協力
「あなたが封印された本が屋敷の地下に?……それをミーシャが……」
「あいつは前世の記憶を頼りにオレを助けてくれた。それは、紛れもない事実だ。あんたは知らなかったのか……」
「……わたしには、前世の記憶があるだなんて教えてはくれませんでした……どうしてかな」
アロクロとエリザベスは、ミーシャの手がかりがないかと情報共有をしていた。
アロクロはミーシャとの関係を話すうえで、ミーシャが前世の記憶を持っていることをエリザベスに話した。
てっきり知っていることかと思っていたが、エリザベスの反応は意外だった。
「どうしてか、はわからないが……ミーシャのことだ。あんたを心配させたくないが一番にくるんじゃないか?」
「そう、かもしれません。あの子は幼い時から姉のわたしを引っ張って、守ってくれていました。本当にしっかりしていて……」
エリザベスは、少し寂しそうだったがアロクロに励まされると優しく微笑んだ。
「前世の記憶のことも、わたしが聖女だというのも、ミーシャは話していたのですね。やはり、あの子はあなたをとても信頼しているのですね……」
「……だが、オレはミーシャを支えてやれなかった。傍にいてやれなかった……ただの情けない無様な男だ」
「アロクロ様……」
アロクロは、ミーシャを大事に想っていることは態度や言葉からエリザベスには伝わっていたが、自分がミーシャの恋人だとは言えなかった。
ミーシャの傍にいなかった自分自身を許せなかった。
「あの、アロクロ様、気になったのですが何故あの会場で暴れたのですか? わたしにはあなたが今の落ち着いていらっしゃる姿とは、どうしても結びつかなくて……」
「あれは……おそらく、オレ以外にもう一人、魔族がいたんじゃないかと思っている。そいつに精神魔法と幻惑魔法をかけられて、我を失っていた」
「そんなことがあり得るのですか?……申し上げにくいですが、あなた方の一族は……」
「昔の争いで多くが命を落とし、オレを含む一部の魔族は当時の聖女に封印された……今や生き残っているのは、本から解放されたオレ達だけ。そう思っていたが、もしかしたら魔族の生き残りがいたのかもしれない。それも、オレよりずっと魔力の強い奴が……」
「その生き残りの魔族が、参加者に混じっていた……」
「魔力の強い奴ほどその力を隠すものうまい。見かけを変えるのだって簡単だしな……」
アロクロが口に手をあてて、じっと何かを考え込む。
その瞳には困惑の色がでていた。
エリザベスも顔を伏せ、考え事に耽る。
(ルクス様を攻撃したのは、おそらくアロクロ様を惑わせたもう一人の魔族)
(ひとつわかったけれど、でもミィの居場所は見当がつかない)
(どうして、ミィにあんな態度をとってしまったの……もっと冷静に話し合っていれば、違う未来があったかもしれないのに……)
二人が黙り込んだところに、扉が叩かれる音が響いた。
二人の会話をじっと聞いていたルーニャが慌てふためく。
「どっ、どうしましょう人が来ますっ!」
「……わたしがでるわ」
エリザベスが扉を開くと、ルクスの姿があった。
ルクスは扉を開けるなり侵入者の存在に気付いて敵意をみせるが、落ち着いているエリザベスと困惑しながらも侵入者を攻撃しないルーニャを見て、一旦冷静になる。
「エリザベス、どういう状況だ? 何故、あの魔族がいる?」
「ルクス様、彼はもう敵ではありません。ミーシャを探すために協力してもらえることになりました」
「協力?」
ルクスは、眉をひそめてアロクロを睨みつける。
アロクロは、臆することなくルクスの前に立った。
「アロクロだ。ルクス……だったか? あんたたちの祝いをぶち壊したこと、攻撃したこと、謝る。すまなかった……」
アロクロは、拍子抜けするほどすんなりと謝罪をした。
その態度に肩透かしを食らったルクスは敵意が少しずつ削がれていく。
「……アロクロ殿、どういう訳か話してもらえるのだな」
「あぁ、ミーシャを見つけ出すためなら」
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ルクスは、一通りアロクロからエリザベスが聞いた通りのことを話された。
しかしルクスは、アロクロはともかく、エリザベスにロギア教国の話すことができないまま、黙って話を聞いていた。
「そうか……エリザベス、俺の噂のせいでそなたの妹を不安にさせてしまったのだな」
「いいえ、あのような噂が悪いのです。それに、お会いする前はわたしもルクス様がどのような方かわかりませんでした。ですが、貴方様がそのようなことをする方ではないと、お話しすればすぐにわかります……」
「エリザベス……」
二人の間で甘ったるい雰囲気が流れたので、アロクロがじとっとした目でルクスを睨む。
「おい、イチャつくのは後にしてくれ。それで、ルクス、あんたのほうで何か情報はあったのか?」
「…………その前に。エリザベス、そなたは部屋に戻って、そろそろ休みなさい。疲れただろう?」
ルクスに妙な空白があったのに、エリザベスが首を少しかしげる。
「……? いえ、そんなことありません。むしろ休みすぎたくらいです。ですが、そうですね……一度部屋に戻って着替えだけして参ります」
「わかった」
エリザベスとルーニャは、一度自室に戻るために医務室をあとにした。
ルクスはアロクロに向き直り、しばらくしてから口を開く。
「エリザベスの妹の居場所がわかった」
「なにっ!?」
「居場所はロギア教国だ。彼女はロギア教国の者に誘拐されたとみて間違いない」
ルクスは、懐に隠していた封筒を取り出し、アロクロに渡した。
アロクロは、封筒に入ったブレスレットを見て、息をのみ、表情が険しくなる。
「ちっ、クソ野郎ども……」
「エリザベスを……聖女である彼女を呼び出すためにこんなものをよこしてきた。ロギア教国は聖女を保護することが目的のように話していたが、奴らはなにか胡散臭い」
「聖女……確か、あの訳が分からなかった女も聖女かどうか調べると連れていかれていたな……しかし、場所がわかれば十分だ。その国を焼き尽くしてでもミーシャを見つけ出す」
アロクロはブレスレットを握りしめると、紫色の瞳は殺意で満ちて暗く沈んでいく。
「何故そんな物騒な考えになるのだ……ロギア教国には、エリザベスを残して俺とアロクロ殿で行く。俺が交渉してうまくいけばよし」
「はんっ、甘いな誘拐をする奴らだぞ。そう易々と返してはくれんだろう」
「だが、無意味に暴れてもエリザベスの妹に危険が及ぶだけだ」
二人の言い合いが始まりそうになったその時、ゆっくりと医務室の扉が開いた。
そして、そこには明らかにむくれた顔をしたエリザベスが立っていた。
ルクスがエリザベスの表情から察して、慌て始める。
「エ、エリザベス……まさか聞いて」
「盗み聞きなどというはしたないことをしてしまい申し訳ありません。しかし! 何故、ミーシャの居場所が分かったというのに教えてくださらないのですか!?」
初めて見るエリザベスのむすっとしながら怒る姿をルクスは内心可愛いと思いつつも、今はそれどころではない。
「エリザベス、ロギア教国にそなたを連れてはいけない。何が起こるかわからないが、危険だというのだけは確実だ」
「いいえ、行きます。彼女はわたしの大事な妹なのです。強くて、優しくて、でも実は泣き虫で……いつもわたしを助けてくれた、わたしの太陽のような子なのです」
「あの子はわたしのためにここまで来てくれた。今度はわたしが行く番です」
エリザベスのサファイアの瞳には、ゆるぎない強い意志が現れていた。
その眩しさにルクスは、眩暈さえした気がした。
「………」
「…………」
「……………」
深くため息をついたあと、ゆっくりと口を開く。
「……わかった。しかし、俺から絶対に離れないでくれ」
ルクスは悩みに悩んだが、根負けしてしまった。
エリザベスはルクスが自分の意志を尊重してくれて、嬉しさがこみ上げてくる。
「ありがとうございます! はい、必ず傍にいます」
「では、早速準備をして参りますので、失礼いたします」
エリザベスは、気持ちを引き締めるように拳をぎゅっと握る。
そして、準備をするために今度こそ医務室をあとにした。
残されたルクスは、大きく肩を落とす。
それを見て、アロクロが苦笑する。
「これは惚れた弱みだな……オレが言えたことじゃないが、しっかり守ってやれよ」
「無論だ」
はぁ、やっと出発です!(。-`ω-)




