#22 ロリっ子が命の有り難みに感謝する話。
猪を殺した。鑑定してみる。
【ビリーボア】
大陸に広く分布する猪。肉は美味く、骨や皮も利用される。
ステータスは表示されなかった。鑑定スキルからしてみれば、最早これは物扱いなのだろう。多少の冷たさを感じながらも、鑑定に感謝する。
食えるなら、食ってあげなきゃな。
腹に刃を入れ、股に向かって割く。内臓は……狼やらが食べるだろうから、遠くにほかっておく。
丁寧に皮を外しながら、肉と骨を分けていく。
数時間後、辺りはすっかり暗くなって、薪の炎が弱々しく揺らいでいた。
まあ、素人にしちゃあ、上手いだろう。ワンピース最早真っ赤。見る人もいないだろうし、ここで着替えてしまう。
水筒の僅かな水を浴び、気になる箇所の血を落とす。でも、まだまだ生臭い。
皮、骨、牙、肉……使えそう、食べられそうな場所はアイテムボックスに仕舞っておいた。
猪の解体……日本じゃあまず体験できなかっただろうな。
ああ、疲れた。今日はもう寝よう。
ああ、またこの夢だ。
駅のホーム。白い少年が自動販売機の前に佇んでいる。
「ねえ、コーラかサイダーか、どっちがいいと思う?」
「リアリティイエロゥ一択でしょう」
レモンの風味と強炭酸。私はそれが大好きだった。
少年は自動販売機からリアリティイエロゥのボトルを二本取り出すと、一本をこちらに投げた。
「飲みなよ。好きなんだろう?」
キャップを捻る。すると炭酸の抜ける心地良い音がする。
ああ、なんて美味いんだろう。
「間も無く、三番線を、列車が通過します……」
いつも通りのアナウンスだ。
「今日は死なないの?」
冗談めかして私が言うと、少年はクスリと笑った。
「…………ん?」
テントの外から聞こえる聞き慣れない音で目をさます。
狭い中、なんとか防具を着け、ナイフを構えられる体勢で外を覗く。と。
其処には猪の内臓を貪る私より大きい三頭の狼の姿があった。
白銀の毛並みが特徴的。黒く鋭い眼光は獲物を見つめ、その口は赤く染まっていた。
ひえぇ。容赦ないなぁ。これが野生の世界……
ギロリと真ん中のリーダーらしき狼と目が合った。
えーと。狼と目が合った時の対処法ってどうだったっけ。
目を逸らしたらやられるよな。
ああ、そうだ。アイテムボックスから肉を取り出して……投げる。
俗に言う取って来ーいだ。
私が全力で投げた骨付き肉は狼の頭上数メートル上をくるくると舞い……
狼は一目散に肉を追い、その間に私は逃げる……予定だったのだが。
狼はものの見事に宙に飛び上がり、見事に肉をキャッチ。ハグハグと食べだした。
や、やばい。
残り二匹がゆっくりと寄って来る。
死んだ。私、死にました。
そう思った瞬間、狼達は私の前にペタリと座り、律儀に私の目をジッと見ていた。
……お肉が欲しいのかな?
試しに一つづつあげてみる。
すると、夢中で食べ始めた。
ふわあぁ! 犬好きの私としては超素晴らしい光景!
今度はボスっぽい狼が寄って来る。
口元が赤い。
攻撃……して来ない?
鑑定してみよう。
【 名 前 】
【 Lv. 】25
【 種 族 】アーサーウォルフ
【 職 業 】
【 体 力 】267/267
【 魔 力 】126/126
【 攻撃力 】529
【 防御力 】136
【 敏 捷 】367
【 状 態 】満腹
【 技 能 】《狩人Lv.2》
【 修得済魔法 】無し
【アーサーウォルフ】
獰猛な狼だが、恩義に厚い一面もある。少数で群れるのが特徴。
へぇ。つまり、餌付けしたから懐いてるのか。
ボスの頭を撫でてみる。
少し俯いて目を細め、尻尾をブンブン振っている。
「やーん! かぁーわぁーいーいー!」
もっふもふ。もっふもふ。
野生の狼とは思えない程毛並みが良い。
しばらくもふもふしていると、ボス狼がウォン! と吠える。
そして私に背を向け、またペタリと腰を落ち着けた。
『乗れ』
そう言っているように感じた。
乗ってみる。うおぉ、素晴らしい安定感。
スクッと立ち上がった狼はまた私に語り掛ける。
『何処へ行くのだ?』
「えと、西です」
『西とはどちらだ?』
「あ、えっと、あっち!」
ピシッと西を指差すと、狼達はその方向に走り始めた。
速い速い! 私が歩くよりずっと速い!
草をかき分け、木々を越え、狼は私が振り落とされない程度のスピードで走ってくれた。
すごい。これなら予定よりずっと早くアルートルに着きそうだ。




