ふざけるな!
まず伯爵たちの目についたのは、その場の異様な明るさだった。
地中に潜るのであれば当然、光は遮られ暗くなってくる。ましてデイジーが作らせたその井戸は見るからにおどろおどろしく、物理的にも比ゆ的にも「暗い」場所であったはずだ。しかし今、サラがいるこの場所は不思議と明るく――その光源がたくさんの蝋燭である、と気がつくと今度はその場にある奇妙なものが気になってきた。
壁に飾られているのは、たくさんの武器。それもただ飾られているのではない。どれも固定は緩いが、その一方で隅々までしっかりと手入れが行き届いている。「使おうと思えばいつでも使えるぞ」という事実が、一目でわかるようになっているほどだ。その数や種類の多さは、殺人鬼か拷問官を思い浮かべさせるおぞましいものだが……どこからかいい匂いがして、ダリアが鼻をくんくんとさせる。
食欲をそそるその香りは、ずらりと凶器が取り並ぶこの場所に全く似つかわしくないところから漂っていた。質素だが肌触りの良さそうなカーペットに、肘をついたら良さそうなローテーブル。その上にはどうやら食べかけらしい茶菓子と、まだ湯気を立てたお茶が並んでいて……ものすごくリラックスしていただろう様子が窺えるその光景を、サラは隠すように背中で塞ぐ。
「旦那様……いえ、モンターニャ伯爵。なぜ、このようなところにいらっしゃるのですか?」
何事もなかったかのように、さも「シリアスな場ですけど?」みたいな顔でそう尋ねるサラ。
しかしその口臭にはハートがドキドキな感じの甘い空気が含まれていて、彼女がつい先ほどまでふわふわティータイムを楽しんでいた事実を如実に示している。人間、食欲には勝てないもので伯爵とダリアは一瞬、ごくりと生唾を飲んだ。だが、はっと伯爵が我に戻った伯爵は頭をぶんぶんと振り、逆にサラに向かって問い詰める。
「なぜ、はこっちの台詞だ! 君の主人……デイジーが王城に軟禁されて、しかもその夫である僕の屋敷から逃げ出しこんなところにいるだなんて……君は一体、何を考えているんだ!」
「そうですねぇ、そろそろ何か楽器でも始めようかと……」
「ふざけるな!」
すっとぼけたサラの回答に、伯爵はダンと足を鳴らす。隣にいたダリアがびくっと肩を震わせるほどの剣幕だが、サラの態度はいつもと変わらない。飄々としていて何を考えているのか、何も考えていないのかもわからない……伯爵は全身でイライラを表現しながら、さらに質問を投げつける。
「君とデイジーがいなくなって、僕のところは大騒ぎになっているのにどうしてこのポッツオ伯爵家も君もどうしてそう……自分の主人や娘がいなくなって、なぜそんなに落ち着いていられる! 君たちは一体、何者なんだ!!」
ずっと言いたかったことを、伯爵はさりげなくぶちかました。
デイジーもサラも、そしてポッツオ伯爵も。全員、とにかくぶっ飛んでいた。伯爵を振り回していた。到底まともな人間だとは思えない、もはや人間ですらないのかもしれない……巨大な武器を平気で振り回すサラもそうだが、デイジーもなかなかの体力の持ち主だ。少なくともダリアと対決した時は視力と足の速さで勝っていたらしいし、ガーベラ王女から剣の稽古をつけられた時も「見込みあり」と認められている。
思想も倫理観もメチャクチャな上に、優れた身体能力の持ち主……只者ではない、という事実はさすがの色ボケ伯爵もなんとなく察していた。いや、それに気づかない人間がいた方がおかしいが……そんな伯爵に、サラは平然と答える。
「まぁ、私もデイジー様も別に特別な者ではありませんよ。ポッツオ伯爵だって……彼はデイジー様と血が繋がっているわけでもないし、そこまで取り乱してはいないでしょう」




