4話
昼間の出来事が私の中に影を落とす、イーツ殿下の心が
わからない、なぜ私なのか
「……雨」
外を見ると、雨がポツリポツリと降っている、まるで私の心を写すかのように
王宮内は静まり返り、雨の音だけが静かにこだまする
寝室では暖炉の火がパチパチと音をたてて部屋を暖めている
私は、読んでいた本をテーブルに置くと窓から空を仰ぐ
いつの間にかに雨は止み、夜空には美しい月が光輝いていた
すみきった曇りのない月
「私と正反対みたい…」
ストールを羽織りバルコニーに出て見ると月の光が射し込み幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「……綺麗」
「そうだね、でも君の方が綺麗だと思うけど」
背後から掛かる聞き覚えのある声、驚き静かに振り替える
「このような時間に、何か理由が在っての事ですか、イーツ殿下?」
「2人っきりの時は名前で読んでって言ったのに随分とつれないね、琴菜」
「ご自分の立場を考えて行動をして下さい」
俺が言った言葉に彼女は優しく注意をする、その姿さえ俺の心は沸き立てられる、
それに月の光は彼女の美しさを更に際立たせる
昼間の出来事を思ってか、身構えて俺を睨む姿に笑みが漏れる
「昼間のことを謝ろうかとおもってね」
「こんな時間にですか?」
「ああ、それに母から預かりものがあってね」
「わざわざイーツ殿下がですか?」
若干の警戒心を解いた彼女が此方にと少しずつ近付いてくる
彼女の白い肌に合う、薄い水色のワンピースとそれに合わす水色のストールが彼女が歩くたびに揺れる
立ち話もなんだし風邪を引くからと部屋に入る様に促す
「さっきまで公務があってね、来るのが遅くなってしまったんだ。琴菜の都合を考えずに、遅くに訪ねて悪かったね」
「夜遅くまで公務が…私の為に申し訳御座いません」
イーツ殿下の突然の訪問をびっくりして警戒した自分が恥ずかしい
公務を片付けてこんな時間に私の為に御越し下さったのに
ソファーにイーツ殿下をうながし、お茶でもと準備をする。茶の入ったカップをそっと殿下の前に置く、もちろんお菓子も添えて
「熱いかも知れないので気を付けて飲んでくださいね」
「ああ、ありがとう」
彼女が入れでくれた紅茶を飲むと確かに少し熱い感じがしたので彼女の助言通りに気を付けて飲むことにした
「殿下、宜しければ寝室の方のソファーにいらっしゃいませんか?暖炉の火が部屋を暖めていますので暖かいですよ」
「それは、有難い誘いだね、そうだね…そちらの方が暖かそうだ」
笑顔で頷かれたので私は良かったと思いながら殿下を寝室にと案内をした
「休むためにこちらの暖炉の火は消してしまってたので申し訳ありません」
「……私は、気にしてないよ」
この時の私は何も気付いてなかった、この時の私はイーツ殿下の体調を気遣ってのことだった
寝室に居場所を変え、王妃様からの贈り物を受け取りイーツ殿下と何気ない会話をした
イーツ殿下の落ち着いた声と暖炉の火が部屋を暖めて心地よいものへと変わっていく
好機と言うべきか、温かく保たれた彼女の寝室に招かれた、それは只たんに彼女なりの優しい思い
温かい室内は眠気を誘う、船をこぎだした琴菜の体を抱きとめ、俺は優しく彼女に語りかけた
「眠そうだね、眠って構わないよ…」
「は…い」
よほど眠いのか目を擦りながら頷き一気に体の力を抜いた琴菜、抱きしめれば暖かい温もりと柔らかい肌の感触
「ここまで信用されるとは…」
苦笑が生まれる、俺はそっと彼女を抱き抱えベットに寝かせた
琴菜の部屋の入り口の扉がそっと叩かれる、俺は扉に向かい静かに声をかけ開ける
「どうした?」
「申し訳ございません皇太子殿下、明日のご予定が変更になりまして……」
護衛から伝言を聞いた俺は了承の意味を込めて頷いた
「わかったと伝えてくれ、それと今日はここで休むからその旨と明日は私が声をかけるまで誰もこの部屋に入らないように」
俺が告げた意味がわかったのだろう一瞬びっくりするが直ぐに頭を下げ部屋の扉を閉めていった
寝室に戻りベットの上でスヤスヤと眠る少女
初めて会った時からどうしても手に入れたかった少女
「このまま朝を迎えればどうなるかな……すでに昼間の出来事は噂になっている」
彼女を皇太子妃にするには問題のない家柄
それに父と母が出会うきっかけを作った父の親友の娘
「本当はこんなことしたくなかった、琴菜が約束を思い出してくれるまで待ってるつもりだったけどアイツも琴菜を狙っているのがわかったから…」
掛布をそっと上げ、眠っている彼女の隣に滑り込り、愛しいと思う少女を抱きしめる
片肘を突いて身を起し眠る琴菜の顔を覗き込み、柔らかな頬を指でそっと撫でて軽いキスを落とす
胸元にある傷を指でそっと撫でてそこにも軽いキスを落とす
「琴菜。朝、目覚めた時が楽しみだよ」
真実がどうであれ僕がここで過ごしていることは朝には皆に伝わるだろう、
昼間の出来事で噂になっているのも知ってる
「さて、彼奴がどうでるか」
優しく琴菜の耳元で囁く
やっと手に入る少女の、柔らかな体温を背後から抱きしめて……
「お休み、琴菜」