43話 来訪者
レン達は院長から個人の連絡先が書かれた名刺をもらった。診察中とかでなければなるべく返事が出来るようにするとのこと。何か進展があれば教えて欲しいと約束し、病院を後にした。
確信ではないがレンには一つの仮説があった。インタフェースの『予備機』の存在である。ミレイから初めてウィスタリアを貸してもらった時も、ミレイは自身の予備機を使用してレンと連絡をしていた。もしかしたら今回のインタフェースも予備があるかもしれないというもの。ミレイの家に戻ると、レンと高木はあるかも分からない『3つ目』のインタフェースを探し始めた。
「なんか……まるでやってる事が泥棒みたいですよね?」
「状況が状況ですから仕方ありませんよ」
ミレイの部屋はもちろん、機材のある部屋、書斎、倉庫など探すだけでもかなりの時間がかかる上、手掛かりになるものすら見つからない可能性もある。
「しかしこれだけ大きい家だと探すのも中々骨が折れるな……」
(俺が使ったインタフェースは強制ログアウトのせいか、接続出来なくなってるし、修正パッチも今のバージョンのままでは到底太刀打ち出来ない……)
彼女の消失はウィスタリア関連のほぼ全てをロストテクノロジー化してしまったと同然であった。
「何かあればいいんですが……」
「あ、これ……」
レンは倉庫に入れてあった機材の山から目についたものを取り出した。
「それは何ですか?」
「子どもの時にミレイが作成したポータブルのウィスタリアです。スマホがない時だったんでコレを使って連絡してたんですよ」
小学生の時にミレイからデバッグを任されて、ポータブル版を借りたことを思い出す。
「さすが海玲様ですね」
「ポータブルもそうでしたけど、やっぱりミレイなら予備を用意しているかもしれない」
家中を探す事数時間、時折り休憩を挟みながら探していたのもありすっかり日が暮れてしまっていた頃——
まだ手をつけていなかった、機材の山の一つ。その中にインターフェースの資料があった。
「これ……インターフェースのことが書かれてます。内容は正直よく分かりませんが、図解とか見る限りでは」
「じゃあ、予備機があるとしたらここに可能性が……」
「高いはずです!」
そして2人で手分けして探すこと数十分。ついに、一つの箱の中からインターフェースと瓜二つの機材を見つけた。
「あった! やっぱりあったんだ! さすがミレイだぜ!」
「本当にあったんですね! ……でも、これはどうやって繋げるんでしょうか?」
レンが使用したインタフェースとは違い電源の様なものも入っておらず、ボタンを幾つか押すが起動する様子もなかった。
「くそ、ここに来てまた足止めか……」
レンは見つけたインタフェースを机の上に置き、溜息と共に項垂れた。
「これがどうしてもダメなら最悪、ミレイの……両親に聞くしか……」
「確かに、御二方なら何とか出来るかもしれません。ですが、コンタクトを取るのはかなり厳しいかもしれません。今は旦那様も奥様も海外に戻られていて、ほとんどパソコンでしかやり取りされてませんから……」
「パソコンで……そうは言っても……」
ミレイが使っていたパソコンは数台あったがどれもパスワードがかかっており、部屋の認証番号や思い当たる数字や単語を試すも解除することが出来なかった。
「やっぱりな、そりゃそうだよな。それに、仮に連絡が出来たとしてこの状況を何て伝えればいいか……」
「…………」
完全に手詰まりの状況だった。記憶力の良いミレイがパスワードをメモか何かに残している可能性は低く、手元にあるのは修正パッチのインストール方法のみだった。
「もし、本当に手段がなかったら俺がゼロからでも勉強して何年かけてもログインする方法を探し出す」
「蓮君……」
※ ※ ※
————それから数日が経った。
(結局あれから、インタフェースを繋げる方法もミレイのパソコンもパスワードも分からないままだ。こりゃあいよいよ……)
レンがミレイの家から自宅への帰路についている途中だった、ふと見慣れない金髪の女性に目がついた。
(外国の人かな? この辺だと珍しいな、観光地って訳でもないのに)
そう思った矢先、レンの視線に気づいた女性はスーツケースを引きずりながら近づいてきた。
(ん? 俺に近づいてくる?)
「How do I get to this address?(ここってどうやって行くのかしら?)」
女性はレンに近づくとスマートフォンの画面を見せながらレンに道を尋ねてきた。
「え、英語か……ここに、行きたいんですかね?」
レンは慣れない英語に戸惑いながらもスマートフォンの地図のアプリと状況を察して手でジェスチャーを交えながら答えた。見かねた女性はため息をつく。
「そうだ、えぇと、日本語じゃないとダメ、分からないかしら?」
部分的に片言にはなっているが、会話に全く支障がないレベルで流暢に日本語を話し出した。
「あ、その方が助かります! というか日本語上手ですね」
「私が、数日ホンキ出せばこんなモンよ」
(数日? 数日で喋れるようになったの……!? それよりも。この住所って……!)
アプリに表示されていたのは、ミレイの家の住所だった。
「あの、あなたはここへ何しに?」
「なんというか、あのコに招待されたから?」
「招待!? まさか、ミレイの友達ですか!?」
「アラ? もしかしてアナタ、ミレイを知ってるの!?」
「知ってるも何も、幼馴染というか……」
「幼馴染!?」
女性はまさかの遭遇に驚きつつも、レンに悟られない様にニヤリと微笑む。
(やったわ! ようやくミレイに会えるのね! さすが私、運が良いわ! 日頃の行いの成果ね)
「あの……道に迷って、困ってるの。案内してもらえないかしら?」
ミレイと友人だという女性はレンに案内役を頼んできた。しかしミレイ不在の今、レンは少し戸惑っている。
「あ、あぁ……でも今は……えっと、その」
「ノープロブレム! 不安なら、顔を見せるか、私の名前を言えばミレイも分かるから!」
「な、名前ですか……?」
「——My name is…… "Nasha Stallman"」
「な、ナーシャさんていうんですね。……んっ? ナーシャ? 今、ナーシャって……!!」
予想外の遭遇。この出会いがレン、そして今も目を覚さないミレイにとって転機となるのだった——




