第016話「LA育ちの代打の拳」
アマチュア予選を全勝で勝ち上がった翌日。
彼、朱華音、大輔の3人は、小深山ジムへ報告に向かった。
ジムに到着すると、小深山が迎えに出る。
「やったな、お前ら。これで堂々と決勝トーナメントに進めるな。」
「はい、でも……最後の試合はギリギリでした。」彼が振り返るように答える。
「兄貴、俺……まだ体がバキバキっすけど……なんか気持ち良いです……」
「よし、それじゃ軽く祝杯でもあげるか。いつもの場所でな。」
4人は、大将の店へ向かうことにした。
だが、その道中。
「兄貴……ちょっと、頭が……」
ふらりと揺れたかと思うと、大輔がその場に崩れ落ちた。
「大輔!!!!!!!」
彼が駆け寄り、朱華音がすぐに救急車を手配。
病院に運ばれ、しばらくして医師が神妙な顔で現れた。
「前回の試合で肋骨が複数折れています。内出血もあります。入院が必要です。」
「入院……?それって……」
「とてもアリーナの決勝トーナメントに出られる状態ではありません。少なくとも数週間は安静が必要です。」
彼らは言葉を失った。
「兄貴、すみません……。俺……」
「大輔……無理するな。お前の分まで俺が戦う。」
彼は拳を強く握りしめ、静かに誓った。
その夜、彼と朱華音、小深山はジムに戻った。
小深山がふと口を開いた。
「実はな……1人だけ、代わりになるかもしれん奴がいる。」
「え……?」
「以前、ここで鍛えていた門下生だ。だが、喧嘩が原因でジムを飛び出した。今は仕事だけをしている。」
「その人……強いんですか?」朱華音が問い返す。
「おそらく、俺の門下生の中でも最強だ。だが、性格に難がある。問題はそこだ。」
「その人を、明日……会いに行こう。」
翌日、彼ら3人は小深山の案内で渋谷の郊外にある小さなバイクショップを訪れた。
店の前には数台のゴツいカスタムハーレー。
入り口の上には「Fox & Flames Custom Works」の看板が掲げられていた。
中からはゴリゴリのエンジン音と、メタルのBGMが鳴り響いている。
店内に入ると、ひときわ大柄な金髪ロン毛の男がハーレーのエンジンをいじっていた。
「よ、よう……」
小深山が声をかけると、男は振り向き、軽く目を見開いた。
「オ、オヤジ……!?いったい何の用だい?半年ぶりに現れて、また気に食わないって俺を殴りに来たのか?」
その男こそ、小深山ジムの元門下生——
イーサン・ガレー・フォックス(Ethan Gale Fox)
金髪のロン毛に無精髭。
LAのバイクギャングのような風貌。だが、目は鋭く、鍛え上げられた体格は格闘家そのものだった。
「イーサン……元気そうだな。今日は相談があって来た。」
イーサンは鼻で笑う。「相談だぁ?あの時は俺が試合に出たいって言ったのを全力で止めたくせによ……」
「誤解がある。」小深山が口を開く。
「お前の技術は間違いなく一流だ。ただ、あの時一緒に出場するメンバーのレベルが足りなかった。お前が1人で戦うことになって、命が危なかったかもしれない。だから、止めたんだ。」
イーサンは黙り込む。
「今回は違う。今のチームは、互いに支え合える実力がある。だからこそ、頼みたい。」
「……で?また俺にチャンスくれるってか?」
「そうだ。イーサン、この二人と組んで、決勝トーナメントに出てくれないか?」
イーサンは彼らを一瞥し、フンと鼻を鳴らす。
「たしか、あんたらのチームは3人組だろ?俺の出番なんか無いんじゃねぇの?」
「その1人が、昨日の試合で重傷を負って出場できなくなった。お前に代わりを頼みたい。」
「……随分と都合のいい話だな。
じゃあこうしようか。
俺に勝てたら、出てやるよ。」
彼は少し笑いながら言った。
「いいですよ。やりましょう、スパーリング。」
その日の午後、小深山ジム。
リングの中央に立つのは、イーサンと彼。
ジム内の空気が張り詰めている。
朱華音はリングサイドから見守り、
小深山は腕を組んで黙っていた。
「全力でこいよ。じゃなきゃ、試す意味ねぇからな。」
「望むところだ。」
ゴングが鳴る——
運命のスパーリングが、いま始まった。
イーサンはスタートから容赦なく攻め込んできた。
木刀こそ持っていないが、拳の一発一発が重い。彼のガードを破り、ボディにフックを打ち込む。
(速い……!パワーもある……!)
彼は必死に防ぎながら、反撃のチャンスを探すが、イーサンの動きはまるで野獣。
一撃でリングのロープまで吹き飛ばされる。
「おいおい、もう終わりかよ!」
イーサンが笑いながら迫ってくる。
その瞬間、彼の瞳に雷光のような閃きが走った。
(ここで負けたら……大輔の分まで戦うって誓ったのに……)
彼は力強く地面を踏みしめ、構えを変えた。
「スキル——発動」
彼の拳が青白く光り始める。
ジム全体にビリビリとした空気が走る。
「稲妻の拳!」
彼の全身が光の軌跡を描きながら前進し、イーサンの腹部に渾身の一撃が炸裂!
ズドォン!!
まるで雷が落ちたような衝撃。
イーサンの身体が宙に浮き、マットへと叩きつけられた。
ジム中が静まり返る。
ゆっくりと立ち上がるイーサンは、唇の端を上げて——
「……クハハハッ!やりやがったな、コイツ!」
彼の前に立ち、拳を差し出した。
「いいだろう。お前と出てやるよ!」
彼も笑いながら、その拳に自分の拳を重ねた。
「頼りにしてるぜ、イーサン。」
朱華音が笑顔で駆け寄る。「ようやく、まともなメンバーが揃ったって感じね。」
小深山は静かに頷く。
「これで3人揃ったな。いよいよ、決勝トーナメントだ。」
その先に待つのは、栄光か、敗北か。
アリーナでの戦いが幕を開けようとしていた。




