魔導士は新型機(一人乗り)を作る。
「スタン。新しい走空車だ。試験走行を頼む。」
実験室の壁を壊して半月がたったころ、カイはスタンに新たな走空車の試験走行を頼んだ。
その走空車は一人乗り用で、船の形をしていた。
それも、外洋に出て行ける船、竜骨の付いたものである。
流石に船の形のままでは傾いてしまう為、両側には支える為の足が付いていた。
「これは船か?微妙な形だな。」
試作機を見たスタンが微妙な感想を言う。
箱型の走空車を見慣れている者にとって奇妙な物に写る様だ。
「流れを進む船を参考に作ってみたものだ。
まぁ、船に走空車の部品を付けただけなのだけどね。
船はウェスリックの別荘にあった物だ。」
カイは別荘にある船に走空車の部品を取り付けたようだ。
スタンはリモーデ郊外に作られた走空車の実験場で走らせる。
最初思った考えとは反対に船型は箱型より早く動くことが出来た。
「スタン。動かしてみてどう思った?」
カイは試験走行が終わり走空車から降りてきたスタンに尋ねる。
「そうだな。操縦系とは今までとは変わっていないので問題ない。
この走空車は速度が出るな。
ただ、曲がる時や横風の影響はあまり変わっていない。」
スタンはもう何度も実験車の操縦を行っているので報告も手慣れたものである。
「そうか。後は吹き下ろしの風の場合、どうなるかだな。
・・・呪文を使うか。」
カイはそう言うと呪文を唱えた。
「下降気流!!」
ゴウゥッ!!!
呪文の成立と同時に上空からものすごい勢いの風が走空車に襲い掛かる。
メギャン!!!
上部甲板に風が叩きつけられ、走空車がくの字に折れ曲がる。
「折れたな。」
「・・・・・」
その半月後。
次にカイの製作した走空車は船底を二つ張り合わせた走空車であった。
「下降気流!!」
今度の走空車は吹き下ろす風にも耐えた。
「おお、いい感じじゃないのか?」
スタンは呪文に耐えた走空車を見て感想を述べた。
「いや、まだだ。氷冷暴風!!」
カイの呪文で氷礫が舞う竜巻が出現し、走空車を飲み込む。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
走空車は氷冷暴風に耐えているかのように見える。
だがそれもつかの間の事だった。
バギャバギャバギャバギャッ!
けたたましい音と共に繋いであった二つの船底が引き裂かれ、その反動で走空車自体もバラバラになる。
「うむ。もう少しだと思ったのだがなぁ・・・」
カイがそう呟くとスタンが
「カイさん。竜骨を横にしたらどうなのだ?」
と尋ねた。
「竜骨を横にか・・・それだと横風に強くなるな。
そうなると上下の部分、どうせならここにも竜骨を入れるか・・・。」
そして、一月後。
カイが作り上げたのは平らな紡錘形の物、アーモンドの様な形をしていた。




