魔導士はコアを破壊する
「ダンジョンマスターになったばかりだから何とかなったが、上位種に進化していたら俺では太刀打ちできないところだったよ。」
カイがそう言うのも無理も無いことである。
ハグの上位種、”ブラッド・ハグ”全属性の呪文を操り、ハグの特性の通り全属性の呪文の影響を受けない。その為、“魔術師殺し”とも言われる魔物だ。
ダンジョンマスターがその上位種であった場合、もっと強力なパーティ。それこそレイドを組んでの戦いになるだろう。
「さて、問題はこの奥のダンジョンコアね。」
バハルは少し緊張の解けた仲間に注意を促す。
ダンジョンはダンジョンコアを破壊しない限り成長を続ける。その歩みが遅くても、いつかは手に負えないぐらいのダンジョンになのだ。
だから、今のうちにコアを破壊する必要がある。
奥の部屋にコアが無く、下へ続く階段となっていることがある。
この場合、ダンジョンは更に成長していたことを表し、“フロスト・ハグ”よりも強力なボスがいるということを意味している。
最悪の予想に反し次の部屋にダンジョンコアはあった。一行はどんよりと光るコアを見てホッとする。
「コアを壊すとダンジョンは崩壊するはずだが、何処で壊す?」
「いつもなら退路を確保した上でその場で壊すのですが……。」
カイの疑問にニライは口籠る。
ダンジョンコアはダンジョンと密接に連動している。コアを破壊するとダンジョンは崩壊しはじめるのだ。
ただダンジョンの崩壊も瞬時に起きるわけではない。時間にして10分ほどの余裕がある。
「ここは地下五階だからね。」
「……時間、足りない。」
彼女たちが定期的に壊しているダンジョンは地下三階程度である為、5分もあれば地上に出ることが出来る。
ダンジョンは階層が増えると今までの階層も少し大きくなる。その為、地下五階ともなると地上に出る為には10分はかかるようになるのだ。
「仕方ありません。地上に運びますか。」
「動かすのか?ダンジョンコアは直接触ると取り込まれるから……。」
バハルの危惧する通りダンジョンコアに直接触れた生物はダンジョンマスターになる。
「問題ありません。要は触れなければ良いのです。私に考えがあります。バハルさん大袋はありますか?」
「ああ、背負い袋に入っているよ。」
「ではそれを広げて持っていてください。」
カイはそう言うと、呪文を唱えた。
「絡む茨」
呪文の発動と同時にダンジョンコアの周りに茨が絡みつく。
「茨はある程度操作できます。あと袋を広げてください。」
「「・・・あ、ああ。わかった。」」
バハルとニライが慌てて背負い袋から取り出した大袋を広げる。
カイは茨を操作すると絡みついたダンジョンコアを大袋に収めた。
「取り敢えず後は触れない様に運び出せばよいでしょう。」
地上までの間、モンスターが再出現した。
だが、所詮はゴブリン、この程度ではカイ達の敵にはならない。大きな抵抗もなくカイ達はは地上へ脱出した。
カイ達はダンジョン前の少しひらけた平地でコアを破壊することにした。ここならば壊れたコアが飛び散っても容易に回収できるだろう。
「置き場所は固いほうが良いだろう。」
カイは持っている鞄から錬金術用の台を取り出しその台の上にダンジョンコアが入った大袋を置く。
錬金術で固い物を壊す事も有るので極めて丈夫に出来ている。
「よし、袋を開けるぞ。」
ゴクリと一同が唾をのみ込むとカイは慎重にゆっくりと袋を開ける。
「え?!」
袋を開けた場所が良くなかった。
輝く星の森はマナが充満している森である。
中のダンジョンコアは袋が明けられた途端、周囲からマナを吸収しだした。
「不味い!周囲のマナを吸収している。バハル!ニライ!ルリエル!」
ガツ!
キン!
カキン!
「「「固い!」」」
ニライのメイスは若干傷をつけることが出来たようだが、バハルの戦斧やルリエルの矢では傷一つついていない。おそらく叩く系統の武器が有効なのだろう。
それを見たカイは少し考えたかと思うとコアを置いた台に対して呪文を使用した。無詠唱で使用した所から考えると初級呪文のようだ。
「みんな、その場所から離れてくれ。」
「何か方法があるのかい?」
「ああ、要は威力の大きな叩く攻撃を行えばいい。」
「空中浮遊」
カイは呪文により浮き上りコアの真上、10mぐらいまで上昇る。そして持っていた鞄の中から黒い物体を取り出す。
大鍋だ。
鞄から出てきたのは錬金術で使う道具、いわゆる大鍋だった。大鍋は直径2mもある鉄の塊であり非常に重い。
カイはその大鍋に触れ呪文を唱えると、浮かび上がった位置から大鍋をダンジョンコアへ向かって落とした。
ドガゴンッ!ガラン!ガッラン!ガラン!
轟音と共に鉄塊がダンジョンコアを直撃する。
この様な重量物を受け止めることが出来るほどダンジョンコアは固くない。ダンジョンコアは見事に砕ける。大鍋で壊したためか、数多くの破片が周囲に散乱することになった。




