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状況[3]

 さて。

 マオは衣服の上に武装を要求したが鎧は却下。ダガーだけベルトホルスターにつけさせ、代わりに精霊に防御を頼んだ。

「鎧ダメ?なんで?」

「まさかと思うけど、こっちの人間に出会うとヤバイ」

「?」

 異種族になってマオの革鎧はほとんど使えないが、手直しすれば何とか着れるものもあるらしい。

 だが、どれもこれも真っ黒に汚れてる。

 そしてそれは大量の血で、人間のもかなり含まれているんだ。

 あっちの世界では護衛の勲章みたいなもんだったが。

 

 こんなの現代日本人が見たら銃の携帯どころじゃすまんぞ。

 まさかと思うけど、一応な。

 

 ふたりとも靴は履かない、というより履けない。

 ひとの足とネコ科大型動物をあわせたような形状の足は、人間用の靴が使い物にならない。

 でも具合はむしろいいんだよな、歩きやすい。

「快適だよなぁ、さすが野生の足」

「そう?マオはちょっと歩きづらい」

「うん、おまえはそうだろうな」

 マオにとっては性能低下だしな。

 俺の方は逆で、特に腰から下が軽快そのものだ。見た目はごつくなっているのに歩きやすいったら。

 特に足首以降。

 素足なのにスパイク履いてるみたいで、実にいい。

「爪は出し入れできないな」

「マオも出し入れできなくなった」

「ホントか?」

「ウン」

 以前は猫と同じように、指を緊張させると爪が出るようになってた。

 今はダメなのか、なんでだろ?

「あ、そうか。足の関節が変わったせいだ」

「え?」

「マオ、俺の歩くとこ横から見てみ?指が動いてるだろ?」

「あ、うん」

 すたすたと歩いてみせたら、ウンウンとうなずいた。

「爪の出し入れって、この端っこの関節が鍵になってたろ?爪が前のままだったら、歩いたり走ったりしてて唐突に爪が出るかもしれんぞ」

「……そうだっけ?」

「そうだよ」

「んん、マオはよくわからない。ユーはなんで知ってる?」

「そりゃ、おまえの爪の動き見てたからなぁ」

 子猫の時とか、異世界の猫だってんで構造を確認したもんだ。

 爪の出し入れ、牙の生え具合。果てはシッポをめくって穴の状態まで……!?

「エッチ」

「いや、子猫の時だって。どこでそんな言葉覚えた!?」

 そういう悪い言葉を教えた覚えはない。誰だいったい。

「エルフのおねーさんたち」

「……あいつらか、まったくもう」

 困ったやつらだ。

 ま、エルフ族なら悪意の事はしてねえだろうが。

 

 あの世界の住人を俺は信用してないが、それは人間族の話だ。

 魔族も敵ながら立派な奴らだったし、森の民・エルフたちに至ってはいろんな意味で素晴らしい連中だった。

 ただ、エルフを信用するに至った理由にはもうひとつあってね。

 

 あいつら、上級者でマニアで変態ぞろいだったんだよ。

 長生きしすぎてるせいなのかね?

 疲弊した心を保つせいなのか、変態が多いわ多いわ。

 いろんな道を極めちゃった馬鹿野郎(注:褒め言葉)がわんさといやがった。

 

 モフモフ好き。

 爬虫類マニア。

 人外ヲタ。

 エトセトラ、エトセトラ。

 

 そう。

 エルフが異種族を保護してまわっていたのは打算でも高尚な理由でもなく、単に彼らが大好きなためだったんだ。

 

 ナーガ族がやばいと聞けば竜好きやヘビヲタが援護に駆けつけ。

 獣人族が大変だと聞けば、ワンニャン好きがすっとんでいき。

 アラクネがやばいと聞けば、蜘蛛マニアが手をさしのべて。

 そんなアホが大量にいて。

 しかも自分と違う属性のやつがいても、お互いさまだろうと否定しない。

 

 はっきり言おう。

 あんな底抜けの大馬鹿野郎ども(褒め言葉)を疑う?

 ハハハ、ありえねえわ。

 

 俺はマニアじゃないから仲間とは言えないだろう。

 けど、俺が精霊好きなのを見てずいぶんと歓迎してくれてな。エルフは精霊信仰者だから、俺が本当に彼らのこと好きなのがわかったらしい。

 おかげで、ずいぶんと親切にしてもらったよ。

 俺の勇者としての殺害数は十万を軽く越えているけど、実はエルフはゼロだったりする。人間族の殺害数だって万に及んでるのにな。

 亜人をなぜ殺さんと叩く奴らもいたが、魔王を殺すのが俺の仕事だろうと突っぱねた。

 そのことで女神の加護が弱まったこともあったが、知らんよ。

 召喚時につけられた枷は『魔王討伐』であって、人間族以外を殺せなんて話はない。

 だから女神も人間族たちも、異民族殺しを俺に強制できなかったしな。

 人間族は信用できねえ。

 だがエルフたちは信用できた。

 だから俺は滅亡した村で子猫、つまりマオを拾った時も、まっさきに彼らに相談したんだ。

 

 まぁ、そんな話は今はいいか。

 

「よし、これで準備完了か」

「うん、いこう?」

 マオは微笑んだ。

 沼津の町がこの調子じゃ、東京なんて巨大な死者の都(ネクロポリス)と化しているだろう。新宿区にいる俺の家族は……はっきりいって、家にいる可能性は低い。

 それを確認するための旅。

 マオはそれを知っている。

 だけど、知ってて笑顔でついてきてくれる。

 

 こんないい子を置き去りにしようとした昔の俺は、やっぱり愚かだったんだと思う。

 

 確かに種族の問題があった。

 今のマオは人間でもなく猫でもない姿だ、見方によっては和製RPGによくある獣人という名の猫耳つき人間にかなり近い。

 なんでこんな半端な姿にしたんだ女神。

 マオは猫のままが良かったのに。

 そして人間ぽくするなら、いっそ人間にすればいいはずなのに。

 

 まぁたぶん、アレなんだろう。

 クソ女神は人間族「だけ」が大好きだからな。

 たかが獣ごときを人間族の姿にするなんて事をしたくなくて。

 けど実績ある者のお願いなんだから聞いてやるべきだとも考えて。

 そして。

 要は種族を同じにすればいいんだから、俺を人間じゃなくしてしまえばいいじゃないかと。

 まぁきっと、そんなところだったんだろうな。

 

 ちくしょう。

 この子を、こんな半端な姿にしてしまったクソ女神が。

 やっぱり殺してやりたいわ。

 

 彼女を完全に人間にするのがイヤなら、なんで俺を完全に猫族にしてしまわなかったのか。

 完全に動物なら、何とか両親に事情だけ伝え、あとは森に生きるような道もあったろうに。

 わざわざこんな半端な改造をしやがって。

 人間族でないならどうでもいい、という女神の価値観が伺えて腹が立つ。

 

 まぁ、そもそもあの女の目線には、あの世界の人間族しか入ってないからな。

 

 それが多神教の世界の神の一柱ならわかる。

 けど聞いたところ、あの女と同格の他種族の神なんてのはいないようだった。せいぜい、精霊信仰が存在するだけだ。

 なのに、どうして人間族だけ?

 どう考えても歪んでるよな。

  

 と、その時だった。

【中間報告ー】

【ぱふぱふー】

 おや。

 俺の召喚とゾンビの関係について依頼した精霊たちか。

『おつかれさん、大変だったろう。ほれ』

 魔力をやると、キラキラと精霊たちは輝いた。

【ユウ、魔力すくないー】

【たりないー】

【レベルアップすいしょー】

 げ、レベル不足かよ。

 

 こうなると精霊たちは仕事してくれなくなる。

 たとえば今回のケースだと、足りない魔力が満たされるまでは報告してくれないのだ。

 だけど。

 

『レベルアップったって、どうすりゃいいんだ?

 ここは異世界じゃない、戦って殺そうにもゾンビしかいねえんだぞ?

 それともアイテムボックスの成長を待てっていうのか?』

 そしたら。

【ゾンビ、やっつけたら上がるー】

【いけるぜ、べいべー】

 え、アンデッド殺しでレベル上がる?

 ほんとに?

『まて。あっちの世界じゃ、死者を殺してもレベルアップしなかったぞ?』

 そしたら。

【それ、あのおんなのせいー】

 え、どういうことだ?

【ユウがかんけーないことした時のけいけん、うばわれるようになってたー】

『なんだってぇ!?』

 

 あいつ、そんな仕掛けまでしてやがったのか。

 

『もしかして、アイテムボックス使うだけで魔力が増えるのも?』

【魔力つかうんだから、魔力ふえてあたりまえー】

【だまされてた?】

【うわお】

 

 ……おいおい。

 

 でもいわれてみれば合理的だ。

 アイテムボックスは魔力でできているものだから、モノをいれれば魔力を使う。

 そして魔力も体力と同じで、使い続ければちょっとずつでも強くなる。

 

 ははは、なんてこった。

 俺って本当にコケにされまくってたんだな。 

 ためいきをついた。

 

「ユー?」

「ああすまん」

 あまりの事にマオを置いてけぼりにしてたな。

「よしいこうマオ」

「うん、わかった」


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