信頼
まさかの今になってフルネームが…(笑)
「ルーニャ、大丈夫?」
「だ、いじょうぶ……です」
「たくさん泣いてしまったのね。目が赤いわ」
医務室で身の回りの世話をしてくれているルーニャだったが、目は赤く、時々鼻水をすすっている。
「本当に申し訳ありませんでした。エリザベス様をお守りすると言ったはずなのに……危険な目に合わせてしまって」
「そんなことないわ。ルーニャは一生懸命戦ってくれたし、それにほら、わたしは怪我ひとつしていないでしょう?」
「う……ぅ……ですが……」
「わたしはこれからもルーニャに守ってほしい。お願いできるかしら?」
「はっ、はい! もちろんです!」
エリザベスの励ましに、ルーニャは大きく首を縦に振って応えた。
ふと、エリザベスは先の戦いでルーニャの姿を思い出す。
「そういえば、ルーニャも姿が普段と変わるのね。その……しっぽは大丈夫なの? ちぎれていたけれど……」
「はいっ、大丈夫ですよ! ぴりっとするくらいで、多少疲れますがまた生やせますよ!」
「そういうものなのね……」
(わたし、人間ではない種族の人と一緒に過ごすなんてことがなかったから、まだまだ知らないことがたくさん……ルーニャのことも、ルクス様のことも……)
先ほどのルクスとのやりとりを思い出してしまって、エリザベスの顔が熱くなって思わず毛布をぎゅっと握りしめる。
「どうかされましたか?」
「いっ、いえ、なんでもないわ」
「そうですかぁ。そういえば、あたし驚きました。あんなに皇帝陛下がエリザベス様を深く、熱く愛していらっしゃるだなんて……あっ、愛していないと思っていたのではなくて、目の前で見てしまったので実感と言うか……」
「へっ!? あ、えっと……」
「あぁ、お二人にお子様ができたら可愛いのでしょうね!」
「うえっ!? そ、そうね……」
ルーニャがてれてれしながら話すが、それ以上にエリザベスの方が頭が熱くなって爆発しそうだった。
子供の話をされると、この間までは平気だったというのに、生々しく考えてしまう自分がいた。
なんだかルーニャに見られたくなくて、真っ赤になった顔を毛布を持ち上げて隠した。
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朗らかにルーニャとエリザベスが会話していると、ルーニャの耳がぴくりと動き、視線が扉に向く。
「申し訳ありません。少々お待ちを」
ルーニャの顔が険しくなり、太ももに隠しているナイフを取り出して、慎重に扉に近づく。
外の気配に耳をそばだてる。
足音がどんどんこちらに近づいてきているのが聞こえる。
扉がノックもなしに開かれ、それは敵を意味するとルーニャは迷うことなくナイフで敵を切り裂こうとしたが、その動きは侵入者によって止められた。
侵入者の正体は祝賀会で暴れていた魔族で、ルーニャは身体がぴたりと止まって動かない。
「ゔっ……うぅ! 身体がぁ!」
「そこで止まっとけ、危害は加えない。エリザベスに話しがあるだけだ」
「エリザベス様っ、お逃げになってくださいっ!」
エリザベスは、魔族の侵入に緊張と焦りで心臓が速く鳴ったが、エリザベスもこの魔族に話さなければいけないことがあった。
エリザベスは逃げることなく魔族の前に立って、まっすぐ見つめる。
「わたしも、あなたにききたいことがあります。ですがその前にルーニャを自由にしてあげてください」
「……わかった」
魔族はあっさりとルーニャの拘束を解いた。
ルーニャは、エリザベスをかばうように魔族とエリザベスの間に立つが、エリザベスが肩に触れて「大丈夫」と言ってよけさせた。
「オレの名はアロクロ、一応魔族の長をやっている」
「エリザベス・フランネル・ペラートルです。アロクロ様はミーシャの行方をご存じですか?」
アロクロがエリザベスから質問されると、ため息をついた。
「くっそ、オレがしようとした質問を先にされてはな……もしかしたら、あんたのところに戻っているかと思ったんだが」
「ご存じでは、ないのですね……」
「あぁ、ミーシャの匂いをおって、探したが見つからねぇ。しかも、匂いは不自然に途中で途切れていた。周辺を飛び回って探しても姿がない」
ミーシャの行方が分からないという事実がエリザベスの心に重くのしかかる。
ミーシャを叩いてしまった手をぎゅっと握ると、もらったブレスレットが揺れる。
(わたしのせいだ……ミィはきっとルクス様の悪い噂を信じて、わたしを助けるつもりで来てくれたのに、頭に血が上って、きちんと説明もせずに拒絶してしまった)
アロクロは、眉間に皺を寄せて考え込んだ後、踵を返して部屋から出ようとした。
「あのっ、どこに……」
「ミーシャを探す。こんなことで諦められない……必ず探し出す」
すると、エリザベスがアロクロの腕をがっしりと掴んで、まっすぐ見つめてくる。
アロクロは、不思議そうな驚いたような顔をして振り返った。
「ならっ……なら、協力してください。一緒に探してください」
「オレは魔族だぞ。それも、あんたたちの祝いの場を滅茶苦茶にした」
「それは、わかっています……あなたが暴れていた時、正直恐ろしくてたまらなかったです。今だって、少し怖いです。でも、信用しようと思います。あなたはミーシャのことを本当に心配してくれているので」
「…………」
アロクロは、黙ってじっとエリザベスを見つめる。
エリザベスは怯えているようではあったが、アロクロから視線を外そうとしなかった。
「あんた、変に頑固なとこミーシャに似てるな。はぁ……情報もないし、あんたにだったら協力するか」
「本当ですか!? ありがとうございます……ふふ」
「なに笑ってる?」
「す、すみません。ミィ……ミーシャに似ていると言われるのは嬉しくて、つい……」
エリザベスは、申し訳なさそうにアロクロから手を離した。
アロクロが協力してくれるそうなので、心の底からほっとした。
ルーニャはまだ信用ならないのか、じとっとした目でアロクロを睨む。
「そんな睨むな。お前の大事なご主人を傷つけたりしない」
「はい。そんなことをすれば今度こそ、その首をはねてみせますから」
「ルーニャ、仲良くよ! 仲良く!」
エリザベスが二人の間に入るが、アロクロは気にしていないようで、ルーニャのジト目は変わらなかった。
「あのっ、アロクロさん、あなたのことミーシャのことを聞かせてもらえませんか? もしかしたら、何か気付くかもしれません」
「わかった」
アロクロは、ミーシャと出会ってからここに来るまでのいきさつを話すことにした。




