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輪廻

 ~~ 時は少し遡り ~~



 弓の手入れを終えた私は怖ず怖ずと話し掛ける。


「あ~えっと、アンジュ? だっけ?」


 『なに?』


「いや、結局どこに向かっているのかな~? なんて」


 『あなたの愛しい王子様の所へよ』


「い、いとしぃ!?」


 私の顔はきっと今、茹で蛸のように真っ赤になってると思う。


 『違うの?』


「ち、違っ、あ、えっと、そうじゃなく、いやその、ゴニョゴニョ...」


 『フフ、可愛いわね』


「きゅ~...」


 もうやめてあげてっ! セイラのライフはもう0よ!


「と、とにかく、目的地は分かったわっ! それで私は何をすればいいの?」


 私は強引に引き戻した。


 『邪竜と戦って貰うわ』


「は、はいぃぃ!? 何言ってんの!? 勝てる訳ないじゃーん!」


 普通に死にますってっ!


 『大丈夫よ、私がサポートするから。あなたは私の言う通りに戦って頂戴』


「い、いやでもさ~...」


 『あなたの王子様を助けたいんでしょ?』


 私はもう突っ込まない事に決めた。


「...分かった、やってみる。それと私の名前はセイラ。あなたじゃなくてセイラよ」


 『知ってるけど?』


「うぐっ! そ、それとこの子の名前はクロウよ。覚えておいて」


 『...』


「?? どうかした?」


 『...いえ、あなた...じゃない、セイラもクロウって名付けたのよね...』


「えっ? どういう意味?」


 『そうね、まだ時間もあるし。少し昔話でもしましょうか』


「昔話?」


 『まずセイラ、あなたは私の生まれ変わり...だと思うわ』


 私はズッコケル所だった。


「いや、生まれ変わりって時点でビックリなんだけどさ、確証は無いんだね...」


 そっちもビックリだよ!


 『だって調べようが無いもの』


「まぁそりゃそうなんだけどさぁ」


 なんだこの残念感は。


 『だからまずは根拠を上げて行くわね。セイラ、あなたはこの国じゃ珍しい黒髪でしょ?』


「まぁ確かに。私以外で見た事無いかも」


 『私の居た国じゃ黒髪が普通だったのよ』


「どこの国? 聞いた事無いんだけど?」


 『もう存在しない国よ。千年くらい前に滅んだから』


「そんな昔に!?」


 なんだかスケールが大きくなって来たぞ!


 『その国で私は、あなたに夢で見せた通り梓巫女として働いていた』


「あぁ、神のお告げを聞いて悪と戦ってたんだっけ?」


 『ま、まぁそんな所よ。戦ってたのは主に魔人や邪竜だったけどね』


「魔人って?」


 『魔獣が人型になった者。この国じゃ魔の者って言い方してたわね』


「あぁ、確か魔獣を作り出したり使役したりするんだっけ?」


 『えぇ、そうよ。知能が高くて魔力も高い厄介な存在だったわ』


「その上更に邪竜とも戦ってたんだ...アンジュって凄かったんだね...」


 『凄くなんかないわよ。邪竜と戦って命を落としたんだから』


「...その邪竜ってのはまさか...」


 『えぇ、そのまさかよ』


 マジですかぁ~!? それじゃ私が戦っても勝てないんじゃないの!?


「あのさ、そもそも人が竜と戦えるモンなの?」


 『普通は無理ね。飛び回られたら打つ手無いもの』


「で、ですよね~」


 『だからこの子を神が授けて下さったのよ』


「へ? この子?」


 『えぇ、この子...クロウは私と共に戦った仲間なの』


 ドビックリッ! まさかクロウが!? えっじゃあクロウって千年以上生きてんの!?


「さっきまでの小さいサイズのクロウは封印されていた姿って事?」


 『封印とはちょっと違うわね。力をセーブしている状態ってのが正しいわ。このデカさじゃ連れて歩けないでしょ? 普段はあの小さい姿でいるのよ。その姿を名前の由来にしたのはあなたも同じじゃないかしら?』


「アハハハ...その通りです...」


 ネーミングセンスまで同じってっ! 


 それと封印されてた訳じゃないんだね! 鑑定スキルまで欺くなんてさすが神獣!?


 『クロウはね、私があの邪竜を封印した場所をずっと守ってくれていたのよ』


「えっ? 千年も?」


 『えぇ、そうよ。封印が弱まらないようにね』


 そ、それはなんていうか、長い間のお務めご苦労様でした...


 『それともう一つ、あの邪竜を倒せる者が現れるのを待つため』


「倒す? 封印されてるのに?」


 『いつまでも封印し続けられる訳じゃないのよ。いくらクロウが頑張ってくれても封印そのものが解けていくのは防ぎようが無い。遅らせるのがせいぜいなのよ』


「それじゃ今、封印が解けたっていうのは...」


 『えぇ、経年劣化とクロウが封印の場所から離れた結果ね』


「えっ...それじゃ私のせい?」


 冷や汗タラ~リ...


 『違うわよ。クロウが親和性を確かめて、セイラなら大丈夫って事であなたの側に居たんだから』


「親和性って?」


 『魂が引き合うみたいな感じかしら。これが弱いとそもそもクロウを認識すら出来ないのよ』


「そうなの?」


 『えぇ、その証拠に、この国の初代聖女から今までの聖女の誰一人としてクロウを認識出来なかったわ。セイラ、あなたが初めてなのよ』


「それってやっぱり私がアンジュの生まれ変わりだから?」


 もうこれ確定でいいんじゃ!? そういやクロウと初めて会った時、なんか懐かしいような感じがしたんだよね~ 前にどこかで会った事があるみたいな?


 『それが一番の理由なんだろうけど、それだけじゃないと思うわ。セイラ、あなたの魔力量って桁外れに大きいのよ。歴代の聖女達も生前の私でも遠く及ばないくらいにね』


 人をバケモンみたいに言わんで欲しいんだが...


「そ、そうなんだ。で、でもさ所詮私も人の子なんだし、いくらなんでも竜には勝てないと思うんだよね~」

 

 君子危うきに近寄らずって言うしねっ!


 『大丈夫よ。秘策があるから』


「秘策?」


 『えぇ、あの邪竜、名前をファーヴニルっていうんだけどね。奴は人の心を操るのが得意なのよ』


「それで?」


 『前回、奴と戦った時あと一歩って所まで追い詰めたのよ。でも最後の所で奴に操られた味方に裏切られてね...』


 うわぁそれはキツイなぁ...信じてた味方に裏切られるなんて考えたくないよねぇ...けど邪竜をあと一歩まで追い詰めたアンジュってやっぱり凄かったんじゃ?


「そ、それはその...なんていうか...」


 『済んだ事よ。もう気にしてないわ。それでね、ここからが本題なんだけど、その裏切った彼も最後の最後で正気を取り戻したのよ。そして私を庇ってくれて、奴に取り込まれてしまったんだけど、その隙に私の最後の力で何とか封印に成功したって訳』


 なんともまぁ...壮絶な話だなぁ...ん? 待てよ? 彼ってもしかして...


「あの、その彼っていうのは...」


 『...えぇ、夢で見せた人よ。私の守護騎士で...恋人だったわ...』


 あぁ、やっぱり...なんて切ない...もし私が同じ立場だったりしたら...ダメだ、考えたくない...リシャール様...


 『そんなに落ち込まないで。もう千年も前の話よ?』


「で、でも...」


 『いいから聞いて。大事なのはね、彼の意識がまだ奴の中に残ってるって事。これが切り札になるわ』


「切り札?」


 『えぇ、そうよ。作戦としてはね、まずあなたの大事な人達が操られたりしないよう、離れて戦う事。空中戦を仕掛けるの。そして最高のタイミングで彼に奴の動きを封じて貰うわ。そこをあなたが止めを刺すの』


「う、上手く行くかなぁ...」


 『きっと上手く行くわ。自信を持ちなさい』


 本当かなぁ...空中戦なんてやった事無いし不安だらけなんだけど...


 『セイラ、そろそろ到着するわ。用意はいい?』


 うぅぅ...もうやるしかないのか...


「ま、まあなんとか...」


 『マズい、もう顕現してるわっ!』


 えぇぇっ!? なにあれ!? なにあれ!? デカ過ぎでしょ!? クロウの倍以上あるじゃーん! あんなのと戦うなんて無理無理無理~! 怖い怖い怖い~!


 『いけないっ! ブレスを撃とうとしてるわっ! セイラ、弓を構えてっ! 早くっ! あなたの大事な人を助けるんでしょっ!』


 !!! その瞬間、腹が決まった! そうだ、無理でもやるんだ! 怖くても戦うんだ! あの人を助けるためにっ!


「リシャール様あぁぁ~!!!」


 

 

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