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ひょんひょろ侍〖戦国偏〗ひょんひょろのボンヤリ交渉術(5)

続きです。


でわ、どうぞ♪


 行程三日。


 某は山名氏に反旗を翻した〖西條家〗が居城、【西條城】という室町初期に田園拡がる平野部に築造された館をもとに、大幅に増築した城と、それに寄り添うように建てられた新館を二重に取り囲む堀に沿い、南北に走る道をじょろ様と共に山伏の装束で歩いている。


 何故に山伏の格好をしているかと云えば、山名大炊家の館を出て街道筋に出、ついで旅程の短縮を図るため街道筋を離れ山道へと入ったのだが、途中で修験道を極めている山伏の一団と出会い、彼らから着替えであった薄汚れた装束を買い、こうしてこの国のあちらこちらで合戦を繰り広げる山名家や西條家の軍勢から身分を隠すのに、都合よく使わせてもらっている次第であったのだが、それもここまでくれば必要では無くなった。


「じょろ様、やっと着きましたな」

〘左様です〙


 やおら草むらに入り直垂に着替え終えた奇知左衛門は、既に着替え終えたひょんひょろと共に〖西條城〗の端をぐるり歩いている。


 実はやって来た道が城の反対側に通じていたので仕方なく半周する破目になったためで、歩きに歩いてようやく二人は城と館にの表に通じる門前に至り、我らの前にサッと立ちはだかった門番に用件を伝えることが出来たのだった。




「お初に御目にかかる。拙者、西條肥後守様が家臣。佐々藏弦太夫と申す者。以後見知り置かれたい」


 平装の気楽な姿で現れ佐々藏弦太夫なる男は、唐国の昔話に出て来る張飛なる偉丈夫もかくやと云った偉丈夫で、顔面髭ぼうぼう。

衣服を着ていても、常人を上回る筋肉が全身から盛り上がっているのが解るほどの武人だった。


〘海原様は御不在で〙

「相済まぬな。あやつは戦に出ておってな。それで此度は何用で参られたのかな?」


 髭がモサモサ動き、弦太夫が我らの訪問の仔細を問うてくる。


(いささ)か、大変そうにございますな〙

「ああ、それな。見たか」

〘こちらに参るまでに〙

「左様か、一介の武人としては面目次第もない話でな」


 じょろ様は自分が来着した理由は告げず、でも弦太夫はそういうもんだろうなと云った風情で自身の肩を叩き、御家の将来を(おもんばか)る表情をして、それでもまだまだ巻き返しが出来るかもしれないとの、一縷の望みをつないだ表情を見せ、それのみを以て、未だに旺盛な戦意を失っていない様子であった。


 しかしながら戦況は散々といった様相を〖西條家〗に容赦なく提示している。


 なにせこの〖西條家〗の居城は、今や孤立しようとしていたのだから。


「どこもかしこも皆劣勢でな、最初の我らの勢いはどこに隠れたのか、付いてきた土豪共も半分は離反してな。これというのも山名大炊が出張って来てからというもの。いやはや、参っておる」


 苦しい内情を明かしてくれた弦太夫は、それでも笑顔を絶やさず我らを城内へと案内してくれた。


 それにしても、何故じょろ様は〖西條家〗と(よしみ)を通じておるのだろうか?


 経緯はよく判らない。が、そこには陰謀めいた匂いが感じられるのは確かである。


 奇知左衛門は面白くなってきた予感が沸々と湧き上がって来て、どうにも落ち着かなくなってしまった。


〘如何いたしましたか〙

「いえ、何でもありゃしません」


 じょろ様にこれだけ云って奇知左衛門はごまかした。






「久しぶりじゃ、ひゅん殿」


 じょろ様を〖ひゅん〗と呼んだこの男は、西條一族を束ねる当主にして生粋の軍人(いくさびと)である〖西條(さいじょうの)肥後(ひごの)(かみ)森定(もりさだ)〗その人である。


 それにしてもあれだな、今更思うに〖じょろ様〗の呼び名は某も含めてだが、色々あり過ぎて敵わぬな。


 確か〖飯井槻さま〗は〖ひょんひょろ〗と御呼びになり、〖神鹿兵庫介様〗は〖ひょろひょん〗と呼び、某は〖じょろ様〗と御呼びいたして〖西條肥後守〗様は〖ひゅん〗などと呼称する。


 しかしてこの御仁の本来の名は、何と云うのであろうか?


 奇知左衛門は聞いたような聞かなかったような、それでいて知ってるような不思議な顔をしてしばらく考え込んだが、やはり判らなくなったらしく首を傾げるばかりである。


「それで此度の訪問はアレかな、飯井槻殿が京へ行かれた件に関する御報告かな?それとも先の戦で山名大炊を大破した件に関する話であるかな」

〘此度は後者にござります〙

「なるほど。わかった」


 連日の戦で疲れ切っている肥後守は、ついさっき鎧を脱いだばかりであろう、汗に匂いが取れぬ身体を本郭の小屋の質素な板間の上座に腰を据え、ギョロリとした目を我らに向ける。


 この掘っ建て小屋には彼のほか、二人の平装姿の重臣が座するのみなのだが、狭苦しい所為もあってか我ら二人が是に加わると息苦しいったらない空間になってしまっていた。


 それにしても、こうも汗臭くてかなわん。


 奇知左衛門はじょろ様と肥後守に解らぬよう、それとなく懐紙をちぎり丸め、咳をする振りをして鼻に詰めた。


「当方の早報せによれば、軍奉行に成られたと聞く神鹿兵庫介殿が奇策を用い、山名勢一万を粉砕。うち半数を討ち取ったと聞いたが相違ないか?」

〘人数は兎も角、左様にございます〙

「ふむ。それで、其の方はなにを求めて参ったのか」

「山名との和議の持ちかけをお願いしたく参りました」


 はっ?絶賛合戦中の相手と突然和議してくれ、ですと?


「ん、なるほど。面白いことを思い付いたな。ひゅん殿」

〘有り難きしあわせ〙

「それで何方(どちら)と和議を図れと申されるのかな?守護職の山名家か、それとも山名大炊家か」

〘御察しのままに〙

「なるほど、本家か」

〘左様です〙

「…格好だけで良いのだろう?」

〘御気持ちのままに〙

「承知した。すぐに手筈を調えよう。しばらくココにいなさるのかな?」

〘まだ出向くところがございまして〙

「なるほど。察するに其方が本命であるか」

〘お早いお気付きで〙

「あい判った」


 とんとん拍子でじょろ様と肥後守との話が纏まるのに呆気を取られて、奇知左衛門は終始無語で口をあんぐりと開けたままであった。



お読みいただき、ありがとうございました。


でわ、次回をお待ちくださいませ♪


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