33話 42番目と50番目の怨恨
レンとミレイがレリエッタの対応に追われている一方、残されたソル達も苦戦を強いられていた。
「ガアァァァァッッッ!!!」
レリエッタが残していったドール達は何度攻撃を受けても、何度倒されても立ち上がり一心不乱に襲いかかってくる。
「何でコイツら私達に襲いかかってくるのよ!?」
「多分、さっきのレリエッタっていうのがこの人達を動かしてるんだと思います!」
「ど、どうやったら止まるんです……!?」
「そりゃあ、こういうのは立ち上がれないくらいボコボコにするか、術者を倒すのがセオリーだろうが!」
「立ち上がれないくらいって、それってつまり……」
「だ、だめです! 操られてるだけで元々は人です!」
ドールの処理に追われるカイル、ミィナ、キキ、オウガ。操られてる人間との戦闘は人質そのものが襲いかかってくる様なもので、普段以上に神経を削がれていた。
だが、それ以上に後がない苦戦をしている二人——
「うぉっ!?」
「ぐっ……!」
ミィナ達の前に傷だらけのソルとナルが転がってきた。早くも二人は既に息が切れ始めていた。
「ちょっと……二人とも大丈夫!?」
「大丈夫……なわけねぇだろ! こりゃあ今までで一番ヤバそうだぜ……!」
「いててて……じゃあやめとくんか?」
「へっ、そりゃあゴメンだぜ。何でこんな大チャンスを見逃すんだよ!」
「ウチも同意見や!」
二人は立ち上がり、再びフィガロのもとへ駆ける。ソルは剣を、ナルは拳を、それぞれ振りかぶりフィガロに向けた。
「「おらぁぁぁぁぁっっ!!!」」
フィガロはほぼ無表情のまま動かない。かつて50人を超える名のある賞金稼ぎ達の生命を奪った狂人振りはその所作からは微塵も感じられなかった。
「——緩い」
フィガロの前では二人の攻撃は通らなかった。どちらも当たる直前でいなされてしまい、直後にカウンターを受ける。
「随分と健気ですね。その意思、気迫、目付きに動き、もしかして私の事をご存知かな?」
「首狩りフィガロ、アンタの名前は死んでも忘れんで。よくもまぁ平然と生きてられるな!」
「申し訳ないが君たち2人とも記憶に無いんだ。せめて何か思い出せる要因が有ればいいんだがな」
「——グレン・アカツキ。ウチの兄や。兄さんも賞金稼ぎをしてたん。結構高ランクの賞金稼ぎでな、王国からもスカウトかかるくらいの実力があったんだ。でもな、ある日の依頼を最後に帰って来んかった」
「…………」
「他のパーティから耳にしたんだが、兄さんはある人物に決闘を持ちかけられたらしくてな、無用な争いを避けようとした兄はそれを拒否した。するとソイツはな近くにいた賞金稼ぎを人質にとったんや」
「…………」
「なんでも、兄さんが負けるか逃げたらこの場の賞金稼ぎを全員殺すとか言ってたらしいな。無論、兄さんは決闘に応じて……殺された。そん時兄さんに逃してもろた賞金稼ぎ達が口を揃えて言ってたんや、『首狩り』の名前をな」
「…………お前は?」
フィガロはソルの方を見る。フィガロは何も語らない。ただ、黙って話しを聞いていた。
「ライザ・ウォードを覚えているか?」
「…………」
「あれから8年経つ。雪の降る日だった。俺の義父だったライザ・ウォードは戻ってきた俺を庇ってお前に殺された」
「…………」
「一時期記憶が飛んじまってたが、こんな早くテメェにリベンジするチャンスが来るとは思ってなかったぜ!」
フィガロは黙って女神像を見上げている。
「——42番目と50番目」
「……っ!」
意味深な発言をするフィガロにソルとナルが構える。
「私は強者しか記憶に残りませんが……よく覚えてますよその二人は。今でも記憶に新しいくらいですから。そうでしたか、あなた達はその妹と弟子ですか。これはなかなか運命的ですねぇ!!」
フィガロは懐中から禍々しい形状をしたナイフを取り出した。
「このナイフは特別製でしてね。グレン・アカツキもライザ・ウォードもこの刃に沈んでいきました」
「…………!!」
「ここは、由緒正しい聖堂と言われています。きっと女神の元であなた達を見ている事でしょう。そして、彼らもきっと、待っている」
ほんの一瞬の事だった。フィガロに漂う気配が若干変わったと思っていた矢先だった。
(——来る!?)
ソルはナイフを躱そうとしたが、それよりも先に切先が右肩辺りに触れてしまった。
(速い! さっきまでの比じゃねぇ……!)
「——余所見は厳禁やで」
ナルはフィガロの目線がソルに向いていた一瞬の隙を付き、巧みな足捌きで物音を立てずに近づく。そして、フィガロが自身の射程に入る。
(レニの街のデモンストレーションとはワケが違うで、ウチの正真正銘、ガチのマジや!!)
完全にフィガロの死角、真上から強烈なナルの足技を放つ。
(食らえ! 陽炎墜!!)
「それも、緩い」
フィガロの視線は既にナルへ向いていた。
「ウソやろ……!? コイツ、いくつ目ついてんねん!」
ナルの足技が当たる直前にフィガロに気づかれ、そのまま脚を掴まれ地面に投げ飛ばされてしまった。
「がっ……!」
「さあ、次はどうするのかな?」
ナルは痛みを堪え、すぐに起き上がりフィガロと距離をとった。
(ダメージ負わせるどころか息一つ切れてへん……マジモンの怪物やコイツ……!)
(ナル、頼みがある。上手くいくか分からんが試したい技がある。少し集中させてくれ)
(なんや、ウチにそれまでアイツの面倒見とけってか)
(頼む……)
(——高くつくで)
(出世払いでいいか?)
(構まへんよ)
フィガロ攻略に向けて、ソルとナルは次なる一手を繰り出そうとしていた。




