リモーデの危機 その7
スコルナ軍はカイの工房から飛行船を奪取すると徐々に後退し始めた。
飛行船を取り戻さんと防衛側も食い下がるが、投石機や魔術師の呪文に阻まれ差を開けられつつあった。
そんな時、突然の閃光はスコルナ軍の大型の走空車の側面の舵輪、投石機の一つを破壊する。
「何・・・」
指揮官らしい男が何かを言いかけた直後、走空車はきりもみ状態になった。
投石機は高速で回転する時に内部で逆に回転する機構が組み込まれておりそれで安定させている。
だが、外側の投石機だけを失ったことでバランスを崩したのだ。
「うわぁぁぁ!落ちる落ちる!」
「ひぃぃぃ!!なぜだぁ!!」
片方の投石機を失った走空車は回転しながら地面に激突した。
走空車は衝突時の衝撃で機体がくの字型に曲がり最早飛ぶことはできない。
「いまだ!奪われた飛行船を取り戻すのだ!!」
邪魔な投石機をつんだ走空車が墜落したことで防衛側が息を吹き返す。
「隊列を組め!新型を逃がすための時間を稼ぐのだ!!」
リモーデの上空では再び魔術師による呪文の打ち合いが始まった。
両者の間で様々な呪文の応酬がなされるが、致命傷になっていない。
閃光の発生源、投石機付きの走空車を撃ち落とした飛行船”メルカバⅡ”はリモーデから700mの地点で停止していた。
「グメル!状況はどうなっている?」
「精霊石機関室のガミラによると、簡易魔道砲用魔法陣か加速用魔法陣からマナ漏れが見られる。
回路を遮断しないと暴走の危険がある。」
「マナ漏れか・・・直りそうか?」
「工房のドックで分解しない限り無理じゃろうな。
実際どこから漏れているかわからぬ。」
”メルカバⅡ”はリモーデに戻るまで限界に近い速度を出していた。
加速用の魔方陣は”インパルス”を改造した物であり構造上の不安が残るものだった。
そして、その部分に搭載されている簡易魔道砲を使用したことで魔法陣のどこかにマナ漏れを起こす亀裂が入った様である。
そうなると、簡易魔道砲だけでなく加速用の魔方陣も不安定になり、応急措置の為に停止せざるを得なくなったのだ。
後は元々備え付けている推進用の魔法陣で移動するしかない。
だがその魔法陣さえもマナ漏れの影響で出力が抑えられ、十分の一以下の速度しか出なかった。
それに対し、奪取された飛行船は余分な装備を積んでいない為、本来の速度より若干早く移動している様だった。
見る見るうちに船との距離が開いてゆく。
索敵用の水晶球を見ていたニライはカイに報告する。
「奪取された飛行船までの距離、約300m!
ゆっくりと西南西方向に移動しています。」
「不味いな・・・このままでは逃げられる。」
カイは目を瞑り逃げられた場合の技術流出を考えていた。
墜落したスコルナの走空車を調べてみないと判らないが、
奪われた飛行船はスコルナ軍の走空車よりも性能が良い物であるのは間違なかった。
「ディンカ。魔道砲発射用意・・・。」
「撃ち落とすのか?新造船だぞ。」
「スコルナに渡すわけにはいかない。
渡った場合のリスクが大きすぎる。
だから、追いつかなくてはならない。」
「追いつく??」
「魔道砲を反対方向へ撃つ!
その際の反動を利用して相手に接近する!」




