起こり』を眼にした瞬間。


「っ!!??」


ゼベルトの木剣はフィリアルの振り抜いた木剣により吹き飛ばされていた。ヴェルニャのときと同様、ゼベルトには剣筋さえ見えていなかった。圧倒的な魔素強化。『起こり』が見えようと意味はない。純粋な身体的速度でゼベルトはフィリアルに敗北した。


「私の勝ちね!!」

驚愕し、一歩も動けないゼベルト。対してフィリアルは日常をただ過ごしていたようだった。幼い頃見た、森の中で陽に照らされる彼女の姿をゼベルトは思い出す。


ヴェルニャ、フィラウディア、プラグマがフィリアルの側に駆け寄り、その剣術を賞賛する声がゼベルトの耳に届く。でもゼベルトはただ現実に打ちひしがれていた。

(『起こり』が見えても、身体が全く追いつかなかった…。)

絶対的な壁。魔素強化のないゼベルトの限界。もしくは魔王という名の絶対存在。

「魔素強化が極まると、もう何もできないのですね…。」

アニアが一人、ゼベルトの側に歩み寄り、抱きしめた。

「ああ、流石、フィリアルだな…。」

ゼベルトは言って、アニアの頭を撫でた。


・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・


魔王軍と武闘国家オーディロダムの決闘、1週間前の夜。

「ありがとうな、鍛錬に付き合ってくれて。『勇者』アリス。」

オーディロダム城訓練場にて、『武王』オーディロダムは『勇者』アリスに鍛錬をつけてもらっていた。


「なんじゃ、改まって。」

ジェラルドの感謝に言葉を返した『勇者』アリス。その容姿は御伽噺に出てくる少女の姿そのもの。眩いほどの金髪と煌めく碧眼。彼女の年齢はゆうに60を超えている。しかし、その背格好は15歳程の背の低い少女のものだった。


「『順序』があんだろ? 本当は。だけどアンタは俺に稽古をつけてくれた。感謝してるぜ。」

頭を深く下げるジェラルド。

「お前の父にわしは世話になったからの。礼には及ばんのじゃ。」

「へへっ。そうか、俺の父さんは『戦士』だったんだもんな。」

「ああ、実に厳格な男じゃったよ。」

そう返して、勇者アリスは剣を構えた。それは名も無いただの剣。

「…。」

ジェラルドも無言で銀の大剣を構えた。


 無名の剣と銀の大剣が幾重にもぶつかり合う。訓練場にはジェラルドと勇者のみ。夜空の下、星と剣の輝きが煌めいていた。勇者アリスの剣は、正確、正統、正順を極めた剣。その眼にも止まらない連撃は一つ一つを追っていけば、全ては基礎を極めた凡技。ただ勇者はその凡技を絶技と成すから勇者なのだった。

「ぐっ。」

なんとか連撃にジェラルドは食らいつく。大剣の腹で、刃で、柄で、あらゆる技術を尽くして勇者の剣を防ぐ。

「うむ、もう十分じゃな。“BLADE”」

勇者アリスは言って、“何か”を詠唱した。


「は?」


ジェラルドの銀の大剣が空を舞っていた。彼の瞳には勇者アリスの剣が何もかも見えていなかった。ただ結果だけがこの世界に残った感覚。それをジェラルドは感じていた。


「今のは考えんで良い。どうすることもできんのじゃ。」

「…もし魔王がそれと同じことをやってきたら、俺はどうすればいい?」

「何もできん、負けるしかなかろう。わし以外はな。魔王がこの境地に至ってないことを願うのみじゃ。」

「ははっ、なんじゃそりゃ。」

ジェラルドは笑うしかなかった。

「安心せい。これまでの稽古で、お主は強くなった。後は全てを出し切るのみじゃ。」

「わかった。よっと。」

地面に座るジェラルド。

「ちょっと自分語りしてもいいか? 勇者様。」

「好きなだけするが良い。長話は老人だけの特権ではない。」

「じゃ、遠慮なく。」

勇者アリスも地面に座り、夜星だけが二人を眺めていた。


「俺の人生は武闘だった。生まれてからすぐ剣を持って、拳を握って戦っていた。この国、オーディロダムは強え奴が偉い。強え奴が全てだ。だから、俺は強くなった。兵士も、野盗も、魔獣も、男も女も子供も、全部戦ってねじ伏せてきた。自分が『戦士』であり、『国王』である父の息子だからとか、そんなことは関係ない。俺は強くなった。んで『武王』になった。でも、娘を、シャルロットを拾ってよ、全部が変わったんだ。あいつのために、俺は生きるようになった。」

ジェラルドは息を吸った。話はまだ続く。


「シャルロットのために生きるようになった。その矢先に魔王軍が出張ってきやがった。本当は降参してもいいんだろうけどよ。ふと思っちまったんだ。俺はどんぐらい強いのか、ってな。武闘が人生だったからよ。さっき、勇者様に『負けるしかない』って言われたけどよ。試してみたいんだ。これは、『武闘』は、俺の人生だから。」

ジェラルドは息を吐いた。そして『勇者』に『武王』は問うた。


「どうすれば、勝てる?」

「愛と、勇気じゃよ。」

勇者アリスは即答した。

「わかった。胸に刻んでおく。」

ジェラルドは真剣にただその言葉を受け止めた。

「じゃあ、わしはそろそろ帰ろうかの。」

「ああ。じゃあな、勇者様。」

「"TEREPORT”」

勇者アリスがまた“何か”を唱え、その姿を忽然と消した。星輝く夜空の下に残るは、赤髪の武人が一人となった。

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