14話 忘れたお弁当
太一は、屋上でフェンスに寄りかかりながら、空を見上げていた。
五月の空は、どこまでも青く、清々しい気分を与えてくれる。
その空とは対照的に、太一の心は陰鬱であった。
今は、昼休みの時間である。
合宿が終わり、九曾高校の新学期がはじまり、一か月が過ぎようとしていた。
なぜ、太一の気分がブルーなのか、それは弁当を忘れたからだった。
「太一、そんなに落ち込むな。まさか、うちの学校、一年生は購買と学食を使用できないとは驚いたがな」
太一の後ろには、三人の友人がベンチに座っている。
石田タカシ、加藤クレア、聖生静であった。
三人は、各自持ってきたお弁当を取り出している。
合宿以来、このメンバーでいることが多くなった。
一緒に過ごした合宿のおかげである。
「今日、寝坊しちゃって、弁当用意できなかったんだ。昨日、夜更かしなんてするんじゃなかったよ」
大きな欠伸をする太一。
昨夜は、楓花がとても激しかった。
溜まりにたまったストレスを発散するように、楓花が、太一をしごいたのであった。
もちろん、能力訓練の話である。
「ま、太一。私のお弁当を少し分けてあげるから、今日は我慢しなさい」
太一は、クレアの弁当をみる。
そこには、美味しそうなおかずが、ぎっしり詰まっていた。
「これ、クレアが作ったの?美味しそうだね」
「そうよ。私のうち、両親共働きだから、自分のことは自分でやるっていう家訓なの」
「クレアのおかげで、昼飯抜きは免れそうだよ。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
合宿以来、二人の仲は良くなっていた。
「あれ?お二人さん。随分仲良くなっているな。いつのまにか、名前で呼び合っているし」
「本当です。いい感じです。お付き合いされているんですか?」
いきなりの静の発言に、クレアは食べていた物を喉に詰まらせた。
「げほっげほっ、何を言っているのよ。そんなわけないじゃない。ねぇ、太一」
「うん、付き合ってないよ」
「そう、真顔ではっきり言われると、悔しいものがあるわね」
「えっ、何だって?」
「なんでもないわよ」
ぶっきらぼうに言うクレア。
タカシと静も、お弁当を分けてくれたので、食事が始まろうとした。
だが、そのとき、フェンスの向こうから声が聞こえてきた。
フェンスの外側には、足場などなく、降りたら真っ逆さまである。
不思議に思い、太一たちは、外側をみた。
すると、そこには、お弁当箱が浮遊していた。
プカプカ浮きながら、こちらへ飛んでくる。
近づくにつれて、お弁当を運んでいるのは、小さな人であることがわかった。
「太一、お弁当もってきたよー!」
聞き覚えのある声に、太一は耳を疑った。
この声は、風の妖精、楓花だった。
「なんか、太一のことを呼んでいるぞ」
タカシは、フェンスの向こう側を凝視している。
「ははは・・・」
楓花は、お弁当を持ちながら、着地した。
「太一のために、お弁当を作ってきてあげたわよ。今日は、外回りだから、丁度良かったわ。お腹空いて学業に取り組めないんじゃ、かわいそうだし」
「ありがとう、楓花ちゃん・・・」
嫌な予感がして、太一は、友人3人の方を見た。こちらを変な目でみている。
「太一、お前は人形と喋る趣味があったんだな。しかも、その人形やけにハイテクだ。喋るし、動くとは」
「太一、かなりキモイ」
「・・・」
「やめてぇ!その眼はゾクゾクするからぁ!」
太一のドM能力が目覚める。
「なにやっているのよ・・・。まず、自己紹介しなきゃね。私は、株式会社フェアリーサポートの楓花。これ名刺よ。どうぞ」
楓花は、丁寧に名刺を三人に渡した。
「今は、風上太一のサポートをしているの。いつも太一がお世話になっているわね。ありがとう。まだみなさんには、妖精って珍しいのかしらね」
「俺は、初めて見た。俺は、石田タカシよろしく」
「私は、加藤クレアよ。妖精と契約している能力者がいるって、聞いたことはあったけど。まさか、太一が、妖精と契約しているとはね」
「聖生静です。妖精さん、かわいいですね!」
「将来、妖精と人間が一緒に暮らせる日を目指して、日々がんばっているわ。まぁ、それはいいとして・・・」
楓花は、太一の手元をみた。
そこには、先ほどクレアから頂いたごはんがあった。
「あー!せっかく、私がお弁当持ってきたのに、なんか食べ物もってるー!」
「これは、クレアからもらったんだよ。もちろん、楓花ちゃんのお弁当も食べる・・・よ?」
楓花の異変を感じた。
なんだかとても怒っているようだ。
「ふーん!まぁ、私のお弁当を食べたら、そこの頭の悪そうな女のお弁当なんて食べられたもんじゃないってわかるわ!」
「はぁ!?私の料理が、年増のOL妖精に負けるっていうの!?ないない、そんなわけない。
料理の腕には、自信があるの!」
「じゃぁ、勝負しましょうよ。太一に食べ比べてもらうの。ま、おバカJKに負けると思わないけどね」
「何を言ってるの、年増妖精。私のほうが上よ」
クレアと楓花との間に、火花が散る。
女と女のプライドを賭けた戦いであった。
太一は、二人のお弁当を食べ比べた。
結論から言うと、クレアのほうが美味しかった。
「楓花ちゃんのお弁当、味付けとかはしっかりしているけど、肝心の物がはいってないんだよね。ロールキャベツには、お肉が入ってないし。春巻きには、筍と肉がはいってないし。それが、減点理由かな」
「そんな・・・。最近まで、外食漬けだったのがいけなかったのかしら。普段から、料理しておけばよかった・・・」
跪く楓花。
「ま、料理をいつもしている私には、勝てないわ!」
「くぅ・・・。負けました・・・」
戦いが収まったので、全員でお昼を食べることにした
。ベンチに、タカシ、静、クレア、太一、楓花の順番で並んで、昼食を食べた。
太一の今日のお昼は、ボリュームが多かった。
クレアと楓花のお弁当を食べるからだ。
一生懸命食べていると、隣の楓花が、バッグから何かを取出し、食べ始めた。
口を大きく開けて、咀嚼している。
「楓花ちゃん、何を食べているの?」
「十○○饅頭」
「なんでまた、そんなローカルな物を食べているの!?」
「うまい、うますぎるぅ。さっぱりとした甘味で、割と美味しいのよ?先日、後輩からもらったの。一個食べる?みんなの分もあるわよ」
「じゃ、一個貰おうかな。皆も食べる?」
三人は、頷いた。
「「「「いただきまーす」」」」
全員、まんじゅうを口に含んだ。さっぱりとした餡に、独特の皮とのコラボレーションが、口の中に幸せを運んできた。
「「「「うまい!うますぎるううう!」」」」
これを言わないと、気が済まない地元出身者であった。
「みんな、十○○饅頭を堪能したようね」
4人を見て、満足そうにする楓花であった。太一たちは、昼食を終えて、まったりしていた。
そうしていると、クレアが話し始めた。
「最近、思うの。私、何で九曾にはいったんだろうって。能力とスポーツで入学したから、想像以上に勉強がきついわ。夜九時までなんて、やってられないわよ!まぁ、静のおかげで、毎日ではないけどね」
新学期に突入して、F組の全員が痛感したことがあった
それは、生徒会長 唐沢京の独裁政治であった。
例えば、毎日テストがあり、規定の点数に届かないと何時になっても帰れなかったり、体育は軍曹のような教師がでてきて、授業中ずっと走らされたりと、鬼のようなプログラムなどである。
他にも色々制限がある。
例えば、一年生は、学食を使えないなどであった。
「確かに、思ったよりかはきついな。でも、最近まで、ここまでひどいプログラムじゃなかったらしいぞ?やはり、唐沢京が会長になってから、ガラッと変わったらしい」
「そうなんだ。確かに、唐沢会長ってあんまりいいイメージないよね。」
合格発表の時を思い出した。生徒会長の権力の強さは、異常であった。
「変な話ですよね。ただ単に、強い人が生徒会長になって、しかも、権力を手に入れるなんて・・・。おかしいです!」
静は、声をあげた。
「うちのクラスって変な奴が多いから、反逆でも起こさないといいわね。ま、そんなこと、起こるわけないか」
冗談を言うクレア。
「そろそろ、教室に戻るぞ。昼休みも終わるしな」
タカシは、時計を見ながら言った。
時刻は、授業開始の十分前になっていた。
「じゃ、楓花ちゃん、教室戻るよ。仕事がんばってね。」
「はいはい。太一たちも、勉強がんばるのよ。いいわよね、学生って。私なんて、今から外回りと夕方の会議があるっていうのに」
「ははは」
恨めしそうな楓花を尻目に、4人は、教室へ戻った。各自、席に戻った。
といっても、4人の席は近かった。
名前の順で並んでいるからだ。
太一が、次の授業の準備をしていると、急に扉が勢い良く開いた。
そこには、F組の嬉々霧子が、息を切らしながら立っていた。
彼女は、新聞部に属し、噂や情報をF組に流してくれる女生徒であった。
「み、みんな聞いて!ついに、明日葉さんがやってくれたよ!いやぁ、私、彼女なら何かやらかしてくれるとおもって、期待していたかいがあったよ!」
大声でクラスに向かって、言った。
「何を叫んでいるんだ、嬉々霧子。もう、授業5分前だ。席に着け。俺なんて、神聖な授業のために、宿題のノートを書き写しているんだぞ!」
「石田は、本当に真面目だか、不真面目だか、わかんないなぁ。ま、少しだけ時間を頂戴な。ええとね、今日、生徒会会議があったのを知っているよね?」
生徒会会議とは、月一回行われる全部のクラス代表と生徒会メンバーが集まる会議のことであった。
今日が、ちょうど生徒会会議の日であった。
昼休みに行われ、ちょうど終わったところだろうか。
F組からは、以前のミーティングで委員長の明日葉ゆかりとマイケル小西が、クラス会議に出席することになっていた。
だが、今日はマイケル小西が、休みを取ったため、代任で、吉祥寺春夫が出席していたのだ。
「なんかね、吉祥寺君の居眠りをきっかけに、まさかのF組とA組との戦いが勃発しそうって話ね。もうすぐ、明日葉さんが帰ってくるから、話を詳しく聞きましょう」
クラスに驚きの声がいくつもあがった。
それは、無理もなかった。
Aクラスは、Fクラスと違ってエリートが集うクラスであった。
一般的に考えると、九曾高校に入学できるだけでも十分にエリートなはずだが、Aクラスはその中でもトップを誇る優秀な生徒だった。
能力、学力、どちらとも高いクラスと戦うことになったら、勝てる可能性があるのか、なぜ戦いが起きてしまったのか。
そんな不安と疑問がクラス中に広がっていた。
クラス中がざわついていると、明日葉ゆかりと吉祥寺春夫が、教室に帰ってきた。
吉祥寺春夫はうな垂れながら、へこんでいるのを対象に、明日葉は、ひょうひょうとしている。
明日葉は、壇上の前に立ち、話し始めた。
「授業前だから、手短に話すね。詳しくは、放課後に。ええとね、私たち、生徒会会議でいろいろやっちゃった!」
ウィンクしながら、舌をだし、頭を軽くこつんと叩いた。
いつも凛々しい委員長のお茶目キャラに、男子たちは萌えを感じざるおえなかった。




