魔導士はデスマおこなう。
話は三日前に遡る。
カイの工房(予定)の前には薬を求める人々で溢れかえっていた。工房の入り口近くの部屋にはすでに十人ほどの人々が入っているがそれでも入りきらず、工房の外にも多くの人々がいる。
(人数は……王都の有名店の三分の一と言ったところか。)
カイの試算は王都の錬金術店と比較した場合である。
そうやって人数を確認するカイに工房に入っている人々は口々に注文を出す。
「回復薬は無いか?出来れば二本欲しい。」
「活力剤を一本くれ」
「育毛の何かあれば・・・」
「腰が痛いんじゃ―!!」
混沌と化しそうな工房でカイが叫ぶ。
「まて!一度に言うな!一人ずつだ!!」
「「「「一人ずつ・・・」」」」
「おれが!」「わたしが!」「わいが!」「わしじゃぇ!」
我先にとばかりカイに殺到する。カイはそんな人々を無理やり押し返す。
「あわてるな。数はある。」
「でもこんな人数だとすぐに無くなるんじゃ……。」
「心配するな。無くなればまた作ればいいのだ。」
「手に入れられない事を考えると……。」
人々の話からすると辺境ではポーションは手に入りにくい物らしい。
「……全部だ。」
「?」
「全部!全員の分の薬を揃えてやろう!!」
「「「「「「「「「「おおおおお!」」」」」」」」」」
カイはここまで多くの人々に頼りにされるのは初めてである。
更に心機一転で新たな気持ちで頑張ろうとしていた矢先でもあった。町の入り口で歓迎された上、辺境伯にも期待されている。無理な注文を受けたのは判らなくもない。
そして、ここは辺境である。王都以上の注文は無いだろうと高を括っていたことも影響した。
だがこれは致命的な失敗であった。その日は手持ちの分、保存袋の中だけで事は済んだ。
翌日、工房を訪れる人数は倍になっていた。
カイは人数が増えたことに少し危機感を持つが、手持ちの残りといくつかの調合で何とか乗り切っる。
減った分は晩の調合で何とか補充する。この日の調合は夜中まで続いた。
次の日は更に倍。
ここに来て、カイ一人で販売と作成を行っていた問題点が出る。圧倒的に時間が足りない。薬の販売は夜遅くまで対応することになった。
結果、補充の為の調合は朝までかかる事になる。睡眠不足がたたりいつもなら成功するはずの調合で失敗が少なからず出て材料を無駄にする。
そして今日。
この時点でカイに訪れる人数は把握できなかった。前日とは違い補充分が圧倒的に少ない。
何とか昼まで対応していたが、最早当初の言葉を完遂できる見込みはなかった。
「……つまり、心機一転として新たな場所で仕事を始めたら限度以上に引き受けてしまったと……。」
惨状を見たフィリアはギルドの権限を使い人々を解散させた後、カイに尋ねた。
聞いてみればみえればよくある話だ。
新しい環境になって、いつもより余計に頑張る。その上、想定以上に人が来てしまう。初めの内は良いがそれにも限度と言うものがある。
フィリアとしても張り切ってしまう気持ちは判らなくもない。
「しょうがない人ですね。ギルドからお手伝いが出来る人。そうですね、主に受付のできる人を斡旋してもらいましょう。」
と、にっこり微笑みながら答える。
そのフィリアの表情を見たカイの胸が、一瞬ドキリとした。




