第六十六話 少女の死亡診断書は前日に書かれていた
第五十二話の非公開審問から数週間後、王宮の旧倉庫から新しい台帳が届いた。
封を開いたユリウスは、シーラの死亡診断書の受付番号を見つけた。
記載日は、彼女が治療を受けた日の前日だった。
「先に死んだことにした、という意味ですか」
セレナが尋ねると、ユリウスは首を振った。
「その可能性はあります。ただ、日付の誤記や、用紙だけ先に準備した可能性も調べる必要があります」
二人は、台帳の原本を共同監督官へ渡した。
調査室には、受付簿、当直表、印章の貸出記録が並んだ。
文書鑑定を担当するフィリスは、問題の診断書を指した。
「署名の日付だけでは、完成した日付を確定できません」
一方、別紙の検査結果欄には、まだ行われていなかった検査の数値が書かれていた。
検査を担当した医師の勤務表では、その時刻、医師は別病棟にいた。
「これも写しです。原本の照合と、本人への聞き取りが必要です」
ユリウスは、推測を事実の欄に書かないよう記録係に指示した。
元書記官が保護を条件に事情を説明した。
「私は署名済みの紙を受け取って保管しました。命令した人の顔は見ていません」
その証言は、文書の移動経路を裏づけても、王子の直接命令までは証明しない。
監督官は、証言した範囲と、本人が知らない範囲を分けて調書に記した。
セレナはシーラと母親に、新しい資料が見つかったことを伝えた。
「前に話したことを、また最初から話さなければいけないの?」
「いいえ。前の審問記録は残っています。今回は新しく見つかった書類について、知っていることだけ確認します」
シーラはしばらく考えた。
「公開の法廷には、まだ出たくない」
「それもあなたが決めていいことよ」
少女は母親と相談し、監督官に書面で補充陳述を出すことにした。
陳述には、診断書に書かれた日に自分が治療を受けていたこと、作成者や命令者を直接見ていないことを記した。
「見ていない人の名前を、私の口から書かないでください」
監督官は、その一文も省かず記録した。
母親は古い死亡通知を机に置いた。
「これを破れば、あの子は生きていることになりますか」
「いいえ。偽りの記録は証拠として保全し、現在の住民記録は別の訂正手続きで直します」
ユリウスが答えた。
原本は立会人二名のもとで封印され、検査に使う写しには作成者と作成時刻が記された。
証拠の保管と、シーラが生きて暮らすための行政上の訂正。
二つの仕事を混同しないことが、少女を再び紙の上から消さないために必要だった。
夕方、フィリスから暫定報告が届いた。
「事件前日に書式が発行されたことは確認できました。検査結果の記入時期と、指示した人物は未確定です」
セレナは報告書を読み返した。
結論が出ない部分は残っている。
それでも、以前なら一枚の紙で無実の人を追放した王宮が、今は一枚の紙だけで誰かを断罪しないよう調べている。
シーラは新しい受付簿に、自分の名前を自分で書いた。
「古い紙は残して。今の紙には、私が生きているって書いて」
セレナは頷いた。
後日の公開裁判でこの資料を使うなら、弁護側にも原本と鑑定の内容を確認し、反論する機会が与えられる。
少女が何度も同じ痛みを語らなくても、証拠を確かめる方法はあるはずだった。




