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掃討

 初めてエインツの町を訪れたセイラは、まだ色濃く残っている瘴気に顔を顰める。


「うっ!」


 一度体験しているリシャール達は、平気とはいかないまでも慣れてしまったのかそれ程キツくは感じないが、初体験のセイラはキツかったようだ。鼻と口を抑えながら、


「すいません、先に浄化して良いですか?」


 いや、それは神官達がとリシャールは言おうとしたが、それを待たずにセイラは地面に手を付いて、



 『グランドヒール!』



 そう呪文を唱えた瞬間、エインツの町全体を覆い尽くす勢いで浄化の聖なる光が広がり、あっという間に辺り一面を清浄な空気に変えてしまった。皆が呆気に取られている中、


「あ~ スッキリしたぁ~!」


 何事もなかったかのようなセイラの声が響いた。


 その力を目の当たりにした神官達は、


「凄い...これが大聖女様のお力...」「我々の存在意義って一体...」「何の為に苦労してここまで来たんだ...」「なんかあんなに疲れてた自分の体まで軽くなったような...」「惚れた...結婚したい...」


 称賛とも呆れとも取れる発言が相次いだが、リシャールはこういう光景を段々見慣れて来たなぁなんて思って見てた。それと確かに、強行軍だった時の疲れが取れて体が楽になった気がする。気分も晴れやかで清々しい感じだ。ただ最後の奴はコロすけどなっ!


 リシャールが物騒な事を考えている時、町中でも異変が起こっていた。建物が倒壊した時に逃げ遅れて怪我をした人、落下物に当たって怪我をした人、逃げる時に慌てて転んで怪我をした人等々の怪我も一瞬で治ったという。奇跡を目の当たりにした人々は口々にこう叫ぶ。


 「「「「「 さすが大聖女様っ! 」」」」」


「ふぇ?」


 当の大聖女様は意味が分からずポカンとしている訳だが、これもまた仕様である。




◆◆◆




「じゃあちょっとひとっ飛び行って来ますね~」


 セイラがクロウの背に乗ってそんな事を言って来る。帝国軍への偵察飛行に出る為である。


 なんだよ「ひとっ飛び」って? そんな言葉初めて聞いたよ! なんて突っ込んでる場合じゃないな。うぅ、ホントはトラウマがあるから怖いんだけど、セイラ一人を行かせる訳にもいかないし...


「ちょっと待ったセイラっ! 僕も一緒に乗せて行ってくれ!」


「私は良いですけどクロウはどう?」


「クルルッ!」


「OKだって言ってます」


「か、噛まないよな!?」


 その大きさで噛まれたら死んじゃいますっ!


「クルッ!」


「噛まないけど」


「けどっ!?」


「咥えるって言ってます」


「へ?」


 カブッ(咥えた音) ポイッ(放り投げた音) ペシャ(背中に乗った音)


「えーと、いらっしゃい!?」


「こ、怖かったよ~!」


「じゃあ飛びますね~」


「ちょっと待って! 心の準備がぁ~! うわぁ高い~!」


 こうしてクロウは山の中腹に向けて飛び立ったのでした。




◆◆◆




「リシャール様、居ましたよ。うわぁ一杯居ますね~」


 やっと高さに慣れたリシャールが下を見下ろすと、帝国軍が死屍累々と横たわっていた。瘴気にやられたのは間違い無い。この辺りは邪竜の封印場所に近いせいか特に瘴気が濃いようだ。


「セイラ、瘴気を祓ってくれ」


「いいんですか?」


「あぁ、これじゃ話も出来無い」


「それじゃ『グランドヒール』」


 途端に祓われる瘴気。しばらくすると、何人かの帝国兵がヨロヨロと起き始めた。そして上空を見上げて固まった。脳が目に映った映像を処理するのに数秒を要し理解に至った瞬間...阿鼻叫喚と化した。


「ぎぃやぁ~! 化け物~!」「おた、おた、お助け~!」「神よ憐れなる子羊を救いたまえ...」「神獣様、どうかご慈悲を~!」「お、おかあちゃーん!」


 交渉しようと思っていたリシャールだが、これじゃ埒が明かないなと諦めかけていた時、ふと天啓が閃いた。


「えぇい静まれ! 帝国兵どもっ! 聖域を侵そうとした不届き者めがっ! 神竜様はお怒りであるぞ!」


 セイラの脇腹をつついて囁く。もちろん帝国兵に聞こえないようにそっと。


 (セイラ、軽くでいいんだがクロウに攻撃を指示してくれ)

 (コロシちゃっていいんですか?)

 (いやいや、誰も居ない所に。山の上の方でいいよ)

 (はぁ分かりました。クロウ、あの辺りに最小出力でブレス撃って)

 (クルル)


 ポンッと小さい黒球が山肌に当たり、岩石が弾け飛ぶ。それだけで帝国軍はまたパニックになる。


「神竜様の怒りを思い知ったかっ! 早々にここを立ち去らねば次は其方らの番ぞ! 死にたくなければ二度とこの地を踏むでないっ! 国に帰って王にそう伝えるのじゃ! 分かったら行けいっ!」


 帝国軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。それを見ていたリシャールはこれ以上ないくらい満足気で、なんかこれ癖になりそう、神に仕える神官の役って一度やってみたかったんだよねと得意満面だが、隣でセイラが胡乱気に見ている事には気付いていない。




◆◆◆




 帝国軍が撤退したとの報を受けて、さすがは守護聖獣様だ! などと騎士達が騒いでいる頃、何もやる事が無くなってしまった神官達は、瓦礫の下に埋もれている人が居ないか調べたり、崩れ掛けた建物の補修をしたりなどの救助活動を行っていた。神官なのにっ!


 ここでもゴドウィンが率先して動いてくれているので神官達からも特に苦情は出ない。本当にリシャールは頭が下がる思いである。さてこれで残る懸念はと言えば...


「セイラ、王都からここまで何時間くらい掛かった?」


 セイラはアンジュとの会話を思い出してみる。結構長いこと話し込んでた気もするけど、それでも時間にすれば、


「ん~ 多分一時間くらいだったかなぁ...」


 フムフム、馬車で三日掛かる距離を僅か一時間足らずってそれも凄いんだが、空を飛ぶならそれくらいは当然として、では馬車で約十日掛かる距離だったらどうなるか...


「その三倍くらいの距離でも飛べるかな?」


「クロウ、行ける?」


「クルル」


「問題無いそうです」


「ここから南の砦まで飛んで欲しいんだ」


「南の砦? なんでまた? 何かあったんですか?」


「あぁ、ここと同じように他国からの脅威に晒されている。開戦するのは時間の問題だ。叶うならば是が非でも開戦を阻止したい。飛んでくれるか?」


 王国を北の端から南の端へ縦断する距離だ。普通ならこんなこと頼まない。だが神獣なら話は別だ。図々しい頼みである事は自覚しているが緊急事態という事でご理解願いたい。


「分かりましたけど...またアレやるんですか?」


 セイラがジトッとした目を向けて来るが、それに気付かないフリをして、


「ま、まぁ、状況に応じて...かな」


 セイラがハァって大きなため息付いてるけど、いや、ホントだよ? 快感だったからもう一回神官役をやってみたいって思ってる訳じゃないよ? ホ、ホントだってばさ!


「という訳でレイモンド、僕らはちょっくらひとっ飛びして来るから後ヨロシク」


「いやいやいや、何がという訳なんですかっ! ちゃんと説明して下さいよっ! 何ですか、ひとっ飛びって! 意味分かりませんよっ!」


 察しの悪い側近だなぁと思いつつも、確かに言葉が足りなかったかも知れないと思い直したリシャールは、


「僕らはこれから南の砦に飛んで、開戦を阻止しようと思う。お前はここに残って災害の復旧と戻っては来ないとは思うが帝国軍の警戒に当たってくれ。ではサラバ!」


「ちょ、ちょっと殿下!? ま、待ってっ!」


 待たないっ!


 リシャールはクロウに颯爽とまたがっ...いや咥えられてポイッとされて南の砦へ飛び立った...そして数秒後に後悔する...


「ひぃぃぃっ! 速い速い速い~! 怖い怖い怖い~!」


「ホラ、リシャール様ちゃんと目を開けて。方角を指示してくれないと困ります」


「無理無理無理~!」


 リシャールの絶叫はその後しばらく続き、飛び始めてから約三時間後、ようやく南の砦が見えて来た。その頃にはどうにか飛行速度に慣れたようだ。


「あ、リシャール様、見えましたよ。アレがそうじゃないですか?」


「あぁ、そうだ。間違い無い。我が軍が集結してる。幸いまだ戦端は開かれていないようだ」


「どうします? 一旦味方の所に降りますか?」


「うーん、いや説明が面倒だしパニックを起こされても困るから、このまま敵の正面まで行こう」


「はぁ...」


 そこ! ため息つかない!


「えぇい静まれ! ルーフェン国兵どもっ! 聖域を侵そうとした不届き者めがっ! 神竜様はお怒りであるぞ!」



 以下同文...





 


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