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#27 不終の騎士と魔法幼女


 世紀の大試合から三ヶ月。コロシアムの入り口には拳を交わすキュリアとミツバの石像が飾られた、が。キュリアは一昨日コロシアムを辞めてしまった。引退試合にはキマイラを一撃で吹き飛ばすという化け物の所業を披露してみせた。

 私もこのアルートルでの数ヶ月間で多くの事を学んだ。

 魔法の原理や魔力の動かし方は勿論、ナイフの扱い方、杖の使い方、魔法も勿論、獣の種類や捌き方、食べられる所、そうでない所、植物の効能、薬草の種類、味……

 本当に色んな事を学んだ。いずれも日本でぐうたれてた女子大生生活をやっていたら味わえない事だらけだ。

 アルートルはいい街だ。風も涼しい、人当たりもいい。ギルドは綺麗で風呂もある。

 ダンジョンあればモンスターあり。お陰でお金には困らない。

 今日は食料も少なくなって来たし買い溜めておこうか。

 私がいるのは北門だから、商店街のある東門へは一度大通りへ出てからでないといけない。でも……もう遅いからなぁ。裏路地通って行っちゃおうかな。近道。


 えと……うーん。道に迷った。なんせ異世界なものだから目印になりそうなパイプとか室外機なんて無く、ただレンガの壁が連なってる。

 こっち、かな?

「おい、ちょっと」

「ん?」

 背後から声を掛けられた。振り向こうとしたその時、口に布のような物を噛まされた。

 直後、羽交締めにされ手足を縛られた。地面に突っ伏してしまう。辛うじてそんな私を見下ろす三人の男が見えた。

 一人が私を大きな麻袋に放り込み、抱え上げる。

「はは、中々の上物だなぁ」

「ああ。良い値が付きそうだな」

 は、はあっ!? まさか私を売る気か!? こいつら!?

「んーっ! んんーーっ!!!」

 声が出せない。猿轡をかまされるなんて初めてだぞ!?

 ゴス、と重い衝撃。

 腹を蹴り上げられた。幸い中身は無かったので吐き出しはしなかった。それでも痛い。痛い痛い痛い。

 手を縛られていちゃあヴェネチカもろくに握れない。

 足掻けど足掻けど意味はない。

「おい、あんまり傷を付けるなよ。値が下がる」

「そんときゃあ俺らでマワせばいいだろうがよ」

 ふ、ふざけるな! こちとら前世含めて未経験なんだよ! なのにどこぞの人攫いが初体験なんて絶対に! ゼッッッタイに! 嫌だ! ヤるならキュリアみたいなクールで強い優しく守ってくれるようなイケメンが良かったぁぁっ!!

 …………まさか、娼館どころか性奴隷……なんて無いよね……?

 せっかく異世界に来たのに! そんなの絶対嫌だ! もう誰でも良いから助けて!!

「あ? なんだテメェ」

「いやね、麻袋が動いていたからちょっと不審に思っただけ」

「犬だよ。犬。俺らの晩飯取るんじゃねぇぞ」

 これは!? 私の救世主(メシア)が現れたか!? やっぱりね! 異世界転生はこうでなきゃね! 早く私を助けて!!

「んーー!! んーーっ!」

「……犬の鳴き声には聞こえないけどなあ」

「このクソガキ……」

「なあ、例えばこの麻袋の中身が人間だったとしてよ、お前に何か関係があるのか?」

「ふむ……一理ある。邪魔して済まなかったな」

 ……え? …………え!? 嘘、嘘だよね!? 見捨てないよね!? 私、助けてくれるなら何でもするよ!? 雑用でも荷物持ちでも盾でも矛でも何でもやるよ!? 何ならエッチな事だってしてあげるからお願いだから助けて!!

「……さっさと行けってんだ。クソっ」

「でもな」

「ああ?」

「俺とは関係なくても騎士としちゃあ見逃せねぇな」

 鈍い音がした。何となく聞き覚えのある音だ。ああ、あれだ。骨が砕ける音だ。

「お、おい! 余りふざけた真似すんなよ!」

「おいおいおい。ナイフって……こっちは丸腰だぞ」

 えッ!? 頑張れ! あなたなら多分いける!

「はぁ!? テメェ一人殴って調子こいて降参で済むと思うなよ!! ってか、お前腰に剣ぶら下げてるじゃねぇか!」

「そんな事思ってないけどなぁ……あと、丸腰っつったのは、これを使わないでも良いっつう訳だよ。人身売買に手を染めるような馬鹿には判らんかね」

「な……ナメやがって……!」

「御託は良いから掛かって来いよ」

 そして、悪党の勇ましい声が聞こえたかと思ったら、直後、パキッと心地良い音。

「こ……こいつ、ナイフを折りやがった!?」

「安物使ってるなぁ……それ料理用だろ? 無駄に綺麗だ。精々脅しにしか使ってなかっただろうな」

 再び、あの鈍い音。

 もう一人に抱えられていた私は地面に落とされた。膝と額を打った。痛い。

「た、助けっ」

「その麻袋の中身はそう言う暇もあったのかねぇ」

 また、音がした。

 縄で縛られていたであろう麻袋の口が切られた。途轍もなく長くこの中にいた気がした。外に這い出る。私を助けてくれた人は持っていたサーベルの様な剣で器用に猿轡と手足を縛っていた布を切ってくれた。

「怪我は?」

「あ、無いです! 大丈夫です!」

 誰が助けてくれたのか、その顔を一目見ようと顔を上げると……

 まず目に入ったのは硬くて丈夫そうな探検帽子。一本の黒い羽根飾り。

 騎士のような襟が張った白く黄色いラインが何本か入ったコートに腰に下げた美しい白い鞘。手に持つのは細くしなやかなサーベル。首から下げた、黒みがかった黄緑の宝石があしらわれたブローチ。

 私はこの人を知っている。


「キュリア……ビルバード?」

「俺の事知ってるのか……まあ、あれだけ暴れればなぁ」

 目の前の男は剣を仕舞い、帽子を被りなおす。

「じゃあ、気を付けろよ」

 ダメだ、立ち去ってしまう。

 私は気付いたらキュリアのコートの裾を固く握り締めていた。

「……ん?」

 どうにか、どうにかしてこの人に着いて行きたい。激しくそう思った。

「私を……養ってください」


 それは自然と出た言葉だった。


「…………は?」



 キュリア・ビルバード。後に不終(ついえず)の騎士と呼ばれる人物。

 そして、私、転生者、アイリス・ペンタゴンの相棒となる人物。


 私の冒険が始まったのは、転生した時ではない。

 この瞬間に始まったんだ。



 どうも。城鐘と申します。最終話のみ読んでいただいた方も、全話読んでいただいた方もここまでありがとうございました。

 元々この作品はキュリアを主人公とした物語の、その中でのアイリス視点というものが書きたく始まった小説でした。ですので、大元の作品が長くなってしまうかな、と思い短めのこちらを先に上げてみた次第です。

 キュリアの物語が何時になるかは判りませんがまた、それ以外でも機会がありましたら是非。


 宜しければ、感想、批評、ブックマーク、評価など、お願いします。


 原作、著作、キャラクター、演出、その他諸々、城鐘狐月でした。

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