一枚目
拝啓
あれからもう五年が経ちました。
調度よい区切りの年だと思いペンを握った次第です。
あなたに宛てた手紙ですが、これをあなたが読むことはありません。
それを前提に私と、そしてあなたのこれまでを振り返るつもりです。
そうは言ってみたものの、何から話せばいいか迷います。
とりあえず出会いの場所にさかのぼって、言いたいことをまとめたいと思います。
あの日は何のパーティーだったかしら。
そう、確かあなたの七五三のお祝いの席におよばれしたの。
私の初めての社交の場でもありました。
(幼いときの記憶だから間違っていたらごめんね)
祝辞の代わりにピアノの演奏をしました。
お父様から『薫と同い年の男の子だよ。これから深い付き合いになると思うから、しっかり自分のつとめを果たすんだ。分かったね?』と言われていたので、私はとても緊張していました。
こんなことをあなたに言ったら鼻で笑われてしまうでしょうね。
実際、今も昔も人前に出るのはあまり得意ではありません。
―とにかく演奏したのです。
指も体も緊張でかちかちに固まっていましたが、充分満足のいく演奏だったと思います。
実際ミスしたのは数えるほどで、お父様にも喜んでもらえました。
大方の挨拶回りを終えて、最後にあなたとあなたの家族のところへ行きました。
大人たちはそれぞれ盛り上がっていて、子供は子供同士という雰囲気でした。
『ねえ』
『はい、なんでしょう泉美くん』
『さっきの曲四ヵ所も間違えてたね』
『ご、ごめんなさい。一生懸命練習したのに。緊張しちゃって』
『…俺、お前のこと嫌い』
今から思い出すと、あなたは昔からこんな感じでしたね。
初めてこんな直接的なことを言われて、泣いてしまったのは鮮明に記憶しています。
私たち、会うたびに喧嘩をしていましたね。
小学生の時も、中学生の時も、高校生の時も。
お互い意地っ張りであまのじゃくで、素直に好きって言えなかった。
許嫁という名前の枷がなかったら、もう少し早くお互いを理解しようと思ったいたのかもしれません。
長くなってすみません。
次の一枚は思い出話ではなくて、あなたに伝えたいことを書きます。
もう少しだけお付き合いください。
作者は一応25歳前後を想像して書いています。
しかし、読者の皆さんのそれぞれの想像で楽しんでいただけたら。




