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ひょんひょろ侍〖戦国偏〗強襲(2)

お待たせ致しましたm(__)m


ちゃんと土曜日にあげれましたm(__)m


がんばったなー。うち(自画自糞)

…やおら手渡されたふみを読んだ添谷そいやの左衛門尉さえもんのじょうは大変な驚きようであったと、【延徳えんとく明応めいおう諸国しょこくばなし】(作者不詳)をはじめとした幾つかの書物に記載されている。


「領内に茅野の軍勢が突如現れ、仙峰山城を奪われたと!?」


読み終えた左衛門尉は、座を蹴って茫然と立ち尽くしてしまった。


「それだけではありませぬ。あろうことか昨日より妙な〝噂〟が御城下で囁かれ始めて御座います。その所為か、軍勢の統御に乱れが生じておるとのこと」

「誠か?!其方そのほう、噂の内容を存じておるか?!」

「多少なりと聞き及んでおります」

「申せ!!」

「ははっ!!」


 すう~~~っと、大きく息を吸い込んだ使者は、一気にまくし立てるようにしゃべりだした。


『添谷左衛門尉は、この国のあるじなりたさに彼の国の守護職しゅごしきである山名と手を組んだ!』


『事実、左衛門尉と密約を結んだ山名は攻めてきた。それを防いだ飯井槻さまを気に入らぬと召しとり、国主様も捕まえ、季の松原の御城にわずかな配下ともども狭い屋敷に押し込め、飯井槻さまに自害を迫っているとは、香弥乃の神をも畏れぬ所業なり!!』


『しかしながら、そこは流石の飯井槻さま。左様な汚い添谷のやりくちには屈せず、隙をみて国中にを出し、御自身の御命なぞ気にもとめず、此の国のため茅野と共に添谷を討つべし!との檄文を発せられたそうだ!!』


『添谷を討つべし!添谷を討つべし!!』


 左様な【噂】がまことしやかに、季の松原城下に広がりはじめているというのだ。


 使者の大声に圧倒された左衛門尉と近臣は、立ち尽くしながらも一歩か二歩、声の圧力に屈するかのように後ずさった。


 彼ら二人の顔色は一様いちように青ざめている。


「や、山名を、山名を!私がそそのかし此の国を攻めさせただと?左様な仕様しざま、やった記憶はないぞ!!」


 噂のでたらめさに怒りが収まらず、だからと云って何をこれから為すべきが得策なのかも思いつけないでいる左衛門尉は、座していた座布団をダンダンダン!!と踏みつけ、仕舞には手に引っ掴んで華麗な唐様の絵画で装飾されている板戸に投げつけた。


「左衛門尉さま、悲報はこれだけでは御座いません!表に御出になって、〝とある騒ぎ〟をご覧いただきとう御座います!」


 さらに使者にあおられるよう、かされるまま慌てて新御殿の縁側に出、そして左衛門尉はここでどこかしらから聞こえる兵どものどよめきを聞いた。


「そなた!御城のどこの郭の将兵が発しておる音声おんじょうか判るか?!」


 左衛門尉はこのとき、未だ自分が季の松原に込めてある将兵が訓練かナニカで上げている声音こわねだと思っていた。


 だが、次の使者からの言葉で信じたくない現実に直面することとなった。


おそれながら、この大音声だいおんじょうは当家の軍勢のものでは御座いません」


 ついに取り乱した左衛門尉は、草履ぞうりりの手を借りずに自ら草履をすばやくくや、取る物も取りえず外に向かって走りだした。


 冷や汗を額に大いに浮かべて左衛門尉は走った。


 行先は、季の松原城内では外郭防御区画の一角に位置しており防備能力より客殿としての機能を優先させた施設。そしてなにより彼の祖母である寿柱尼と、此の国のあるじであり(名目上ではあったが…)国主家の現当主である松五郎君が住まう【蒼泉殿そうせんでん】である。


 彼はこの時点では、どこかしらの敵勢が季の松原城に打ちかかって来たと誤解している。


 そう誤解したがゆえに、彼にとって一番重要で政治的にも大切な【国主様】の御身安寧おんみあんねいを図ることこそ、なによりも第一と考えたのだ。


 彼は失念していた。


 この季の松原城をはじめとした国主領内には、一部、茅野家が固守する城塞や屋敷があるものの、添谷家や添谷家にくみする有象無象の緒勢が道々を封鎖しており、とてもではないが誰にも気付かれずに軍勢を御城に取り付かせられる余地なぞ無いことを……。


 だが、自身の居城が奪われたためか、それとも得も言われぬ内容の噂を聞かされた所為か、混乱状態に落ちいった左衛門尉が蒼泉殿へと下っていく道すがら、城外がどうなっているのかが気にかかり、そばに設置されていた広さ三間さんけん(およそ5.454m)の平らに削られた土地に立つ物見矢倉にのぼり、その場である一点を見詰めて茫然ぼうぜんとしている雑兵ぞうひょうを押し退けて、此の者が見ていた方角をのぞみ、息を呑んだ。


「なんぞ、あれは!」


 國分川の東の対岸にのぞむ新町屋城の形相ぎょうそうが、昨日来さくじつらいの、まるで田に打ち捨てられた田螺たにしの殻のように意気消沈いきしょうしんした状態から打って変わり、茅野の【白地に丸い赤餅】の家紋をあしらった軍旗とのぼりをこれでもかと城のあらゆる場所に立て、おそらく鑓や打ち物の類を太鼓の音色にあわせて気勢を上げている、遠目で見ても二千人はくだらない数の茅野家の軍勢であった。


「これはどういうことだ!たれぞ訳を知らぬか?知っておるならばただちに申してみよ!」


 流石に、彼に付き従って来た近臣を含め、この問いに応えられる者なぞこの場に居るわけがなかった。


「それにしてもどういう次第だ…。何故なにゆえアレらが、茅野の軍勢がこの地におるのだ…」


 茅野家のまとまった軍勢は〝たったひとつ〟っきりであると云う事実は、当然の情報として左衛門尉は知っている。


 だが現実として自身の網膜を通して見た恐るべき風景は、新町屋城におそらく二千を上回るであろう茅野家の軍勢が気勢を上げている。などという、凄まじい光景であった。


 ではいったい、添谷家の領内で荒れ狂い、しかも彼の居城である仙峰城まで陥れたという茅野勢はどこから湧き出してきたのだ?


 國分川対岸にそびえ立つ此の国一番だろうと噂に聞く要害【新町屋城】には、茅野家の軍勢がひしめいている。


 もしかすれば茅野の軍勢と云うは、私が知っている以上の大軍勢を抱えているのではないか?


 この動かしがたく、さりながら事前に調べてあった茅野家の軍勢実数とは相反しながら、それでもなお自身を納得させるに足るに現実に、彼の驚愕度は増しに増した。


「か、茅野め!大膳め!!」


 左衛門尉は、矢倉の天辺で横に渡された木材に両手を付き激しく飯井槻に対して悪態をついた。


 しかし、悪夢はそんなことでは去って呉れない。


「左衛門尉様!左衛門尉様は何処いずこにおわす!」


「今度はなんだ!?」


 矢倉の下の方から聞こえた声音に反応した左衛門尉は、矢倉の組まれた丸太の隙間から身を乗り出して叫んだ。


「おお!ここに居られましたか!殿、東の三家の使いが、それも当主らが直々に面会したいと参られましたぞ!」

「なに?!わかったぐいく!!」


 いくら遣いを発しても添谷家の味方をするとはかたくなに申さなかった東の三家が、今になって、それも当主自らが何用で参ったのかを落ち着いて考え想像し、なにか不測の事態に備えようと手をあらかじめ用意しておく。


などとする余裕は、もう彼にはなかった。


 

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