草
閃光が街並みや森を照らし西の方へ伸びてゆく。
伸びてゆく閃光の先には反対向きに飛行する飛行船があった。
その飛行船の中でカイは呪文を唱えるとスタンに指示を出す。
「あの飛行船のドア辺りに突撃だ。
どうも船尾の方に人が固まって動いていない。
誰かが捕まっているみたいだ。」
「OK!ドアの辺りだな・・・ディンカ、何処へ行く?」
自分愛用の武器を片手に船尾へ移動するディンカを見て、スタンが尋ねる。
「急な突撃で相手は体勢を崩すはずだ。
その隙を狙う。
そうすれば、楽に制圧できるだろう。
何、ダンジョンでの突撃に比べれば楽なものだ。」
そう言うと、フロームやバハルを引き連れて船の後部ハッチに移動する。
数分後、寸分たがわず狙った場所に突撃、
大した抵抗もなく、飛行船の奪取を図ったスコルナの兵士達は捕縛された。
その際、人質として八名の造船関係者が監禁されていた。
船だけでなく彼らもスコルナの手に渡っていた場合、スコルナ軍の増強されるのは想像に難くない。
突撃ではなく、魔道砲で撃墜した場合、船関係の機密は守られるが彼ら八人の損失は補填することが出来ないものだった。
その意味では突撃での拿捕が最上であったと言える。
だが、カイは本当の意味での危機に気づいてはいなかった。
カイが奪取された飛行船を捕縛していた頃。
リモーデの裏通りでは落ちたスコルナ軍の走空車から一人の男が抜け出す。
顔は能面のような表情で辺りを見回した。
その男が合図を送ると何処からともなく大きな麻袋を担いだ男が近寄ってくる。
「首尾はどうか?」
能面の男が尋ねると麻袋を担いだ男が答える。
「へい。ご覧の通り、背格好の近い独り者を選びました。」
そう言って袋を開けると中から男の死体が出てきた。
能面の男が麻袋の死体を掴み出した。
すると、能面の男の顔や体が死体そっくりに変化していく。
それだけでは無い
「ふむ、なるほど。
こいつは超大型の走空車に関わっているのか。
現場の作業員の一人か・・・。
あまり人と関わっていないな。
でかしたぞ。」
驚くことに死体本人の記憶まで写し取っていた。
「はい。
特に孤独なものを選び出しました故。
全ては我が主人のために。」
「我が主人のために。」
成り代わった男は死体を墜落した走空車に押し込むと呪文で火を放った。
元々、油を撒いていたのか、火は瞬く間に燃え広がり辺りを炎で包み込む。
その燃え盛る炎の中、男達は何処かへ消えていった。




