第77話 魔女、クラーケンを食べる
魔術で作り出した岩の槍がクラーケンの眉間へと突き刺さる。クラーケンはしばらくの間ビクビクと痙攣をしていたがそのうち動かなくなった。そして全身がサーッという感じで白くなっていく。
上手く締める事に成功したようなので、もう一差しして頭の方にも槍を突き刺す。頭の部分も白くなった事で、クラーケンの全体を締めることができた。
クラーケンが沈まないように魔術でクラーケンを周りの海水ごと凍らせておく。上空に火の玉を打ち上げて合図を送ると、近場で待機していた漁師達が集まってくる。その漁師たちに向かって片腕をあげる。
「とったどーーー」
「「「おぉぉぉぉぉ」」」
といった感じの歓声が沸き上がる。
「さてとこれで依頼は完了ってことでいいのかな?」
「ああ、本当に助かった。自分たちの手で敵は討てなかったのは残念だが、これでこの辺りの漁場でも漁ができるようになる」
「報酬はちゃんともらうからね」
「おう、そっちに関しては任せてくれ。おーいお前らロープをかけろこいつを持って帰るぞ」
「「「おう」」」
テキパキと船から船へとロープが渡され、全長五百メートルほどあるクラーケンを縛ると港へと戻り始める。五百メートル級なんてとんでもない大きさに思えるけど、これでもまだ小さい方だったりする。もっとでかい個体ならこれのまだ三倍位は大きいのがいるようだ。ただし私は見たこと無いのであまり信じていないけど。
さて私が今何をしているかと言うと、前国王に誘われて海辺の避暑地へとやってきている。だけど着いて早々に漁場を荒らしているクラーケン退治の依頼を受けることになった。
漁師の元締めの元へ行ったのだけど最初は私みたいな小娘には任せられんって言われた。その後酒場で繰り広げられた酒飲み大会が開かれ、最終的になぜか認められる結果になった。いやさ、なんで酒飲み勝負で認められるのかは謎だけど。私のほうがコイツら大丈夫か? って思った。
まあそんなわけで、私たちは海に繰り出し出てきたクラーケンを退治した。漁場を荒らしていたクラーケンを倒したことで、漁が再開されることになる。その漁で取れた魚介類とクラーケン料理の食べ放題が今回の私の報酬になる。別にお金には困っていないので、こちらのほうが私にはありがたい。
◆
「それでご隠居はクラーケンのことで私をここに呼んだのかな?」
「クラーケンは偶然ですよ。わしらが王都へ出発した後に出現したのでな。こちらに戻ってきてから知ったのですよ」
「そうなんだー、偶然なんだねー」
「そうですよ。偶然ですよ」
「「はははははは」」
このご隠居は随分とたぬきなようだ。クラーケンが近海の漁場で暴れ始めたのは確かにご隠居が王都に着いた後だけど、クラーケンが目撃されるようになったのはかなり前って話と聞いている。
「まあ良いけどね。結果的に新鮮な魚介を食べられるわけだからね」
「ここに滞在する間はこの屋敷を好きに使ってください」
「わかりました。お言葉に甘えてしばらくはここをお借りします」
この屋敷はご隠居の別荘の近くに建てられているゲスト用の屋敷だということだ。この場所はご隠居を含めて王族の避暑地となっているのだけど、プライベートビーチなどもあり、そこも自由に使って良いとのことだった。
「それでは何かあれば使用人に伝えれば直ぐに連絡がつくようにしておきます」
「わかったよ、しばらくのんびりさせて貰いますね」
ご隠居さんは馬車も使わずにそのまま歩いて帰っていった。それを見送った私がまっさきに何をしたかと言うと、お風呂に入りました。王城のお風呂には負けるけど、いい感じのお風呂でした。
珍しいことに海水を引き込んで、その海水で作られた露天風呂なんてものがあって、海を一望できるようになっていて満足でした。夕暮れだと夕日が海に沈んでいく景色が見られるようだ。
◆
そんなわけでクラーケンを持ち帰った港では現在お祭りが開催されております。漁師だけではなく、街の住民が総出で解体作業が行われている。そして解体されたクラーケンが次々と調理されていく。
そりゃあ全長五百メートルのクラーケンの解体なんて街総出でやらないと時間かかるよね、それは料理も然り素材が駄目になる前に次々と料理され各所で振る舞われている。お酒を含めて祭りで振る舞われた料理にかかったお金はご隠居が出すとのことだった。
「よお、嬢ちゃん楽しんでるか」
「漁師ギルドの、えーっとボス?」
「ボスってなんだよ、漁師ギルドのギルド長をしているグラードだ」
話しかけてきたのは漁師ギルドのギルド長だった。ちなみにクラーケン退治の時に漁師の先頭で指示していたのがこの人だ。
「いやー酒飲み大会で早々に潰れたグラードさんですね」
「ぐっ、あんな強い酒ガバガバ飲める嬢ちゃんがおかしいんだよ」
「はっはっはっは、私に酒飲み勝負で勝とうなんて百年は早いよ」
「なんか具体的だな。そもそも人は百年も生きれないからな。それはそれとして今回は助かった礼をいう」
グラードはそういって頭を下げた。
「私は依頼を受けただけだから」
「それでもだ、犠牲者もなく討伐できたんだ。ギルドからも謝礼は出させてもらうつもりだ」
「んー別にいらないかな。報酬は魚介類食べ放題ってことになってるし、隠居にも貰う予定だからね。それでもって言うなら私が倒すまでに犠牲になった人の家族になにかしてあげて」
「嬢ちゃんがそれでいいならそうさせてもらうが。気を使わせてすまないな」
グラードはそう言って軽く頭を下げる。
「それじゃあ祭りを楽しんでくれ。三日ほどかけてクラーケンが全部、皆の腹に収まるまで祭りは続くからな」
「あれを全部食べるの?」
「弔いの意味もあるからな」
「そうなんだね。まあ他にも食べたいのあるから楽しませてもらうよ」
「おう、それじゃあな。落ち着いたらギルドにも寄ってくれ」
「また酒飲み勝負でもする?」
「勘弁してくれ、あんたに負けて俺の財布はすっからかんだ」
グラードは一度ガックリと肩を下げてから去っていく。それを見送り、私は反対側へと歩みを進める。さっきから良い匂いがしているので気になっていた。それは何かというと、まだそんなに出回ってないはずの魚醤とは違う醤油の焦げる匂いがしているのだ。





