計画
アトラン帝国の建国を祝う、建国祭が始まった。
ホールには各国から集まった貴族たちが談笑し合っている。
いつもとは段違いで多くの人々をもてなさなければならない使用人たちは、殺人的な忙しさで目を回していた。
「こっちの料理をもっていってちょうだい! 貴族様たちの前にでる前に、身だしなみを確認すること!」
「セナ! あなたはドジをしないように……あら?」
先輩メイドは、先ほどまでいたセナの姿が見えないことに気が付いた。
しかし、探しに出ていけるほど自分の手は空いていない。
「もうっ! あの子ったら帰ってきたらまたげんこつよ! さ、みんな頑張りましょう!」
仕事をすっぽかして、セナはとある人物を物陰から見張っていた。
(やっと見つけた……ぜぇーーったい! あのモブだわ)
セナの視線の先には、使用人が立っていて、その男はポケットから液体の入った小瓶を取り出し、中身を揺らして確認する。
(あれ、あれ! 本来のイベントならあの毒をルクス様が飲むお酒に入れられる……でも、毒といっても、記憶喪失になっちゃうのよね)
(記憶喪失になって、距離が空いてしまうルクス様と主人公……けど、主人公が必死にルクス様に向きあって記憶を取り戻す……最後のきっかけはキスなのよね~スチルよかったぁ! あぁ! 良きイベントだったわ!)
(でも、今はそれを利用しないと……なんとかあの小瓶を手に入れて、手紙でおびきだしといたミーシャにのませる! 完璧よ!)
「記憶を無くしたミーシャを王子が慰めて、くっつく。失恋してしまったアロクロ様にあたしが寄り添う……それでみんなハッピーエンドよ! ふっふっふ」
欲望にまみれた危険な計画を思い浮かべて、セナは極悪な笑みを浮かべる。
使用人が動き出し、セナが隠れているところを通り過ぎようとした。
緊張で背中に汗をかくが、覚悟を決めて唾を飲み込んだ。
「お、お兄さん」
「なっ! なんだメイドか……どうした?」
「例の計画について、ちょっと変更がでたの……人気のない場所で話しましょ……そう庭園でどうかな?」
「っ!? なんだ、おれの他に人を送り込んでいたのか……わかった」
ぎこちなく話すも、セナのいうことを信じ切っている使用人を庭園に連れて行った。
「それで、変更というのは? ぐはっ!?」
セナは、庭園に着いたところで、あらかじめ隠しておいた木材で思いっきり使用人の頭をぶん殴った。
「……死んじゃってないよね?」
セナは、不安気に息を確かめると、白目をむいているがしっかりと呼吸はしていた。
当たりどころがよかったようで、一発でうまいこと気絶してくれたようだ。
「ほっ……よし、小瓶がポケットに……あった!!」
ポケットを探るとお目当ての小瓶が見つかった。
後は、使用人が見つかっては面倒なので、なるべく人目に付かないように草陰に引きずって隠した。
「なんか、死体隠すみたい……いや、生きてる、生きてる……」
一仕事終えて休みたいところだったが、ミーシャを呼び出した時間がもうすぐに迫っていた。
(ミーシャの部屋に書置きを入れておいたから、もうすぐ来るよね! 急がないと!)
・
・
・
(まったく、あいつらときたらミーシャに会わせろとうるさいのなんの。絶対、ミーシャがめちゃくちゃに可愛がられる………ふぅ、オレも小さいな……)
(とにかく、移住も終わったし、ナロクロとタクトに頼んだのも、もうすぐ完成する)
アロクロは、ドラゴンの羽で夜空をできる限り速く飛んでいた。
(やっと帰れる……ずいぶんと待たせちまったな。寂しくて泣いてないよな……)
アロクロは、ミーシャと泊まっていた部屋の窓から帰ってきた。
しかし、部屋に入るが、人の気配が全くしない。
「ミーシャ? ミィ?……夜にどっかでてるのか?」
ふと、何かが書かれた紙が床に落ちているのに気が付いた。
どうやら出入り口の扉の隙間から入れられたようだ。
「なんだ……?」
紙を拾い上げて、書いてある文に目を通す。
「ミーシャへ 大事な話があるから、夜の19時に庭園の噴水の傍で待ってます。 セナ」
アロクロのしっぽがぴんと立って、髪の毛が逆立つ。
頭に血が上って、魔力が駄々洩れになり、部屋の空気の温度が一気に下がる。
「おい……誰だセナってやつは? オレのミーシャに夜に何の用だ?」
ふと、ナロクロに言われたことが頭によぎった。
「兄貴、ミーシャの姉貴を心配させすぎっ! そんなにほっぽいてると、他の奴にもってかれちゃうよ!」
時計を見れば間もなく約束の19時だ。
紙をぐしゃりと握り潰し、再び窓から飛び去った。




