第99話「先鋒戦」
[ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!!]
『ヤッ!!! ハッ!!!』
[ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!!]
『ヤッ!!! ハッ!!!』
[ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!! ドンッドドドンッ!!]
『ヤッ!!! ハッ!!!』
武闘国家オーディロダム王城・決闘城。魔王フィリアル率いる魔王軍100名程を出迎えたのは武人たちの掛け声と太鼓・銅鑼の響く音だった。空気がビリビリと痺れ、音が魔族たちを威嚇する。
「ニャハ〜、武闘国家って感じだね〜。」
ヴェルニャが間の抜けた声で感想を言った。
「ああ、そうだね。ゼベルト、怖気付いていないかい?」
わざとらしくプラグマはゼベルトを挑発した。
「ハッ。誰が怖気付くかよ。」
「その通りです。ゼベルト様が怖気付くなどあり得ません。」
ゼベルトとアニアの瞳が並んでプラグマを睨んだ。
「冗談だよ、冗談。アニア嬢、眼が怖いよ、眼が。」
プラグマは苦笑いをする。
「みんな、緊張はしていないみたいね。」
そう言うフィリアルも緊張していなかった。四天王、そして魔王の5人は皆平常心で、オーディロダム式の歓迎を受けていた。
「よく来た魔王軍よ!! 俺は武闘国家オーディロダム『国王ジェラルド・クラウディス』。俺の決闘の申し出、よく受け入れてくれた。嬉しく思う。」
声を張り上げながら、筋骨隆々、長い赤髪を後ろで編んだ男。精巧な顔つきをした大男の武人が、観戦場から現れ、決闘場に足を踏み入れた。それに応じて、魔王フィリアルも決闘場に降り立つ。
「我は『魔王フィリアル』。歓迎感謝する。今日は国を賭け、正々堂々と死合おうではないか。」
「ハッ。言われなくとも、まずは契約魔術を結ぼう。規則破りが起きてしまったら興醒めだしな。」
豪快に笑いながら、ジェラルドは魔術使いを一人、決闘場に呼んだ。
「契約魔術ではなく、契約魔法を交わそう。我は魔の王なり、魔法など容易い。」
フィリアルが呼ばれた魔術使いを止めて、宙に魔素で文字を描き始めた。
「おう、魔法か。さすが魔王だな。」
ジェラルドは素直に関心し、フィリアルの様子を見守る。
「『3回の決闘を望む。先鋒、中堅、大将。両軍最高峰の剣士で死合たい。原則として、魔術・魔法の使用は禁止。魔素強化と剣術のみの純粋な決闘で雌雄を決する。先鋒、中堅はそれぞれ一得点ずつ。大将戦は2得点。大将戦を終え、同点だった場合、延長戦を行う。その延長戦の勝者が此度の決闘の勝軍となる。』で良かったな?」
フィリアルが文字を描き切り、ジェラルドに問うた。
「ああ、それで良い。」
ジェラルドが低い声で答えた。
「我、魔王フィリアル。此度の契約を護ると命を賭けて誓う。」
「俺、国王ジェラルド・クラウディス。此度の契約を護ると命を賭けて誓う。」
二人が宣誓を終え、眼を一直線にぶつける。そして契約魔法が交わされた。
「ジェラルド。我らが勝ったら、貴様らは我らの友となってもらうぞ。」
フィリアルが真意を口にした。
「はッ。人族と魔族では友にはなれそうにないけどな。ただ、武人同士ならば戦友となれるかもしれないしな。まあ決闘が終わればわかるだろ。」
茶化すことなく、ジェラルドはフィリアルの言葉を真正面に受け止め返答した。
「さあ、魔王よ。早速、先鋒戦だ。」
「ああ、そうだな。」
二人の意見は一致し、早々に先鋒戦が始まる。
「武闘国家オーディロダム。先鋒:『戦姫』シャルロット・クラウディス。」
「ハッ。」
国王の呼び声に姫君、否。一人の女武人が答えた。身を鎧で包み、兜で頭を覆っている。父に似た赤髪の髪が、兜の後ろで風に揺れていた。
「魔王軍。先鋒:『滅獣』ヴェルニャ。」
「は〜い!!」
魔王の声に応える半魔半獣。シャルロットの前にその姿を表す。猫耳を縦に伸ばし、猫眼をぱちくりとしながら、ヴェルニャは猫のように体をしならせ伸びをする。
一人の女武人。シャルロットは戦いの前らしく、直立不動。されど力が入りすぎているわけではなく、程よい脱力をし、眼前の敵を視界に入れていた。
一人の女剣士。ヴェルニャはまるで昼寝前かのように、全身を風と共にゆらめかせ、脱力し切っていた。されど背中には2本の剛剣を背負い、悠々と立っていた。
国王と魔王が決闘場から観覧席へと移動する。決闘場に残ったのは、人族の武人と半魔半獣の剣士のみ。風が止み、その時が来た。
『ドォオオオンッ!!!!!』
銅鑼が響く。それは開戦の合図。国と国を賭けた決闘が今始まった。
「先手必勝!!」
声とともに、ヴェルニャが双剣を振るった。半獣由来の剛剣がシャルロットを襲う。
『ギィンッ!!!!』
響いた金属音。シャルロットの放った細剣による突きがヴェルニャの双剣をまとめて弾いた。
「ニャントッ!!」
一の太刀の結末にヴェルニャは声を出して驚く。対してシャルロットは無表情だった。今の攻防でも汗一つかいていない。
「今ので驚くぐらいの力量なら、降参することを薦める。」
熱く、そして鋭い声でシャルロットが言い放った。
「ニャハハハ〜。ごめんごめん、正直見くびってたよ。お姫様だからね。」
笑って、ヴェルニャが頭をかきながら謝る。そしてヴェルニャの纏う空気が変わった。
「でも、ここからは手加減なし。」
猫耳を絞り、猫眼を爛々と光らせ、ヴェルニャの全身の毛が逆立つ。魔素が体から漂い、筋肉もそのハリと陰影を濃くする。
「ッラァ!!!」
ヴェルニャ渾身の二剣。風を裂きながら、その刃がシャルロットに近づく。その二撃は時間差で迫る。左、そして一拍置いて右。
「ヤッ、ハッ。」
息を吐きながら、シャルロットが細剣を振るった。
『ギィンッ!!!!』
左の一撃。
『ギィンッ!!!!』
右の一撃。彼女が手にしているのは細剣。物理法則がそのまま働いているなら、ヴェルニャの全力を受けた時点で折れているはず。しかし、その細剣はシャルロット彼女自身のように真っ直ぐと伸び、ヴェルニャの剛双剣を弾いていた。
「…凄まじいな。」
魔王軍側の観客席。プラグマがポツリとつぶやいた。
「ああ。徹底的に無駄を省いた、筋肉の一部位ごとまで制御された魔素強化だ。」
「魔素強化をする『時』も完璧です。剣と剣がぶつかる『時』。力が必要な時にだけ魔素強化しています。」
ゼベルトとアニアがシャルロットの魔素強化で行われている絶技を言葉に表す。
「そして、極め付けは武器に対する魔素強化ね。」
フィリアルがシャルロットの細剣のカラクリを言葉にした。
「武器を魔素強化するのは獣族の特権では?」
プラグマがフィリアルに聞いた。そう、武器に対する魔素強化は獣族の特権。獣族の第六感が為せる技、のはずだった。しかしそれをシャルロットは人族の身で完璧にこなしていた。
「ええ、獣族の特権ではあるわ。でも、生まれた時から剣に触れ続ければ、剣にまでも感覚を『伸ばす』ことも可能なのでしょうね。」
「なるほど武闘国家。生まれた時から武人であるということか…。」
フィリアルの説明を聞いて、プラグマが納得する。魔王と四天王たちは武闘国家オーディロダムの武人の強さを理解した。
「ハッ!!」
ヴェルニャの二撃を防いだシャルロットが細剣を突き出す。まるで今度はこちらの番だと言わんばかりの猛攻が始まった。
「くっ…。」
突く。払う。刺す。点撃と線撃がヴェルニャを襲う。ヴェルニャの双剣とシャルロットの細剣の強度は同等。ならば細身で取り回しやすい細剣を持つシャルロットの方が接近戦では優勢だった。
「ハッ!! ヤッ!! セイッ!!!」
連撃。連斬。連突。連刺。高速、細速の猛攻がヴェルニャに降りかかる。シャルロットの兜から垂れる赤髪が竜のように舞い翻る。
「ぐぅ…。」
ヴェルニャは歯軋りをしながら、双剣で防ぐのみ。鈍く低い金属音が決闘場に響く。押され、弾かれ、退かされ。ヴェルニャは次第に後方の空間を失っていく。決闘場の壁まで追いやられてしまったら、回避は不可能、防御も困難となる。なんとかしてヴェルニャはシャルロットの猛攻から抜け出さなければならない。
(私のことだって、舐めるな、よッ !!!)
壁まで一歩。ヴェルニャは自分自身でその一歩を踏み締めた。
「っ!?」
シャルロットも初めての動揺を見せる。しかし敵が自身から壁に近づいた。ならする攻撃は一つ。それは線撃。本来突く武器であるはずの細剣を地面と水平に振るった。
「オラッ!!!」
しかしその水平の線撃をヴェルニャは、跳躍して壁の側面に一瞬立つことでなんとか避け
た。半獣の身体が為す芸当。
「な!?」
シャルロットが再度驚く。しかし彼女の体は冷静だった。一瞬壁に水平に立ったヴェルニャに対して、シャルロットは容赦なく刺突攻撃を見舞う。
「まだまだァァァ!!!」
ヴェルニャが吠えた。迫る点撃を壁を走って回避した。
「なるほど…。」
シャルロットは無駄な追撃をせず、壁際から逃げたヴェルニャと冷静に向かい合う。
(逃げられたのなら、またもう一度追い込めばいい、そして今度は確実にトドメを刺す。)
シャルロットは生まれた時から武人の王である父と鍛錬を重ねてきた。そして実践経験も浅くはない。すぐに頭を切り替えていた。
ジリジリと二人の間合いがまた近づく。
「オラッ!!!」
先に動いたのはヴェルニャ。豪双剣がシャルロットに迫る。
『ギィンッ!!!!』
『ギィンッ!!!!』
しかしまた金属音が響くのみ。弾いた細剣でそのまま一刺をシャルロットは放った。
「ニャハッ!!」
ヴェルニャが笑った。一刺を無理矢理に体を反らせて避けた。そして強引に自分の攻撃の番にした。
「オラオラオラッ!!!」
二撃。いや四、六、八。ヴェルニャの攻撃は途切れない。しかしシャルロットは襲い掛かるその全ての攻撃を完璧に防ぐ。ただ流石の『戦姫』シャルロットも反撃までは為せなかった。
「…ッ。」
先合いから一転して、ヴェルニャがシャルロットを壁際に追い詰めていく。半魔半獣の真髄。ぬらりくらりとした回避と剛力による連撃。ヴェルニャは魔素強化を全身に施している。シャルロットのような効率性と精密性は無いが、それら無しでも攻防を続行する魔素総量をヴェルニャは持っている。それは魔族の特性。人族よりも魔素保有量が多い。多少の無駄は度外視可能。
「オラァアア!!!」
ヴェルニャの咆哮と共に、シャルロットが壁に追いやられた。ヴェルニャはそのまま連撃を続ける。二つの剣撃がシャルロットの体を断ち切らんと空を裂きながら迫る。
「づっ。」
ついに双剣がシャルロットを掠めた。この死合を観ていた皆がヴェルニャの勝ちになると思った。次の一瞬までは。
「ッ!!!」
シャルロットの右足が壁を蹴った。その動きを見て、皆は気づいた。シャルロットは壁に追いやられたのではない、自ら壁に近づいたのだと。
「ハァッ!!!!!」
壁を蹴り勢いの増した刺突がヴェルニャの豪双剣の重なった瞬間を貫いた。
『ガギィィィン!!!!』
この死合中最大の金属が響いた。そしてヴェルニャの2本の剣はヴェルニャの手を離れて宙に吹き飛んだ。シャルロットの勝利。誰しもが思った。無手となったヴェルニャに超高速の刺突がヴェルニャの眼前に迫る。
「ニャハッ!!」
ヴェルニャが笑った。
『ヂィィィン!!!!!』
赤の液体が迸る。その代わり、ヴェルニャに細剣は刺さらなかった。ヴェルニャの無手、否。魔素強化により剣に近い硬度となったヴェルニャの手刀が細剣を弾いていた。正確には、ヴェルニャは左手を潰しながら細剣を弾き、顔の横にその点撃をずらしていた。
そしてそのまま。
「オラァァァッ!!!!!」
ヴェルニャの右手刀が空を裂きながらシャルロットの首に迫る。
「なぜ、斬らない。」
ヴェルニャの右手刀はシャルロットの首の皮一枚だけを斬って、血を垂らさせながら静止していた。
「ニャハハ〜。べーつに殺さなくてもさ。私の勝ちでしょ?」
「…そう、だな。私の負けだ。」
決闘場に静寂が訪れた。
そして。
『先鋒戦、勝者:魔王軍『滅獣』ヴェルニャ!!!!!』
勝者宣言が訓練場に轟いた。




