22話 奏でる、君との出会い1
あいたま新都心にあるミタバという喫茶店に、2人の男子学生がいた。太一とタカシである。太一は、タカシを心配し、話を聴くために呼び出した。
「どうしたんだ、太一。こんなところに呼び出して」
「いやさ、元気なかったからさ。何かあったの?朝から元気なさそうだし」
「あったといえばあったし、なかったといえばなかった」
「何、その煮え切らない言い方は。悩み事があるなら相談に乗るから、何でも言ってよ」
「いや、本当に何でもないんだ」
「本当に?何かあったんじゃないの?恋璃ちゃんの引退、浅田先生の言っていた暴行事件とか、いろいろとショックなことがあったしね。ショックを受けていてもおかしくないと思うのだけど」
「その話はいい。用事があるから、お暇させてもらう」
席を立とうとするタカシ。
「ねぇ、どこいくの?俺もついて行っていい?」
「いや、大した場所じゃないから、ついてこなくていい。しかも、大した用ではない」
「大した場所じゃなくてもいいんだ。つれて行ってよ」
「しつこいぞ、太一。俺は、急いでいるんだ」
イラつき始めるタカシに、追い打ちをかけるように喋る太一。
「へぇ。タカシ、大した場所じゃないのに急いでいるんだ。しかも、大した用でもないのに。大丈夫だよ、タカシ。大した用事でもなく、大した場所じゃないんだからさ。急ぐこともないよ」
「いいかげんにしろ!俺には、待っている人がいるんだ!」
「待っている人?きっと、タカシのことなんて待ってないで、遊んでいるよ。だからさ、一緒にゆっくりお話ししてようよ」
「お前に何がわかるっていうんだ!!」
太一の胸倉をつかむタカシ。顔を真っ赤にしている。
タカシの怒号は、店内に響き渡り、店内にいる人全員が、2人のほうを見た。
「怒らせて悪かったよ、タカシ。でもさ、一人で全て抱え込まないでくれ。何があったか知らないけどさ。自分が思っている以上に、君はいつもよりおかしい。クレアと聖生さん、他のクラスメイトも心配していたよ。友達なんだからさ、話してくれてもいいとおもうんだ」
太一の言葉に、胸倉を話すタカシ。
「そうか・・・。俺はそんなにおかしかったか。確かに、俺は悩んでいる。今までの人生の中で、一番悔しくて、辛い出来事が起きた。太一に話したい気持ちもある。だがな、話すわけにはいかないんだ。確実に、自分の中で甘えができてしまう。そして、太一を巻き込んでしまうだろう。友人を面倒くさくて、しかも、大変な出来事を巻き込む趣味はない」
「そんなに水臭いこと言わないでよ。友達が困っているときは、助けろって姉貴に言われているしさ。どんどん巻き込んじゃってよ!」
笑顔を作り、タカシに向ける。
「太一、お前ってやつは・・・。そうだな、意固地になりすぎていたかもしれない。じゃ、俺についてきてくれ」
「わかった」
2人は、ミタバを出て歩き出す。
お互い、無言のままだった。
タカシは、どんどん進む。
タカシについてゆくと、そこは病院だった。
タカシは、病院の受付を済ませると、ある病室へ向かった。
「太一に会わせたことはなかったな。丁度いい、この機会に紹介する」
タカシは、ノックし扉を開けた。
そこには、一人の少女がベッドに横たわっていた。
頭に包帯を巻いている。
「深雪、お見舞いにきたぞ」
タカシの一言に、ベッドに横たわっていた少女は、むくりと上半身だけ起こした。
「あ、タカシ。お見舞いに来てくれたのね。嬉しい。そちらの方は?」
「こいつは、風上太一。俺の学友だ。九曾の1年で一番強くて、イケメンで、しかも、かしこいぞ」
真顔で嘘をつくタカシ。
「風上さんって、すごいですね!じゃ、生徒会選も狙っているのかしら!?確かに、強そうなオーラを放っているし、顔は・・・。よ、よくみれば、イケメンかもしれませんね!」
疑いなんてこれっぽっちもない純粋な目で、太一をみてくる。
「ちょっと、タカシ。そんなウソ止めてよ!しかも、彼女、信じちゃってるじゃん!俺が、イケメンだったら、日本の男性の大半が、イケメンになっちゃうでしょ!」
「さすがに、それはいいすぎだろう・・・。ま、さっきのお返しだ。太一、そこのベッドで寝ているのは、俺の彼女の白瀬深雪だ」
「九曾高校3年の白瀬深雪です。いつも、タカシがお世話になっています。タカシって、変わり者だから友達いるのか心配だったのだけれど、安心しました」
「大きなお世話だ」
ぶっきらぼうにタカシは言った。
「あ、先輩だったのですね、失礼しました」
「いえいえ、お気になさらずに。そのままの言葉でよろしいですよ?」
「はぁ・・・」
ニコニコ笑う深雪は、穏やかな性格のようだ。
「で、深雪。頭の調子はどうなんだ?」
白瀬深雪の頭には、包帯が巻かれていた。
「頭の調子って言われると、なんだか頭のおかしい人みたいね・・・。検査で異常は見られなかったって言っていたの。学校には、そろそろ復帰できそうね♪」
「そうか。昨日は、本当に悪かったな。俺が不甲斐ないばかりに・・・。意識を失っていたときは、本当に心臓が止まるかとおもった」
「何を言っているの?タカシが守ってくれたおかげで、これくらいの怪我で済んだのだから。自信を持って」
深雪は、慈母のように柔らかい表情で、タカシを見つめた。
「そう言ってもらえると、救われる」
タカシは、少しだけ涙を目に浮かべた。
「タカシ、深雪さん。何があったのか、詳しく教えて貰いたいのだけれどいいかな?」
「太一に、詳しく話してもいいよな?深雪」
「うん。せっかく、お見舞いに来てくれたのだし、話してあげて」
「昨日は、お互い暇ができたので、小宮で久しぶりのデートだった。九曾って、授業なんかで色々と忙しいだろ?しかも、深雪は進路とかで特に忙しい。だから、久しぶりのデートだったんだ」
時は、昨日の放課後。
タカシと深雪は、小宮でのデートの帰り、繁華街方面を歩いていた。
「今日は、楽しかったね。タカシ」
「そうだな、久しぶりだしな」
「これからは、深雪も進路でいろいろと忙しくなるだろうしな。もう進路は決まったのか?」
「うん。私は、医療系の大学を目指そうって考えているの。私って、戦いに向いてないでしょ?能力も補助系のものばかりだし」
「そうだな。まず、性格が戦いには向いていないのは知っている。いいんじゃないか、医療。優しい深雪には、向いていると思う」
「ありがと。タカシならそういってくれると思っていた。これからも、勉強がんばらなきゃね」
「おう、応援しているぞ」
「ありがとう。タカシも留年しないように、がんばってね♪」
「あぁ。それは、避けるつもりだ。宿題は、ちゃんと提出しているし、大丈夫だろう。うっ・・・!」
「どうしたの?」
タカシは、急にしゃがんだ。
「いや、大丈夫だ」
タカシは感じていた、腹を襲う痛みを。
「そう?なんだか苦しそうな顔をしているよ」
タカシは、我慢しようとした。だが、どうにもヤバい状態らしい。ぎゅるると鳴る腹の音が、限界を示している。
「すまん、ここで少し待っていてくれ。トイレにいってくる」
「いってらっしゃーい」
タカシは、急激に襲う便意を我慢しつつ、近くのコンビニを探した。
「よし、あった」
コンビニを見つけると、すぐさまトイレを借りた。
トイレから出ると、コンビニ内を見渡す。
柄の悪い客が、多くいた。
コンビニの本のコーナーでは、タンクトップ姿で、うんこ座りをする若者たち。
大笑いしながら、談笑している。
両腕に入ったタトゥーは、皮膚全体を覆っており、堅気の人間には見えなかった。
(ここにいるのは、どうやらまずいようだな)
よくよく考えてみると、タカシと深雪のいる場所は、スラム街の入り口近くだった。タカシは、急いで深雪のいる場所へ戻った。だが、そこには、既に深雪の姿はなかった。さっき一緒に買った服の入った袋が落ちていた。それを拾い上げると、走り出す。
「おい!深雪どこだ!!」
タカシは、辺りを探し回った。すると、路地裏に人影がみえる。タカシは、すぐさま路地裏にはいる。そこには、深雪の倒れた姿と、やけに背の高い男が立っていた。
「深雪!貴様が、俺の女に手をだしたのか」
気迫のこもったタカシの声に、背の高い男は振り向く。
「あん?このガキの連れか。丁度、こいつどうしようか迷ってたのよ。あまりにも、弱くって話になりゃしなかったな。ワンパンで沈んじゃ話にならん」
足のつま先で、深雪の腹をつんつんする。
「ふざけるなよ!この糞野郎。ぶっ潰してやろうか」
「おう、いいね。やってやろうじゃねぇか。て、俺は忙しいんだ。こいつ返してやるから、今日は大人しく帰れよ。こんな雑魚が、俺様の探している女なわけねぇしな」
背の高い男によって、深雪は放り投げられる。
タカシは、深雪を抱きとめた。
「いい加減にしやがれ。俺の怒りが、何もしないで収まるわけがないだろう」
「やれやれ。女を返してやって、他に何を望むかね。本当だったら、この女をソープにでも沈めて稼がせたほうが、お得だってのによ。俺様の優しさがわからねぇとは・・・。いいから消えろ」
凄まじいオーラが、男から発せられる。タカシは、考えた。深雪を危険にさらしたまま戦うのは、完全に不利だと。
「くそっ、絶対に、おまえは許さないからな」
そういうと、踵を返し走り出した。
「ははっ。それでいい。チキン野郎のせいで、時間喰っちまった。どこにいるんだ、死神め」




