第30話 悩みの種にも水をやり
ここはズウェルテ。王都からは少し離れたなんてことない平凡な町。そんな町に一ヶ月ほど前、魔力を持たない剣士と女神を名乗る少女が訪れた。そして魔法師ギルドの一員に。例外的な処理でギルドに入ったことから最初こそ他の魔法師からの反発があったが圧倒的な実力でねじ伏せ今では──
「エインもう一回手合わせしてくれ! さっきの動き全然見えんかったわ!」
「順番守れって! 次は俺の番だったろ!」
「めんどくさいから全員まとめてかかってこい」
「ホロスちゃんしつも~ん! なんで魔法って複数覚えることができないの~?」
「いい質問ね。正確には複数の魔法は覚えられないのではなくて覚えるのが難しいなんだけど、理由としては容量が関係していて──」
随分と馴染んでいた。
エインさんは外の稽古場で模擬戦を申し込んできた魔法師たちをバッタバッタとなぎ倒しホロスさんはギルド内で魔法の授業を開いている。
そしてオレはひょんなことからそんな二人とパーティを組んでいる。正直あの二人と釣り合ってはいない。そんなオレをあの二人はちゃんと仲間扱いしてくれるし、オレもあの二人の力になりたいと思っている。だけどどうしても思ってしまう。あの二人の邪魔をしているのではないかと。
「はぁ……」
オレはため息を吐き、ギルドで売っていたエールをテーブルの上に少し雑に置いた。
そういえばなんでパーティに入れてくれたんだっけ? ああそうだ、オレがホロスさんの正体を知ってしまってそのせいで魔族に襲われるかもしれないとかなんとかだった。でもまったく魔族に襲われる気配はないし、そもそもオレも魔法師なんだから魔族に襲われてもそれは自己責任というか誰かに文句を言うのはお門違いというか。
オレはあの二人と仲間でいられて嬉しい。兄の仇を取れたのは間違いなくあの二人のおかげだし、あの二人のおかげで魔法師としてグングン成長できているのを自覚している。
オレにとってはメリットだらけ、でもあの二人にとっては…?
「どうしたんだい悩める若人よ。僕が相談に乗ってあげようか?」
「フェルドさんも十分若いじゃないッスか」
「まぁね~」
話しかけてきたのは白髪の剣士フェルドさん。若くして一等魔法師となった本物の天才だ。
「相談…相談ッスか…」
ここはギルド内、多くの人がいる。なんなら少し離れたところでホロスさんが授業を開いている。こんなところで相談…。そう思ったが……。
「この前俺が倒したゴブリン、こーんなデカかったぞ! こーんなっ!」
「ギャハハハハ!! お前いくらなんでも盛りすぎだろ! それじゃオークだ!」
いつも通りギルド内は賑わっている。何を話しても誰も聞きはしないだろう。むしろ相談場所としてはちょうどよいのかもしれない。
「実は──」
オレは話した。もちろん二人の正体に関わる部分は誤魔化しつつ。
「──ふむふむなるほど。要するに自分はエイン君とホロスちゃんと同じパーティにいる資格がないんじゃないかっていう話ね」
「そんな感じッス」
かなり要された気がするが実際自分の悩みの核心はそこにある気はする。
「まぁわかるよ。僕もびっくりしたもん。ルイグ周辺の調査で一週間くらいギルド留守にして帰ってきたらあの二人ギルド内での注目度すごいことになってたから。でも二人の実力を考えれば妥当なのかな」
「実力もですけどエインさんもホロスさんも面倒見すごくいいんス。オレはそんな二人に甘えてばっかで…」
酔いが回ってきたからだろうか、口にするつもりのなかった言葉も出てしまう。
「対等じゃないんス……。オレばっか与えられてばかりで……」
「対等、対等ねぇ…。僕思うんだけど本当に対等である必要ってあるのかな? 僕もパーティは組んでるんだけどさ…」
言葉の途中でフェルドさんは窓から見えるエインさんと授業中のホロスさんの方を見た。いや、見たのはあの二人じゃなくて稽古場でエインさんに伸されているガデロンさんとホロスさんの授業に最前列で参加しているリサさんか。
「まぁぶっちゃけパーティ内での実力は僕が抜きんでてるわけ。だから少なくとも実力という面で見たら対等な関係とは言えないね。でも僕はあの二人とパーティを解消するつもりはないよ。なんでだと思う?」
「それはパーティ内での役割があるからじゃないッスかね? ガデロンさんは前衛、リサさんが後衛、その中継役を担うフェルドさん、みたいな感じで」
「そう! 役割! リヒト君にはないの?」
役割なんて……。どのクエストでもオレがいなくても成立するし……。
「わかんないならもう直接本人たちから聞いてみたら? というわけで、お~い! エインく~ん! ホロスちゃ~ん!」
「なんだ」
「なによ」
返事はやっ! ていうか二人ともさっきまで……いつの間にこんな近くに…。
「それじゃ僕はこのへんで。またね~」
そう言い残しフェルドさんはギルドの外へと去っていった。
「それで役割がどうのとかだったか? 随分小難しいこと考えてたな」
え? まだそれエインさんに話した記憶ないんですけど。どこから話聞かれてたんだ?
「そうッス。オレ、二人の役に立つこと全然出来てないんで……」
面と向かって言うことではないのかもしれない。でもここまで来て誤魔化すのも違う気がする。
「確かに現状の戦闘面だとそうね。でも……、ほら、エイン言ってやんなさい!」
「え? 俺が言うのか? 今完全にホロスが言う流れだっただろ」
「いいじゃない別に! 男同士の言葉のほうが響くとかあるでしょ! 多分!」
「それ今適当に考えた言い訳だろ」
何を言うつもりかは知らないがこの二人はいつも通り仲がいい。オレはその輪に入れなくてもその光景が見られるだけで十分満足だ。
二人の小競り合いが終わったようでエインさんがこちらを見て咳払いをした。どうやらエインさんが話すことになったみたいだ。こういうとき先に折れるのはエインさんなのもいつも通りだ。
「あー、なんだ? お前は俺たちの役に立ってないとか言ってたがそんなことないぞ」
「でも……」
「俺たちの荒唐無稽な話を信じてくれた。手伝ってくれるとも言った。このギルドを紹介してくれたし町の案内もしてくれた。世俗に疎かった俺たちを導いたのは紛れもなくリヒト、お前だ。お前が俺たちの世界を広げたんだ」
俺が二人の世界を……
「どうだ? まだ欲しい言葉はあるか?」
「な…ないッス…! これ以上はもう受け止めきれないッス!!」
そんなことを思ってくれてたなんて。嬉しい? 光栄? ダメだ、この気持ちを適切に表す言葉が思いつかない。
「ああそうだ。一つ言い忘れてたことが。俺は戦闘でも期待してるぞ。お前に背中を預けられる日も近いだろうな」
「う゛っっっ!!!!」
だからこれ以上は受け止めきれないって言ったのに!!
「あなた本当に人たらしよね」
「なんだよホロスが言えって言ったんだろ」
◇ ◇ ◇ ◇
「まったく手のかかる後輩たちだぜ」
フェルドは壁に背を預け、耳をすませてギルド内の様子を伺っていた。
「エイン君とホロスちゃんからリヒト君が悩んでいることがありそうだから相談に乗ってくれないかって頼まれた時はびっくりしたけど、かわいい後輩のためならね」
「な~にかっこつけてるのよ。どうせ貸し一つねとか思ってるんでしょ」
どこからともなくリサが失礼なことを言いながら現れた。まあ思ってないこともないけど。
「というかそろそろクエスト行く時間よ」
「そうだね。お~いガデロ~ン! クエスト行くよ~!」
外の稽古場で寝ているガデロンに声をかけるが、
「あれ?」
返事がない。これは……
「完全に気絶してる」
「もうエイン君に手加減してもらえなくなったのね…」
第30話 悩みの種にも水をやり




