家の事情(1)
「高校を卒業して就職も考えていたんだけど、父が自分の仕事を手伝って欲しいと言ったの、とにかく それだけは避けたくて、短大に行ったって訳なの!卒業したら、父は、やっと自分の元にと思っているの」
「そうなんだぁ〜、ところで父上は、何の会社をされているの?」
「会社自体は、有限会社で看板を挙げているけど、中身はいろんなことをしてるの」
「ふぅ〜ん、興味ありだな。あの豪快そうな父上の仕事って」
「面白いところではね、父は、昔 バナナを売っていたのよ。私も小さい時には父に連れられて神戸港のバナナ倉庫に行っていたわ」
「バナナ倉庫って?」
「小さかったから、はっきり憶えているのは、コンテナから大きな大きな籠に移される真っ青なバナナの山と、その香りだけ」
「それで、今もバナナを売っている訳じゃないよね」
「ぷっ!?そんな訳ないですよ。まぁ、そんな関係とか海外との取引もあって乾燥したドライフルーツを取り扱っているようよ」
「なるほど〜」
「それと、父の会社には従業員が二十人ほどいて、この人たちは石鹸の材料になる油脂を作っているの」
「石鹸の〜」
「そうです。今では栗原小巻さんがコマーシャルしているあの石鹸になっているらしいですよ」
「それって、凄い大手じゃないのか!!」
「はい、そうみたいです。10年程前には、まだ そんなに従業員を雇えなくて母と二人で やっていたの。タンクローリーみたいな機能的なのトラックもなく油脂をドラム缶に詰めて神戸まで運んでいたのよ」
「神戸に工場があったの?」
「神戸の商事会社を介して神戸港から和歌山工場に運ばれていたようです」
「なるほど〜」
「それと、父は、いろんなことに興味を示しいろんな飲食店をしては潰しては その繰り返しなの。とにかく、母の元に養子できてから一代で築いたものだから、やりたい放題って感じですよ」
「益々、興味津々って感じだな!しかし、ゆきちゃんを溺愛していることが引っ掛かるなぁ〜」
「まあ、楽しい人ですよ。裏表のない。見たままの人で中も外も同じで私は、尊敬しています。父には、言ったことは、ありませんが」
「それは駄目だよ。有り難みを表さないと〜と言う僕も、親には冷たくなってしまうね。この年になっても素直になれないよ」
伊藤さんは、謙遜しているようにも見えたが‥何か心配事でもありそうで少し陰影を見せた。




