状況[2]
地球にはアンデッドなんて伝説上の存在だった。
ゾンピパニックだって物語やゲームの中だけの、空想上の怪異にすぎなかったはずだ。
なのに。
俺の召喚と同時刻に大量のゾンビが世界中に現れたって、どういうことだ?
もしかして。
『ちょっといいかな?』
俺は考えが及ぶ前に、精霊に呼びかけていた。
【なあに?】
【なあに?】
『俺が異世界に召喚されたのと、あのゾンビたちが出現したのが同時っぽいんだけど……調べることができないかな?』
【調べる?】
【なにをー?】
『因果関係だよ。俺を召喚されたのとゾンビって、何か関係あるのかな?』
この世界にはゾンビなんかいなかった。少なくとも俺は知らなかった。
それが、俺の召喚とほとんど同時に世界中に現れたんだぞ。
怪しすぎるだろう。
『どうだろう、できるかな?』
【んー……】
精霊たちが考え込んでる。さすがに難しい注文なのかな?
【ちょっとまって。きいてみるよー】
『きいてみる?誰に?』
【ときのー】
『ときの?』
なんだそれ?
いや、ちょっとまて。
『ときの……時?時空関係の精霊ってことか?』
まさか。
でも、そしたら。
【そだよー】
おいおいマジか、そんな精霊いるのか。
エルフたちだってそんな話してなかったのに。
だけど。
【あたりまえだよー】
【せかいにあるものは、みんな、せーれーがいるんだよー】
『……』
世界にあるものには、みな精霊がいる?
もしかして?
俺はもしかして、精霊っていう存在を色々勘違いしてんじゃないか?
そういえば、そもそも精霊とはなんなんだろう?
どうして異世界だけでなく、地球にも精霊がいるんだろう?
いや、そればかりじゃない。
あっちの世界で精霊を見て、ひとめで仲良くなりたいと思ったんだよな、俺。
実際、それは今も正解だったと思うけど。
でもどうして、あんなひと目で気に入っちゃったんだろう?
俺って対人スキル低いし、かわいいもの好きでもなかったのに。
なんでだろうな?
『わかった。悪いけどまずその調査頼む。最優先でな』
【わかったー】
【ちょっとだけよん?】
【ちがうー】
【およ?】
精霊たちは引き受けてくれたようだ。
「せーれーにお願いしてたの?」
「おう、ゾンビどもの発生原因を調べてくれってな」
「あー、そっか。ひどいもんね」
「おう」
向こうの世界でもしばしばゾンビ騒動は起きた。あっちはよく自然発生してたしな。
でも、ここまでの大規模になる前に対処されるんだよ。
当たり前だけど、あっちは社会が「死者がゾンビ化するかもしれない」前提で警戒してるし、墓場なんかもソレ前提の作りになってる。
それに、そもそも死者がゾンビ化する可能性は、そんなに高くないはずだ。たとえ埋葬すらされず、打ち捨てられていたとしてもだ。
なのに地球ではどうだ?
新聞記事が正しいなら、これは局地的なものじゃない。
ほとんど全世界で起きたように見える。
こんな超絶規模のゾンビパニックが単なる自然現象のわけがない。
……何かあるはずだ。
「それで、わかりそう?」
「こっちの世界には、アンデッドをひとの手で生み出す仕掛けなんかないはずなんだ。だから逆に絞りやすいんだよ」
「え、そうなの?……でもそれって」
「そ。俺の召喚の時に何かが起きた可能性が高い」
「!!」
マオの目が点になった。
「落ち着け、まだ可能性だよ。
それに、一番可能性が高いとしたら、召喚の術式だと思うんだけど……日本じゃ調べようがないしな」
「それで精霊に頼んだの?」
「俺もマオも魔法のことはよくわかんないだろ?
ダメ元できいてみたら、精霊たちも知らないけど、尋ねる心当たりはあるって感じだったからな。
とりあえず頼んだ、時間はかかりそうだけど」
「そっか」
そんな話をしているうちに、月が沈んでさすがに暗くなってきた。
周囲を少し警戒しつつも、俺たちはとりあえず眠る事にした。
翌朝。
昨夜は道々にちょろっと食べる程度だったから、今朝はちゃんと食事をとった。といっても缶詰めオンリー状態だけどな。
風が冷たいので、食事はテントの中。狭い空間にふたりなんで充分あったかい。
さて。
いわしの味噌煮。
さばの水煮。
貝類や、味付けの希薄な料理前提のやつも開いてみた。
食性が変化していることを考えて塩焼きとかは避けたけど、それでも塩分強いなぁ。保存食だから仕方ないか。
「からいね」
「むう、こりゃ塩分をなんとかしないとまずいな」
「おいしいよ?」
「でも塩辛いだろ?」
「……ウン」
正直者め。
ちなみに一番好評だったのは。
「あ、これおいしい!」
「マジか」
まさかの……うわぁ。
しかもマオに勧められて半分イヤイヤ食べてみたら、なんと結構うまい。
冗談だろ?
これネタのつもりで混ぜといたんだぜ?
けど。
「ンフ、おいしいねえ」
「……だな、でもこれ一種類ばかり食べると飽きるぞ」
「そっか、じゃあ色々集めないとね!」
あ、しまった。
「で、これなぁに?なんて缶詰?」
「さ、さあ、なにかな」
「あれ、なんかリア描いてるね」
「そこは無視しとけ」
「えーと、モン○チ?」
「読むな」
「なんで?」
ちなみにリアとは異世界の猫だ。絶滅寸前らしいけど、エルフ族が大切に保護していた。
え?猫を描いてる缶詰……あーうん、そうなんだが。
人用の缶詰がダメで、キャットフードが美味しいなんて……。
「マオ、いっとくがこれはリアのエサだ。だからリアの絵が描いてあるんだぞ」
「すごい、リア用なんてあるんだ!」
だめだ逆効果だった。
むう、動物用と聞いて引くのを期待してたんだが。
「ユー?駅前にまだこの缶いっぱいあったよね?」
「お、おう、あったな」
被災者は猫缶食わないからな。むしろ飢えて猫そのものを食ったかもだけど。
「もっていこ!ねえ!」
「……わかった」
このぶんだと、東京までの主食が猫缶になりそうだな。
でも、うちの子の催促には勝てん。
トホホ。
一時間後。
昨日同様にゾンビを駅から引き離すと、あちこちの店から食料の再取得を開始。
開始したんだけど。
「あったよー」
「お、おう。マオ、声は小さくな」
「わかってるー」
マオがついに、猫の絵の描かれた食べ物が猫用で、自分の舌にもあうと学習してしまった。
そして探してみると、ペットフード関係は高確率で無事だった。
貴金属店を略奪するような連中は、ペットフードには見向きもしなかったわけだ。
なんとなく追いつめられた人間の浅ましさを感じる風景だが、マオにはむしろ「お宝発見!」だったようだ。
本当に楽しそうに、俺も見覚えのある各社の猫の餌をかき集めていった。
ああ……これ当然、俺も食うんだよな?
異世界から戻ってきて、ありついた日本の飯が、ねこめしならぬ本物の猫のエサですと、ハハハ。
けど、うれしそうなマオの顔みてたら拒否できる気がしないんだが?
くそ、そろそろマジで女神のやつブッ殺したい。
しばらくすると、余裕で二ヶ月くらいは暮らせそうなキャットフードが揃っちまった……ハハハ。
それをアイテムボックスにおさめた。
俺だけでなく、これはマオにも渡す。万が一はぐれても合流するまで飢えないように。
「よし、次だ」
「ウン」
といってもリュックひとつなく気軽なものだ。
次に服装、移動を前提としたものにした。
俺はスポーツ店でゲットしたトレーニングウェア上下にした。
実は今回、俺はスラックス系がまともにはけない事が判明したんだよ。
でかい尾が生えていること。
そして、人間より足、特に膝下の太さが段違いで、さらにいうと関節構造が猫のそれである事。
これは無理だ、スリムとか絶対履けない。
マオはユニ○ロにあった春のレディース上下を加工した。
ボトムスの下をきれいにぶった切って半ズボン状態を作り、さらにしっぽ穴をあけた。
穴を簡単に隠せないので、上にちょっと長めのパーカーを羽織らせるようにした。
「防御力ないよ?」
「かわりに女子力が高いぞ」
「?」
ウルトラストレッチと書かれたデニムジーンズを、さらに足のつけねでぶった切って腰だけにしてあるんだけど、正直ユニ○ロのこの手の服って極薄なんだよね。軽いけど。
選んだシャツもそうだけど、まるで体型を隠さない。ちょっと目のやりばにこまる。
困っていたら、何か視線を感じた。
何だと思ったら、マオが俺の顔を見ていた。
で、なぜか納得顔をした。
「な、なに?」
「ジョシリョク、わかった!」
にぱあっと笑顔……うぐ、かわいい。
でもなんか、今までの無垢な笑顔と違う気もする。
何をどう理解したんだろうか。聞いてみても笑うだけで答えてくれないんだが。
うーむ。
メスだってのは子猫時代から知っていたんだけど、メスって女の子の事だって今さら気づいたわ。
まぁ、マオなら別にいいんだが。




