魔導士は作戦会議に参加する
王国軍とスコルナ軍の艦隊が戦闘を開始する五日前。
カイは王都”リヴェヒト”に呼び出されていた。
進軍してくるスコルナ軍の旗艦について尋ねる為だ。
カイが担当したのは、主砲である”魔道砲”と精霊石と魔法陣による”駆動部”であり、
船体や副砲は王直属の魔導士や錬金術師が行っている。
カイは”魔道砲”や”駆動部”は防護柵を施し、その内容がわからない様にブラックボックス化している二つを説明する必要が出てきたのだ。
スコルナに対する作戦会議は王城の会議室が使われ、豪華な部屋の中央には二十人ほどの人が着席できる長テーブルが置かれていた。
王は長テーブルの短辺側、入口より最も遠く離れた位置に着席し両隣に宰相のルツと宮廷魔導士のディルマが座り、公爵や侯爵、伯爵など王都近郊の貴族たちが並んで着席している。
そんな中、カイは長テーブルの末席、辺境伯であるファウンテンの隣に鞄を抱えて着席していた。
宰相であるルツは会議の進行を担当し、現状の説明を始める。
「スコルナは今日より二日前、聖都ソルに攻撃を開始。
かの船、スコルナは飛行艦”ケフェウス”と称しておりますが、主砲の”魔道砲”で聖都ソルの太陽の塔を一撃で破壊したそうです。
幸い、大司祭様が障壁を展開したため、教徒への被害は少なかったそうです。」
聖都のシンボルである太陽の塔を破壊されたと聞いて騒がしくなる。
その中でもテーブルの中ほどに座る伯爵から質問が出た。
「太陽の塔を!!スコルナの砲撃に対して障壁は張らなかったのか?」
「攻撃を察知した一部の教徒たちは障壁を張ったのですが一瞬で消え去ったそうです。
呪文による障壁では魔道砲に対抗できないのではないかと・・・。」
宰相のルツは報告書を見ながら答えた。
「呪文では無理だと・・・。」
「魔道砲に対しては強化された障壁、魔法陣を使うしかないと言う事か・・・」
「現状、それができる魔法陣はいくつあるのだ?」
「対応策は!対応策はないのか!!」
居並ぶ侯爵や伯爵達が口々に声を上げ騒がしくなる。
「静かにせよ!王の御前である!」
魔導士のディルマが一喝すると辺りは静まり返る。
「よし、では”魔道砲”に関しての説明を、魔導爵のカイに説明してもらおう。」
ディルマはカイの方に話をふった。
その言葉に慌ててカイは立ち上がり持っていた鞄から魔道具らしきものを取り出した。
魔道具は四角い台のような物に丸い水晶球が複数の金属パイプによって接続されていた。
台の上には何やら船のようなものが描かれた絵が置かれていた。
「只今ご指名を受けた魔道爵のカイ・サーバルと言うものです。
皆様、これをご覧ください。」
と言って杖を取り出すと魔道具を操作した。
水晶球から光が発せられ、長テーブルの入り口側、ちょうど国王から正面に見える位置に映像を浮かび上がらせる。
それは台の上に置かれた船のようなものが描かれた絵だった。
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
その場に居合わせた者がかたずをのんで見守る中、カイは説明を始める。
「これは王専用に製作した飛行船の設計図です。
この様に船は紡錘形をしており、この後部にある上に突き出たところが艦橋となっています。」
カイは杖を図面に指し示すと杖が映像に反映される。
「この中央部の精霊石で生み出された魔力は駆動部や魔道砲や障壁などの武装、船内に分配されそこで使用されます。
精霊石のある区域はこの船の中心部であり、硬い装甲に覆われています。
この装甲はアダマスを配合した合金でアダマス合金と言い、この船で最も硬い物です。
ですから、外から壊すのは大変困難であると言えます。」
その言葉を聞きディルマはカイに質問をぶつける。
「では魔道爵カイよ。
お主はどの様にして“ケフェウス”を無力化する?」
その言葉に周りの者も息を殺して聞き逃すまいとしていた。
「“ケフェウス”の索敵距離は50km、走空車で近づこうにも、その前に障壁を展開されます。
ただし、その障壁も魔道砲発射時に解除されます。」
「では、魔道砲発射の時に近づくという事かね?」
王の席の近くにいる人物、(公爵だろうか?)がカイに質問する。
「いえ、発射時に解除されるのは・・・」
そう言うとカイはペンを取り出し、台の上の図面に描き加える。
「今、描き加えた部分。丁度、魔道砲がある部分のみの障壁を解除するようになっています。
それ以外の部分には障壁が張られている為、やはり近づけません。」
「それでは対策にならないのではないか!」
先ほどの男とは別の者が声を荒らげながら不満を漏らす。
そしてディルマの方は
「では、どの様な方法で無力化するのだ。
魔道砲で相手の魔道砲を吹き飛ばすのか?」
カイはその言葉を聞いて少しギクリとした。
(別の魔道砲の存在をディルマ様は知らないはずだ。)
カイは気を取り直すとその方法について話した。
「残念ながら魔道砲を吹き飛ばすには“ケフェウス”よりも多い数の魔道砲が必要です。
現状その様な物は存在しません。
従って、魔道砲部分だけしか解除できないのならば、魔道砲部分だけを使って相手を無力化します。」
カイは話を続ける。
「魔道砲は技術漏洩を防ぐ為、解析などの探査系呪文が使われた場合、壊れる様になっています。
魔道砲を外側から解析する場合、装甲が邪魔し解析呪文が使えません。
ですが内側からなら解析呪文が可能です。」
「内側から?
先ほど魔道砲以外には近づけないと言ったのではないのかね?」
先ほどの男が再び質問をしてきた。
「はい、“ケフェウス”本体には近づけません。
しかし、魔道砲の砲腔からなら話は変わります。
そこは魔道砲の中心部と繋がっています。
魔道砲の砲腔から内部に潜入し解析呪文を使い魔道砲を無力化します。
その際、相手のチャージ中に使用することで“ケフェウス”を撃沈できるかもしれません。」
それを聞いたディルマは
「それはどういうことかね?」
「はい。チャージ中は船自体が障壁に囲まれています。
この時、魔道砲が破壊された場合、蓄積されていた魔力が障壁内部に解放され魔力嵐を発生する事となります。
その結果、“ケフェウス”自体にダメージを与えることになります。
障壁内部に開放された魔力嵐が”ケフェウス”を破壊する前に障壁を解除された場合、別の攻撃手段を使います。
ただ、“ケフェウス”の障壁の展開速度を測る為、魔道砲を二回以上撃たせる必要があり、一射目は“メルカバⅢ”で防ぐ事が出来ますが二射目以降が問題です。」
ディルマはカイの言葉を聞くと目をつぶり少し思案した。
次に目を開いた時
「わかった。二射目を防ぐ役目、私が引き受けよう。」
「解析」
カイのその言葉は、魔道砲の砲腔から潜入した使い魔より発せられた。
魔道砲の防御機構が働き魔道砲自体の機構を破壊してゆく。
その結果、魔道砲に蓄積されていた魔力は障壁内部に解放され魔力嵐が衝撃を発生する。
だがその威力は想定したよりもずっと小さかった。
”ケフェウス”が障壁を展開し続けたことで魔力嵐は障壁内部に留まっていた。
「リュファス様。
このままでは魔力嵐により“ケフェウス”が沈みかねません。」
艦長であるジーンがそう進言する。
実際、“ケフェウス”は魔力嵐により少なからずの被害が出ていた。
「・・・仕方あるまい。障壁を解除せよ。」
リュファスの命令で“ケフェウス”の障壁が解除される。
当面の危機を乗り越えた”ケフェウス”が安心する間もなく甲板に黒っぽい何かが猛烈な勢いで落ちてきた。




