魔導士はダンジョンを探索する
カイ達は使い魔で先の通路を偵察しながら慎重に進んで行く。
「しかし偵察の出来る使い魔というのは便利だねぇ。ここまでリスクを減らせるとは思わなかったよ。」
と言うのは前衛の重戦士のバハル。
「仲間の魔法使いは使い魔を偵察に使わなかったのか?」
「アイリスの使い魔は蛙だからねぇ。ダンジョンの偵察では使えなくてね。」
これは魔法使いに問題があるわけではない。
魔法使いは一般的な蛙や猫の他、鷹、鼠、鳩、鷹と言った小動物を使い魔にする。能力は元の動物によって能力が変わり、蛙の使い魔は主の魔力を高くする能力補正がある。
蛙は魔法使いにとって選んでおいて問題はない選択なのだ。
そして大抵の魔法使いは一体、多くても二体の使い魔しか持っていない。
カイの様に三体も使い魔を持っているのは稀である。
「そうか……おっと、次の角の先に敵が二体だ。」
「種類は?」
「身長からすると、ゴブリンだな。ん?さらに奥からもう一体。こいつは……バグベアだ!!」
バグベアは大型化したゴブリンで、その力は並の戦士よりも強い。カイ達にとって難敵ではないが
バグベアが存在することが問題なのだ。
「バグベアですか。通常よりこのダンジョンは成長していますわね。」
ニライの意見に賛同し頷く三人。
「早く攻略を勧めないとまずいかもね・・・。」
「・・・強い、問題ない・・・」
「取り敢えず、今の三匹を殲滅します。」
そう言うと、カイは使い魔を通し、遠隔で呪文を唱える。バグベアやゴブリンは理力の矢で次々と倒される。
並の魔法使いでもバグベア、多少強化されたゴブリン程度では相手にならないのだ。
一行が一階層を抜けるころにはゴブリンやバグベアの死体の山それに伴う魔石を積み上げることになった。
「数が多いわね。」
「バハル姉、これは思ったより事態は急を要するのかも・・・。」
ニライは深刻そうな顔で答える。
通常のダンジョンの成長は比較的ゆっくりしたものである。出来たばかりのダンジョンはモンスターの数もそう多くない。
出来て一ヵ月(多めに見て)のダンジョンにしてはモンスターの数が多すぎるのだ。
「ダンジョンの急成長・・・か。」
ダンジョンが急成長する要因の一つにダンジョンマスターの誕生がある。
生物がダンジョンコアと同期した時に起こり、急成長させる一番の原因となっている。
「ゴブリンの多さ……ダンジョンマスターが誕生したと考えられます。」
「先延ばしにはできないみたいだね。」
しばらく考えたバハルが言い放つ。
「予定変更だよ。これより我々はダンジョンマスターの討伐を行う。」
ダンジョンマスターが誕生るとダンジョンが急成長し、ダンジョンが成長するとダンジョンマスターも成長する。相乗効果で加速的に成長するのだ。
逆に言えば、誕生したばかりの今が一番倒しやすい。
「わかったわ、ねえさん。」
「仕方あるまい。」
「・・・問題ない。」
バハルの提案に同意したカイ達はダンジョンを進んで行く。
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今、ダンジョンの五階層、ダンジョンの一区切りごとにあるボス部屋の前まで来ている。このダンジョンは少なくとも五階層あるという事だ。
扉の前に来るまで、ゴブリン、ゴブリンシャーマン、バグベアと言ったゴブリン種だけで他のモンスターは出てきていない。
「ご丁寧に、金属の扉だね。」
バハルが金属の扉に触れ確認しながら話す。
「ボス部屋か……。ここまでのモンスターからすると、ゴブリンキングだな。」
「そうですね、ねえさん。まず間違いないでしょう。問題はその先にダンジョンコアがあるのか、階段があるのかですね。」
そう言ったニライの言葉にバハルは不敵な笑いを浮かべる。
「ボスを倒せばわかることだね。カイ、呪文の準備は良いかい?」
「ああ、各種強化呪文を皆に使った。準備完了だ。」
カイは今まで使っていた杖を鞄に収納し、新たに鞄から魔導士の杖を取り出し構える。
こちらの杖は緊急用にいくつかの呪文がチャージされている他、魔力の上昇があるが防御力に対する修正が低い。
「こちらも問題ないよ。」
ニライはメイスと盾を構え
「・・・」
ルリエルは無言のまま頷く。
「よし!では攻略開始だよ!」
バハルはそう言うと扉を大きくあけ放った。




