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ひょんひょろ侍〖戦国偏〗ひょんひょろのボンヤリ過去話(2)

続きです。


お楽しみくださいませ♪

ひょんひょろ…。奇知左衛門的には〖じょろ様〗は、いつもならばしそうにもない、懐かしい思い出に浸る様な神妙な面持ちを、この時初めてしたように感じた。


「先代様がどこか遠くの田舎寺で坊さんをしていたことは、まさか彼の善光寺に御関係を御持ちの御仁とは知りませんでした。拙者のような武辺一辺倒の役立たずでも聞き及んでおります。…して、何用があってじょろ様は御二方に御呼ばれたので?」

≪今後執るべき国の方策について、でしょうか?≫


 何故を以て疑問形で返しをなさるのか?


 奇知左衛門は自身が発した可笑しな言葉使いと共に、なんでかわからぬが、じょろ様の言い回しに笑いが込み上げそうになった。



「あ、うん。コホン。これは失礼を。…ですがじょろ様。左様に仰られても拙者には想像すらつきかねますが如何に」

≪香弥乃大宮の神代(かみしろ)であられまする御社さまを推し戴いておられる名家とはもうしましても、所謂、茅野家が如き一介の豪族にはあまりに荷が重く、無理難題な話を聞かされました≫

「無理難題。とは、どのような?」


 それはっ?っと、奇知左衛門は思わずズイッと身を乗り出し大いに聞く姿勢を見せた。


≪左様、斯様な御話でございました≫


 じょろ様は、また過去と云う名の虚空へと、ボヤッとした眼差しを向けられた様に感じ取れた。





 ひょんひょろは茅野家当主である兼寿に促されるまま、下座に敷かれている丸い茣蓙に腰を下ろした。


 刻限は丁度、夜中の【子(午前)の(零)刻(時)】。


 奥書院の周辺には微かであるが、警護の者共の身を潜める気配がひょんひょろには何故だかわかる。


≪何かござりましたか≫


 いつもの様に抑揚のない言葉使いで、ひょんひょろは自身の掛け替えのない主に向かい問い掛ける。


「ふししし♪ちょっと面白いことを思い付いたのでの。お主に是非善し悪しの吟味を頼みたくて呼び出した次第じゃ♪」

≪左様ですか≫


 生き生きとした御社様・飯井槻さまを余所に、ひょんひょろは茫洋とした表情をピクリともさせず、真っ直ぐ飯井槻さまを見詰め、やがてこう口を開いた。


≪此の国を乗っ取るに、良いお話でもございましたか≫


 この言葉に兼寿は一瞬キョトンとし、飯井槻さまはニンマリなされた。


「左様じゃ♪流石はわらわと旦那が拾い上げた男のことやある♪」

≪畏れ入り奉りまする≫


 ひょんひょろは、自分の腰の高さよりも一等低い上座の御二方に対してついっと、それでいて気持ち悪いくらいに腰を曲げ頭を下げた。


「…それでひょんひょろよ。話と云うは飯井槻が今朝方ひょいと思い付いた(はかりごと)の件なのだが、その話を一つ吟味して貰いとうてな。夜分遅く相済まぬが呼びに行かせた次第なのだ」

「わらわとしてはの、実によくできた策だと思うておるのじゃがの。この心配性めが斯様に申すでの、致し方なくこれに賛同したというとこなのじゃ」

≪左様で≫


 ひょんひょろは何かを察して視線を板間に向け、隙間に詰まっている一片の埃に目を移す。


 飯井槻よ。その様な言い方はあるまい?


 ふししし♪左様かの?主様は部類の女好きじゃったが、わらわと違おうて変に根が真面目じゃからの。辻褄の合う話がお好みなのじゃろうが♪


 お、女好きは生来のもの。お前と夫婦(めおと)になると誓ってからは、他の女性(にょしょう)に心を奪われてはおらぬではないか。


 仏法に組み敷かれて居って生来のものとは片腹痛いのじゃ♪左様な心持でよく寺を存続させておったの♪ふししし♪♪


 飯井槻ちゃん。もうね、勘弁してよ本当にもう。


 おやおや?茅野家の御当主ともあろう御方があっさり降伏かの?不甲斐なき限りなのじゃ♪


 …全く。お前と云う奴は…。


 可愛かろうが♪ふししし♪





「あのじょろ様。一向に話が前に進みそうにないと感じるのは、拙者だけでしょうかね?」

≪当時の御社様と兼寿様の仲の良さを御理解して頂く為、敢えて申しました≫


 この芯の心の内が読めない御方にしては珍しく、昔話が楽しくなったのだろう。


 いつになく饒舌になっておられ、その様が奇知左衛門には好ましく思えていた。


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

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