SIDE B
この家には小人がいる。死んだじいさんが言っていた。
「決して知っている素振りを見せてはいけないよ。彼らは人に気づかれたら、その家を出なくてはいけないからね」
俺にそう教えたじいさんは、よく庭のお地蔵さまにお供えをしていた。
“作りすぎた”“買いすぎた”と嘘をついて。
「小人たちが持っていく」という話をはじめのうちは疑って、猫かなにかが食べているんだろうと思っていた。
しかし、どう考えても猫は食べないだろうというものも、気づいたらなくなっている。
たまにうっかり者が皿ごと持っていって、翌日、きれいになった皿が戻されていたりもする。
「どうしてそんなことするの?」
小人たちに恵んでいるようにしか見えない行動を不思議に思った俺に、じいさんは「お礼だよ」と言った。
「彼らは家をきれいにしてくれる。無精者のわたしが快適に生活できるのは彼らのおかげだ」
たしかにじいさんは無精だった。
洗濯物はしわくちゃなまま干すし、掃除もてきとうに済ませていた。
それでも、家を留守にして帰ってくると、なぜか洗濯物のしわが伸び、部屋がきれいになっている。
「ほら、今日もきれいに乾いてる」
決して小人の仕事とは言わずに、じいさんは洗濯物を見て嬉しそうに笑った。
その不思議な現象を、いつしか俺も楽しむようになっていた。
じいさんが死んでからも、彼らの存在を確かめるために、俺は無精者のふりをしている。
洗濯物はしわくちゃのまま、掃除もてきとうに。
そして帰ってきてから、それらがどうなっているか確認する。
「……あぁ、今日もよく乾いているな」
小人たちはまだこの家にいてくれるようだ。
お礼にわざと多めに食事を作り、お地蔵さまにお供えする。
決して出会うことのない同居生活。
住人が気づいていることを、小人たちはまだ知らない。